11:15 〜 11:30
[SSS09-03] 2021年千葉県北西部地震(Mw5.9)の稠密地震観測記録を用いたM7クラス地震動の推定
首都及びその周辺地域では、過去にマグニチュード7~8クラスの地震が繰り返し発生しており、M7クラスの地震が30年以内に発生する確率は70パーセント超※1とされている。内閣府ではこれらの地震に対する被害想定を公表※2している。
旭化成株式会社、旭化成ホームズ株式会社と防災科学技術研究所が開発、運用しているIoT防災情報システムLONGLIFE AEDGiS(小山他(2020)※3)は、2021年千葉県北西部の地震(Mw5.9)について、23区を中心に93箇所で地震動を観測した。この地震では23区で最大5強の揺れを記録した。この震源域では2005年にも同規模(Mw6.0)の地震が発生している。1923年安政江戸地震もこの領域で発生した可能性が指摘されている。(佐藤(2016)※4)。
本検討では、93箇所で得られた観測記録を用いた経験的グリーン関数法により、千葉県北西部を震源とするM7クラスの地震動について、複数ケースの将来予測を行った。地震規模はM7.3と、一回り小さいが発生確率の高いM6.8を対象とした。各種震源パラメータは、地震の不確実性を幅で示すため、「レシピ※5」の方法を基本に、応力降下量を2倍としたケースも設定した。さらに、断層面上のアスペリティ配置を9通り設定して解析を行った。
地表で観測された記録は、小規模微動アレイによるS波速度構造を用いた逆増幅解析によって工学的基盤波とした。これを要素地震として、経験的グリーン関数法を適用することでM7クラスの工学的基盤波を作成した。さらに、逐次積分による非線形解析を実施することで地表の揺れを予測した。
応答スペクトル(h=0.05)や計測震度を指標として解析結果を整理した。応答は建築基準法の告示スペクトルと比較すると、M7.3では同等となり、M6.8ではやや下回る傾向となった。一方、周期特性では、建築物へのダメージが大きい1秒前後で卓越する傾向であった。応力降下量が倍異なる影響は計測震度で0.6程度の差があり、震度分布の傾向は同じであった。アスペリティ配置による差は、計測震度で0.2程度、分布がわずかに異なることを確認した。なお、解析結果については距離減衰式(Morikawa and Fujiwara (2013)※6)によって妥当性を確認した。今回検討した複数ケースのうち、揺れが最大となるM7.3かつ応力降下量を2倍にした設定が、内閣府の想定している震度と同レベルであった。
93地点の地震動予測結果について、個別に分析して精度の向上を図っていく必要がある。特に、軟弱な地盤が堆積する地点では表層地盤の非線形効果が地震動に与える影響が大きいこと改めて確認されている。今後、93箇所の予測結果を、AEDGiSの方法を用いて23区全域に展開していく予定である。また、新たな記録が得られたら引き続き、首都直下地震像の解明のため検討していく。
謝辞:本研究は旭化成株式会社、旭化成ホームズ株式会社と防災科学技術研究所によるAEDGiSを活用した首都直下地震動の推定研究の一環として実施しました。遂行にあたり、観測データの提供並びに貴重な御意見を頂いた方々に深く感謝いたします。
参考文献:※1:地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2004, 相模トラフ沿いの地震活動の長期評価について, pp.1-58. ※2:内閣府, 首都直下地震モデル検討会, 2013, 首都直下のM7クラスの地震及び相模トラフ沿いのM8クラスの地震等の震源断層モデルと震度分布・津波高等に関する報告書. ※3:小山雅人, 藤原広行, 2020, 防災情報システムの開発 その1 ―統合防災情報システム構想と地震被害即時把握システム―, 日本建築学会大会学術講演梗概集, pp713-714. ※4:佐藤智美, 2016, 経験的グリーン関数法に基づく1855年安政江戸地震の広帯域震源モデルと首都圏及び広域での強震動の推定. 日本建築学会構造系論文集, 第81巻, 第727号, pp.1423-1433. ※5:地震調査研究推進本部 地震調査委員会, 2020, 震源断層を特定した地震の強震動予測手法 (「レシピ」), https://www.jishin.go.jp/evaluation/strong_motion/strong_motion_recipe/. ※6:Nobuyuki Morikawa, and Hiroyuki Fujiwara, 2013, A New Ground Motion Prediction Equation for Japan Applicable up to M9 Mega-Earthquake, Journal of Disaster Research Vol.8, No.5.
