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[SSS07-P18] 地震動即時予測を目指したアジョイント方程式に基づく地震波動場の推定ー二次元SH波における数値実験ー
キーワード:即時予測、アジョイント方程式、データ同化
緊急地震速報や津波予報などの即時予測と呼ばれる技術は、地震や津波災害による被害を防ぐ際に重要な役割を果たす。その技術においては、防災性の観点から高い即時性と精度を兼ね備えた予測ができることが強く求められる。そこで、本研究では即時予測に対するアプローチをめざし、データ同化手法の一つであるアジョイント法に基づく地震波動場の状態推定の定式化ならびに実装と数値実験を行った。本研究で採用したアジョイント法は、一定の時間幅において、数値計算による理論予測値と観測点における観測記録との残差を最小とするような波動場の初期状態を逐次的に推定するものである。また、同じデータ同化手法である最適内挿法と比較すると、初期条件推定から波動場予測まで一貫して波動場の基礎方程式に適合させるということが大きな相違点として挙げられる。
アジョイント法による波動場初期条件推定の流れを説明する。まず最初に波動場の初期条件を適当に推定し、その初期条件から得られた各観測点の粒子速度の予測値と実際の観測値の残差二乗和を目的関数として定義する。アジョイント法では、この目的関数を極小値にする変数を求める最適化問題を解いていく。最適化問題から、ある微分方程式(アジョイント方程式)が誘導される。そのアジョイント方程式を現在時刻から時間をさかのぼって解くと、ある初期条件時刻におけるその解が、その時刻から現在までの目的関数の、初期条件時刻における粒子速度ならびに応力に関する偏微分係数に比例することが証明できる。二次元鉛直断面におけるSH波の場合、このようなアジョイント方程式が、観測点における予測値と観測値の残差を等価体積力項とした弾性体の運動方程式と等価なものになる。したがって、数値シミュレーションによる観測点における波形予測と、その残差を観測点から放射させる逆伝播の繰り返しにより、勾配法によって逐次的に粒子速度・応力の初期状態を推定していくことができる。
差分法による数値シミュレーションを用いて、この手法に基づく数値実験を行った。実験では、既存の深さに依存した速度構造モデルに盆地状の低速度領域を加えた、(幅)= 400 km、(深さ)= 100 kmの二次元構造モデルを用い、= 100 km、= 30 kmの位置に、モーメントテンソルを成分のみに与える線震源(横ずれ断層)を置いた。また、観測点は地表に20 km間隔で設置した。差分法は、空間は四次精度、時間は二次精度で計算し、空間グリッドは0.2 km、時間グリッドは0.025 sとした。
十分な回数のイタレーションの結果、観測記録をほぼ完全に再現する初期条件が推定され、それは仮定した震源位置とよく一致した。ただし、震源から下向きに放射された波動場の状態は、多数回のイタレーションを重ねても推定できなかった。その一方、高精度での推定のためのイタレーション回数が、この実験の場合で約1000回以上と非常に多くなった。そのため、このままでは即時予測への応用は困難であるように見える。
そこで、数値シミュレーションに用いたさまざまなパラメータを変更する試行を行った。例えば、破壊継続時間を長くして地震波を長波長にすることで、目的関数が小さくなる、すなわち推定残差が小さくなることが判明した。このことは、同手法が長周期地震動に対する初期条件推定及び即時予測へ効果的であることを示唆する。また、推定する初期条件の時刻を、より未来の方向に移動させると、同じく推定残差が小さくなることがわかった。このことは、波動場が一地点に収束している地震発生時よりも、空間的に波動場が広がった時点での波動場を初期条件とする方が、推定が容易であるということを示唆する。しかしながら、時間窓の長さや仮定する速度構造、観測点配置の影響もあるため、その普遍性の検証はこれからの課題であろう。
