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[SSS09-01] 成層構造における直達S波の透過率を考慮した地震動距離減衰特性の検討:残差の方位特性
キーワード:スペクトルインバージョン、回帰残差、方位依存特性
1.はじめに
内陸地震による強震動予測の精度向上を目指して直達S波の透過率を考慮した距離減衰モデルを提案している.既報[池浦(2021), 池浦(2022a), 池浦(2022b)]では,このモデルを減衰構造が相対的に均質である近畿地方,福島県浜通・茨城県北部地方,中国地方に適用し,震源近傍における再現精度の向上を確認してきた.ただし,その精度はいずれの地域でも全体として自然対数の標準偏差で0.4(倍率にすると1.5倍)程度にとどまる.このばらつきを更に減少させるには距離減衰モデルに震源からの距離だけでなく方位による違いを考慮する必要がある.そこで,既報の回帰残差について方位依存性を調べ,発震機構によるラディエーションパターン効果と移動震源によるディレクティビティ効果を検討した.
2.回帰残差とその方位分布
横ずれ地震と縦ずれ地震の例としてそれぞれ2000年鳥取県西部地震(M7.3)と余震,茨城県北部の地震群を選び,0.7Hz帯域の残差に基づくOBS/CALの方位分布を図1,図2に示す.同図で桃色と緑色の縦線はF-netによるメカニズムの走向方向を表す.図1の2000年鳥取県西部地震(M7.3)の残差分布に現れるピークはF-netの走向方向と一致しており,特に大きな残差がディレクティビティ効果で解釈できることが期待される.
3.方位依存性モデル
地震i地点jの回帰残差における方位依存性DDij(f)を次式でモデル化した.
ln[DDij(f)]=ci(f)*ln[RPij]+di(f)*ln[RDij]+ei(f) …(1)
ここに,RPijとRDijは地震iから地点へのラディエーションパターン係数とディレクティビティ関数であり,ci(f)とdi(f)は地震毎にRPijとRDijの周波数特性を表す0~1の係数,ei(f)は地震毎の残差総和が0となるための定数である.このうち,RPijはF-netのメカニズム解に従い,横ずれ地震に対しては地点への射出方位φj,射出角θ=π/2におけるSH波とSV波のラディエーションパターン係数の二乗和平方根,縦ずれ地震に対してはφj方向,θ=0~πのSH波とSV波のラディエーションパターン係数の二乗和平均平方根を与える.一方,RDijについては水平なユニラテラルの線震源を考え,次式[Ben-Menahem(1961)]を用いた.
RDij={1-mi*cos(φj-ψi)}-1 …(2)
ここに,miは地震iの破壊伝播速度のマッハナンバー(S波速度βに対する破壊伝播速度Vrの比:Vr/β),ψiは地震iの破壊伝播方向の地表面投影の方位である.
4.残差への当てはめ結果
2000年鳥取県西部地震(M7.3)の検討結果として,(mi,ψi)探索の誤差曲面と (ci(f), di(f))探索の誤差曲面を図3,図4に,ci(f), di(f), ei(f)と残差rmsおよび低周波数帯域における当てはめ結果を図5,図6に示す.また,2016年茨城県北部地震(M6.3)のついても同様に(mi,ψi)探索の誤差曲面と (ci(f), di(f))探索の誤差曲面およびci(f), di(f), ei(f)と残差rms,低周波数帯域の当てはめ結果を図7~図10に示す.いずれ地震でもmiはほぼ1であるが,di(f)が低周波数領域で0.2程度であるため,極端なディレクティビティ効果がそのまま現れているわけではない.
5.残差ばらつきの低減量と課題
上記の結果に基づいて,既往の回帰残差から方位依存性による変動分を差し引き,方位依存性を考慮することによってばらつきがどの程度低減されるか検討したところ,近畿,福島県浜通・茨城県北部,中国のいずれの領域でも残差が低減され,特に,福島県浜通・茨城県北部と中国地方では低周波数領域では0.1以上の大幅なばらつき低減効果が予想された.ただし,本来,方位依存性と距離減衰特性は独立のはずであるが,データ分布が必ずしも均質ではないため,両者は相互に干渉する.したがって,方位依存性と距離減衰特性の評価結果がそれぞれ一定になるまでイタレーションが必要かもしれない.今後の課題である.
謝辞 防災科学技術研究所のK-NET, KiK-netの強震動データとF-netのメカニズム解を使用させていただきました.記して感謝いたします.
