日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地殻構造

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (13) (オンラインポスター)

コンビーナ:東 龍介(東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター)、山下 幹也(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SSS08-P03] 茨城県北部における地殻内反射面と地殻深部構造に対する解釈

*椎名 高裕1雨澤 勇太1内出 崇彦1堀川 晴央1今西 和俊1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:地殻内反射面、茨城県北部、S波反射波

2011年東北地方太平洋沖地震以降,茨城県北部および福島県浜通りでは地殻内地震の活動が活発化した.これらの地域では深さ10 km以浅の活動に加えて,地殻内地震の発生深度としてはやや深い,深さ15-20 kmでも地震が発生する,という特徴的な地震活動が知られている.また,茨城県北部では深さ15-25 km付近にS波反射面が存在することが指摘されている[臼田・他,2022,地震].このため,複雑な地殻構造がこれらの地域の地震活動を特徴付ける要因の一つと考えられている.しかしながらのその詳しい関係は未だよくわかっていない.
 産業技術総合研究所地質調査総合センター(GSJ)では2016年6月から茨城県北部地域において地震観測を実施している.この地震観測網において明瞭なS波後続波が観測された.この後続波は臼田・他 [2022]が報告した地殻内反射面で励起した反射波と解釈できる.そこで,椎名・他 [2022,地震学会]では,GSJの地震観測網および周辺の定常観測点で観測されたS波反射波の到達時刻を解析して地殻内反射面の分布を推定した.その結果,茨城県北部下におけるS波反射面の存在が強く支持されたとともに,この地殻内反射面がほぼ北西に26度程度の傾斜を持つことが明らかになった.
 本発表では,椎名・他 [2022]が推定した地殻内反射面の形状を詳しく検討し,茨城県北部および福島県浜通りにおける地殻構造や地震活動との関係を議論する.推定された地殻内反射面の水平位置は臼田・他 [2022]のイメージング結果に比べてやや南側に位置する.水平な反射面を仮定してイメージングを行った臼田・他[2022]に対して,椎名・他[2022]では走向や傾斜を未知パラメータとして反射面の形状を推定しており,そのような解析手法の違いが結果の違いに現れていると考えられる.また,この2つの研究では解析した地震の発生時期が異なり,臼田・他 [2022]では2012年の地震を,椎名・他 [2022]は2016年以降の地震を解析している.このことから,茨城県北部下には,少なくとも約10年にわたり安定して地殻内反射面が存在することが示唆される.
 茨城県北部では,下部地殻から最上部マントル付近の地震波速度が遅く[e.g., Tong et al., 2012, Solid Earth],電気比抵抗が小さい[Umeda et al., 2015, JGR]ことが知られている.この低速度・低比抵抗域は地殻流体の存在を反映すると考えられている[e.g., Umeda et al., 2015].推定された地殻内反射面は低速度・低比抵抗領域のほぼ直上に分布している.すなわち,地殻内反射面は地殻流体の富む領域の上端に対応していると解釈できる.なお,地殻内反射面の北西傾斜に対応するように,低速度域の上端は北側(福島県浜通り側)で深くなる[e.g., Tong et al., 2012].臼田・他 [2022]は福島県浜浜通り下のモホ面付近にも反射面の存在を報告している.これらの反射面あるいは低速度域の上端は両地域の地震活動域よりも深くに位置している.このことから,地殻流体の分布が地震活動の広がり,特に地震の発生する深さの下限に大きく影響していることを示している.

謝辞: 本研究では気象庁一元化震源カタログおよび防災科学技術研究所Hi-netの観測波形データを使用しました.また,本研究は文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト) [JPJ010217]ならびにJST CREST [JPMJCR1763]の支援をいただきました.記して感謝申し上げます