日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地震波伝播:理論と応用

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (2) (オンラインポスター)

コンビーナ:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、西田 究(東京大学地震研究所)、岡本 京祐(産業技術総合研究所)、加藤 政史(株式会社地球科学総合研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SSS07-P17] 地震・津波波動場の時空間状態を推定するためのアジョイント方程式の導出

*前田 拓人1 (1.弘前大学大学院理工学研究科)

キーワード:地震波、津波、アジョイント方程式

稠密な観測記録に基づき,空間方向に連続量としての地震や津波の波動場を推定する研究が,不均質媒質における波動伝播問題や,地震動・津波即時予測の両面の観点から進んでいる.特に即時予測問題では,数値シミュレーションにより一歩先の状態を予測し,それを観測記録で補正・補間するデータ同化の一種である最適内挿法がさかんに活用されている.この方法は計算も簡易であり,かつ実用上も有用であることが数多くの研究から示されてきた.だが,この方法は本質的に現在の時刻のデータからの補間法であり,過去の状態から現在時刻への予測を用いるものの,その予測が観測点における観測値との残差によって破壊的に更新されてしまう.そのため,得られる時空間波動場は必ずしも支配方程式(波動方程式)に完全に適合するものではない,という弱点があった.最近我々は,津波の線形長波方程式系に対し,有限の時間区間における観測記録と数値モデルの残差を最小化させるような波動場の初期条件を求める方法を提案し,即時予測問題に整合的に利用できることを数値実験を通じて示した.本研究ではそれを一般化し,時間発展する波動伝播問題に適用できる手法導出の枠組みを示すとともに,その弾性体への応用を示す.
本研究では,一般化変分法の一種である最適制御理論に基づいて,波動場状態を推定するためのアジョイント方程式を導出した.この方法は,離散的な観測点における理論予測と観測からなる評価関数(通常は差)の2乗の有限時間区間積分を目的関数とする一般化変分法であり,この目的関数を最小化するように波動場の初期状態を推定する.評価関数が観測と予測の差であれば,これは地震学で標準的に用いられるインバージョンと同じ問題設定であるが,この方法は予測を有限少数の波源あるいは震源とグリーン関数の畳み込みで表現する必要はない.そのかわりに,支配方程式のアジョイント方程式を解くことによってその目的関数の波動場初期状態に関す微分係数を求める.微分係数が求まることにより,勾配法に基づいて目的関数を最小にする方向に逐次的な更新を実施できる.
連続体の方程式では,多くの場合そのアジョイント方程式はもとの支配方程式に類似した形状となる.線形長波津波と線形完全弾性体のSH波に関しては,アジョイント方程式を導出したのちにそれぞれ適切な変数変換を行うと,もとの方程式とアジョイント方程式が完全に一致する.ただし,線形長波方程式では体積保存則に,SH波では運動方程式に観測と予測値の残差を観測点から輻射させる体積力項が付加される.したがって,アジョイント方程式を時間逆方向に解くことは,観測点記録をもとにした逆伝播計算と密接な関係にある.アジョイント方程式ともとの支配方程式を同型にするために,変数変換が必要であることには注意が必要である.このことは,得られたアジョイント方程式の解は,この変数変換の逆変換を介して,もとの変数の初期条件の更新に用いられることになる.線形長波方程式とSH波の場合にはこの関係はたかだかアジョイント変数に倍率を掛けることに相当するが,その値は定数ではなく,不均質媒質では場所により異なる.さらに今回,あらたに3次元完全弾性体についてもアジョイント方程式を導いた.3次元弾性体のアジョイント方程式ももとの運動方程式と構成関係式と同型になるが,そのための変数変換のうち,アジョイント方程式における応力相当成分は弾性コンプライアンステンソルを介して実空間の応力に寄与することになる.このことは,地震波を震源域まで逆伝播計算した際には,得られた応力相当値ではなく,それを弾性コンプライアンステンソルに作用させたひずみ相当値が,震源における応力変動に相当するということを示唆している.