文献 Ben-Menahem(1961)BSSA, 池浦(2021)日本地震学会秋季大会, 池浦(2022a)JpGU2022, 池浦(2022b)日本地震学会秋季大会
内陸地震による強震動予測の精度向上を目指して直達S波の透過率を考慮した距離減衰モデルを提案している.既報[池浦(2021), 池浦(2022a), 池浦(2022b)]では,このモデルを減衰構造が相対的に均質である近畿地方,福島県浜通・茨城県北部地方,中国地方に適用し,震源近傍における再現精度の向上を確認してきた.ただし,その精度はいずれの地域でも全体として自然対数の標準偏差で0.4(倍率にすると1.5倍)程度にとどまる.このばらつきを更に減少させるには距離減衰モデルに震源からの距離だけでなく方位による違いを考慮する必要がある.そこで,既報の回帰残差について方位依存性を調べ,発震機構によるラディエーションパターン効果と移動震源によるディレクティビティ効果を検討した.
2.回帰残差とその方位分布
横ずれ地震と縦ずれ地震の例としてそれぞれ2000年鳥取県西部地震(M7.3)と余震,茨城県北部の地震群を選び,0.7Hz帯域の残差に基づくOBS/CALの方位分布を図1,図2に示す.同図で桃色と緑色の縦線はF-netによるメカニズムの走向方向を表す.図1の2000年鳥取県西部地震(M7.3)の残差分布に現れるピークはF-netの走向方向と一致しており,特に大きな残差がディレクティビティ効果で解釈できることが期待される.
3.方位依存性モデル
地震i地点jの回帰残差における方位依存性DDij(f)を次式でモデル化した.
ln[DDij(f)]=ci(f)*ln[RPij]+di(f)*ln[RDij]+ei(f) …(1)
ここに,RPijとRDijは地震iから地点へのラディエーションパターン係数とディレクティビティ関数であり,ci(f)とdi(f)は地震毎にRPijとRDijの周波数特性を表す0~1の係数,ei(f)は地震毎の残差総和が0となるための定数である.このうち,RPijはF-netのメカニズム解に従い,横ずれ地震に対しては地点への射出方位φj,射出角θ=π/2におけるSH波とSV波のラディエーションパターン係数の二乗和平方根,縦ずれ地震に対してはφj方向,θ=0~πのSH波とSV波のラディエーションパターン係数の二乗和平均平方根を与える.一方,RDijについては水平なユニラテラルの線震源を考え,次式[Ben-Menahem(1961)]を用いた.
RDij={1-mi*cos(φj-ψi)}-1 …(2)
ここに,miは地震iの破壊伝播速度のマッハナンバー(S波速度βに対する破壊伝播速度Vrの比:Vr/β),ψiは地震iの破壊伝播方向の地表面投影の方位である.
4.残差への当てはめ結果
2000年鳥取県西部地震(M7.3)の検討結果として,(mi,ψi)探索の誤差曲面と (ci(f), di(f))探索の誤差曲面を図3,図4に,ci(f), di(f), ei(f)と残差rmsおよび低周波数帯域における当てはめ結果を図5,図6に示す.また,2016年茨城県北部地震(M6.3)のついても同様に(mi,ψi)探索の誤差曲面と (ci(f), di(f))探索の誤差曲面およびci(f), di(f), ei(f)と残差rms,低周波数帯域の当てはめ結果を図7~図10に示す.いずれ地震でもmiはほぼ1であるが,di(f)が低周波数領域で0.2程度であるため,極端なディレクティビティ効果がそのまま現れているわけではない.
5.残差ばらつきの低減量と課題
上記の結果に基づいて,既往の回帰残差から方位依存性による変動分を差し引き,方位依存性を考慮することによってばらつきがどの程度低減されるか検討したところ,近畿,福島県浜通・茨城県北部,中国のいずれの領域でも残差が低減され,特に,福島県浜通・茨城県北部と中国地方では低周波数領域では0.1以上の大幅なばらつき低減効果が予想された.ただし,本来,方位依存性と距離減衰特性は独立のはずであるが,データ分布が必ずしも均質ではないため,両者は相互に干渉する.したがって,方位依存性と距離減衰特性の評価結果がそれぞれ一定になるまでイタレーションが必要かもしれない.今後の課題である.
謝辞 防災科学技術研究所のK-NET, KiK-netの強震動データとF-netのメカニズム解を使用させていただきました.記して感謝いたします.
文献 Ben-Menahem(1961)BSSA, 池浦(2021)日本地震学会秋季大会, 池浦(2022a)JpGU2022, 池浦(2022b)日本地震学会秋季大会