旭化成株式会社、旭化成ホームズ株式会社と防災科学技術研究所が開発、運用しているIoT防災情報システムLONGLIFE AEDGiS(小山他(2020)※3)は、2021年千葉県北西部の地震(Mw5.9)について、23区を中心に93箇所で地震動を観測した。この地震では23区で最大5強の揺れを記録した。この震源域では2005年にも同規模(Mw6.0)の地震が発生している。1923年安政江戸地震もこの領域で発生した可能性が指摘されている。(佐藤(2016)※4)。
本検討では、93箇所で得られた観測記録を用いた経験的グリーン関数法により、千葉県北西部を震源とするM7クラスの地震動について、複数ケースの将来予測を行った。地震規模はM7.3と、一回り小さいが発生確率の高いM6.8を対象とした。各種震源パラメータは、地震の不確実性を幅で示すため、「レシピ※5」の方法を基本に、応力降下量を2倍としたケースも設定した。さらに、断層面上のアスペリティ配置を9通り設定して解析を行った。
地表で観測された記録は、小規模微動アレイによるS波速度構造を用いた逆増幅解析によって工学的基盤波とした。これを要素地震として、経験的グリーン関数法を適用することでM7クラスの工学的基盤波を作成した。さらに、逐次積分による非線形解析を実施することで地表の揺れを予測した。
応答スペクトル(h=0.05)や計測震度を指標として解析結果を整理した。応答は建築基準法の告示スペクトルと比較すると、M7.3では同等となり、M6.8ではやや下回る傾向となった。一方、周期特性では、建築物へのダメージが大きい1秒前後で卓越する傾向であった。応力降下量が倍異なる影響は計測震度で0.6程度の差があり、震度分布の傾向は同じであった。アスペリティ配置による差は、計測震度で0.2程度、分布がわずかに異なることを確認した。なお、解析結果については距離減衰式(Morikawa and Fujiwara (2013)※6)によって妥当性を確認した。今回検討した複数ケースのうち、揺れが最大となるM7.3かつ応力降下量を2倍にした設定が、内閣府の想定している震度と同レベルであった。
93地点の地震動予測結果について、個別に分析して精度の向上を図っていく必要がある。特に、軟弱な地盤が堆積する地点では表層地盤の非線形効果が地震動に与える影響が大きいこと改めて確認されている。今後、93箇所の予測結果を、AEDGiSの方法を用いて23区全域に展開していく予定である。また、新たな記録が得られたら引き続き、首都直下地震像の解明のため検討していく。
謝辞:本研究は旭化成株式会社、旭化成ホームズ株式会社と防災科学技術研究所によるAEDGiSを活用した首都直下地震動の推定研究の一環として実施しました。遂行にあたり、観測データの提供並びに貴重な御意見を頂いた方々に深く感謝いたします。
参考文献:※1:地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2004, 相模トラフ沿いの地震活動の長期評価について, pp.1-58. ※2:内閣府, 首都直下地震モデル検討会, 2013, 首都直下のM7クラスの地震及び相模トラフ沿いのM8クラスの地震等の震源断層モデルと震度分布・津波高等に関する報告書. ※3:小山雅人, 藤原広行, 2020, 防災情報システムの開発 その1 ―統合防災情報システム構想と地震被害即時把握システム―, 日本建築学会大会学術講演梗概集, pp713-714. ※4:佐藤智美, 2016, 経験的グリーン関数法に基づく1855年安政江戸地震の広帯域震源モデルと首都圏及び広域での強震動の推定. 日本建築学会構造系論文集, 第81巻, 第727号, pp.1423-1433. ※5:地震調査研究推進本部 地震調査委員会, 2020, 震源断層を特定した地震の強震動予測手法 (「レシピ」), https://www.jishin.go.jp/evaluation/strong_motion/strong_motion_recipe/. ※6:Nobuyuki Morikawa, and Hiroyuki Fujiwara, 2013, A New Ground Motion Prediction Equation for Japan Applicable up to M9 Mega-Earthquake, Journal of Disaster Research Vol.8, No.5.