パラメータの調整だけでなく、観測点から残差を逆伝播する際に観測点間で波動場の内挿を行う試みもした。具体的には、各観測点を中心とするガウス関数を重み関数として残差にかけることで、内挿をおこなった。これは、アジョイント法における目的関数において、観測点の位置を空間の関数ではなく有限区間の重み関数で特徴づけることに相当し、重み関数の範囲で観測される波動場が空間連続性を持つことを示す。この内挿は、今回行った試行の中でも特にイタレーション回数の削減に有効であるとわかった。これにより、同じ推定残差を維持しつつイタレーション回数が約1/7まで減少した。ただし、その後繰り返し計算が不安定になり、結果が発散してしまうことがあった。そのため、最適化問題の適切な解を求められたとは言い難い。発散と収束の境界は勾配法における波動場の修正量を規定する重みパラメタで特徴づけられるため、その最適な値の選定も今後の課題である。
アジョイント法による波動場初期条件推定の流れを説明する。まず最初に波動場の初期条件を適当に推定し、その初期条件から得られた各観測点の粒子速度の予測値と実際の観測値の残差二乗和を目的関数として定義する。アジョイント法では、この目的関数を極小値にする変数を求める最適化問題を解いていく。最適化問題から、ある微分方程式(アジョイント方程式)が誘導される。そのアジョイント方程式を現在時刻から時間をさかのぼって解くと、ある初期条件時刻におけるその解が、その時刻から現在までの目的関数の、初期条件時刻における粒子速度ならびに応力に関する偏微分係数に比例することが証明できる。二次元鉛直断面におけるSH波の場合、このようなアジョイント方程式が、観測点における予測値と観測値の残差を等価体積力項とした弾性体の運動方程式と等価なものになる。したがって、数値シミュレーションによる観測点における波形予測と、その残差を観測点から放射させる逆伝播の繰り返しにより、勾配法によって逐次的に粒子速度・応力の初期状態を推定していくことができる。
差分法による数値シミュレーションを用いて、この手法に基づく数値実験を行った。実験では、既存の深さに依存した速度構造モデルに盆地状の低速度領域を加えた、(幅)= 400 km、(深さ)= 100 kmの二次元構造モデルを用い、= 100 km、= 30 kmの位置に、モーメントテンソルを成分のみに与える線震源(横ずれ断層)を置いた。また、観測点は地表に20 km間隔で設置した。差分法は、空間は四次精度、時間は二次精度で計算し、空間グリッドは0.2 km、時間グリッドは0.025 sとした。
十分な回数のイタレーションの結果、観測記録をほぼ完全に再現する初期条件が推定され、それは仮定した震源位置とよく一致した。ただし、震源から下向きに放射された波動場の状態は、多数回のイタレーションを重ねても推定できなかった。その一方、高精度での推定のためのイタレーション回数が、この実験の場合で約1000回以上と非常に多くなった。そのため、このままでは即時予測への応用は困難であるように見える。
そこで、数値シミュレーションに用いたさまざまなパラメータを変更する試行を行った。例えば、破壊継続時間を長くして地震波を長波長にすることで、目的関数が小さくなる、すなわち推定残差が小さくなることが判明した。このことは、同手法が長周期地震動に対する初期条件推定及び即時予測へ効果的であることを示唆する。また、推定する初期条件の時刻を、より未来の方向に移動させると、同じく推定残差が小さくなることがわかった。このことは、波動場が一地点に収束している地震発生時よりも、空間的に波動場が広がった時点での波動場を初期条件とする方が、推定が容易であるということを示唆する。しかしながら、時間窓の長さや仮定する速度構造、観測点配置の影響もあるため、その普遍性の検証はこれからの課題であろう。
パラメータの調整だけでなく、観測点から残差を逆伝播する際に観測点間で波動場の内挿を行う試みもした。具体的には、各観測点を中心とするガウス関数を重み関数として残差にかけることで、内挿をおこなった。これは、アジョイント法における目的関数において、観測点の位置を空間の関数ではなく有限区間の重み関数で特徴づけることに相当し、重み関数の範囲で観測される波動場が空間連続性を持つことを示す。この内挿は、今回行った試行の中でも特にイタレーション回数の削減に有効であるとわかった。これにより、同じ推定残差を維持しつつイタレーション回数が約1/7まで減少した。ただし、その後繰り返し計算が不安定になり、結果が発散してしまうことがあった。そのため、最適化問題の適切な解を求められたとは言い難い。発散と収束の境界は勾配法における波動場の修正量を規定する重みパラメタで特徴づけられるため、その最適な値の選定も今後の課題である。