11:30 〜 11:45
[SSS09-04] 地表稠密アレイと大深度観測を用いた三次元地震波伝播性状の評価
キーワード:アレイ解析、鉛直アレイ、多重反射波
1.はじめに
柏崎刈羽原子力発電所では,2007年新潟県中越沖地震をきっかけに観測点30点からなる地表稠密アレイ観測と深さ1kmを超す大深度ボーリング孔底での地震観測が実施されている.これらの記録は,敷地の地震動特性の分析に活用されているが,地盤中の三次元的な地震波伝播性状の理解にも有効である.
大深度を含む鉛直アレイ観測記録については,P波・S波の初動部において,パルス的な入射波が地表に向かって伝播していく様子が確認され,表層の地盤モデルとの対応が検討されている[例えばFujioka et al.(2016)].ただし,地表稠密アレイ記録と組み合わせて用いた事例は少ないことから,Mj4~5クラスの2地震について,大深度観測と地表稠密アレイの観測記録を組み合わせて解析した事例を紹介する.
2.解析データ
柏崎刈羽原子力発電所では,従来から実施されていた敷地内3地点の鉛直アレイ地震観測(最大深度300m)に加え,2007年新潟県中越沖地震後には地表稠密アレイ(地表30地点:2010年~)及び,地表と地中からなる大深度地震観測[S孔(深度1022m):2014年~,E孔(深度1500m):2017年~]が実施されている.なお,それぞれ独立した観測システムであり,GPSで時刻合わせを行っている.今回の解析では,主に地表稠密アレイと大深度地震観測の記録を用いた.
検討対象とした地震は,2020年8月6日新潟県中越地方の地震(Mj5.1,深さ186km)と2021年9月24日新潟県上中越沖の地震(Mj4.1,深さ16km)である.震央距離はいずれも20~23kmであるため,入射角が大きく異なる事例である.両地震とも速度波形で見るとパルス状の入射波が明瞭で,S波初動から5~7秒後に明瞭な後続波が確認できる.
3.地表稠密アレイを用いた解析
地震波の到来方向を検討するために地表稠密アレイ記録を用いてセンブランス解析[Neidell and Taner(1971)]を試みた(Fig.1参照).センブランス解析には,各成分の速度波形を用い,解析時間長は2秒とした.用いた観測点は2020年の地震は25点,2021年の地震は26点である.
2020年の地震では,P波初動部,S波初動部ともほぼ敷地直下から伝播している.ただし,敷地南東側の標高がやや高いこと,敷地南側の表層地盤が厚いことの影響で,震央が南東方向にあるにもかかわらず,S波初動がやや北西側から伝播している結果となった.後続波については見かけ速度がS波初動より遅く(約2 km/s),南側から伝播が示された.
2021年の地震では,P波初動は震央方向から速度5 km/sで伝播し,S波初動もほぼ震央方向から速度約3 km/sでの伝播となった.顕著な後続波については,S波初動とほぼ同じ方向からの伝播で約3.0km/sの速度が検出された.
3.大深度観測を用いた解析
S孔,E孔の大深度観測記録を用いて地下深部からの上昇波と地表からの反射フェーズ(下降波)の特定を試みた.P波初動部・S波初動については,両地震とも上昇波・下降波が確認できた.地中観測点と地表観測点間の時間差は,2020年の地震ではPS検層結果とほぼ一致し,2021年の地震ではやや短く斜め入射と整合的な値を示していた.
次に,顕著な後続波の伝播性状を検討した.2020年の地震における後続波は,S波初動部と逆位相で上昇波・下降波が確認できるが,その時間間隔は初動部における時間間隔よりも短い.また,S孔に比べE孔の方が後続波の出現が遅い.2021年の地震における後続波は,S波初動部と逆位相で上昇波・下降波が確認でき,その時間差はS波初動部と同様であった.なお,2021年の後続波出現時刻はS波初動の5.6~5.7秒後であり,敷地の地下構造モデルにおける地震基盤から上の往復走時に近い.
4.まとめ
柏崎刈羽原子力発電所敷地内の地表稠密アレイ及び大深度地震観測の記録を用いて,2020年8月6日新潟県中越地方の地震と2021年9月24日新潟県上中越沖の地震を対象にP波初動,S波初動及び顕著な後続波について三次元的な波動伝播性状を検討した.結果は次の通りである.
2020年の地震では,P波初動,S波初動はいずれも敷地直下から入射していると考えられる.また,後続波は,敷地に対し角度を持って入射しており,南側からの伝播も確認されることから,敷地直下で多重反射した波ではないと判断される.周辺地域の基盤形状の不整形が影響していると考えられる.
2021年の地震では,P波初動は震央方向から,S波初動,後続波は震央よりやや西側からの伝播が確認された.また,後続波は,S波初動とほぼ同じ見かけ速度であり,大深度観測において上昇波・下降波も確認できていることから実体波(S波)と考えられる.また,後続波は,位相や出現時刻から考えて震央と観測点間での地震基盤反射波と考えられる.
文献
Fujioka, M. et al. (2016), Deep vertical array observation in Kashiwazaki-Kariwa nuclear power station, Proceedings of the 5th IASPEI/IAEE International Symposium: Effects of Surface Geology on Seismic Motion, P204E.
Neidell, N.S. and M.T. Taner (1971), Semblance and Other coherency measures for multichannel data, Geophysics, Vol.36, pp.482-497.
柏崎刈羽原子力発電所では,2007年新潟県中越沖地震をきっかけに観測点30点からなる地表稠密アレイ観測と深さ1kmを超す大深度ボーリング孔底での地震観測が実施されている.これらの記録は,敷地の地震動特性の分析に活用されているが,地盤中の三次元的な地震波伝播性状の理解にも有効である.
大深度を含む鉛直アレイ観測記録については,P波・S波の初動部において,パルス的な入射波が地表に向かって伝播していく様子が確認され,表層の地盤モデルとの対応が検討されている[例えばFujioka et al.(2016)].ただし,地表稠密アレイ記録と組み合わせて用いた事例は少ないことから,Mj4~5クラスの2地震について,大深度観測と地表稠密アレイの観測記録を組み合わせて解析した事例を紹介する.
2.解析データ
柏崎刈羽原子力発電所では,従来から実施されていた敷地内3地点の鉛直アレイ地震観測(最大深度300m)に加え,2007年新潟県中越沖地震後には地表稠密アレイ(地表30地点:2010年~)及び,地表と地中からなる大深度地震観測[S孔(深度1022m):2014年~,E孔(深度1500m):2017年~]が実施されている.なお,それぞれ独立した観測システムであり,GPSで時刻合わせを行っている.今回の解析では,主に地表稠密アレイと大深度地震観測の記録を用いた.
検討対象とした地震は,2020年8月6日新潟県中越地方の地震(Mj5.1,深さ186km)と2021年9月24日新潟県上中越沖の地震(Mj4.1,深さ16km)である.震央距離はいずれも20~23kmであるため,入射角が大きく異なる事例である.両地震とも速度波形で見るとパルス状の入射波が明瞭で,S波初動から5~7秒後に明瞭な後続波が確認できる.
3.地表稠密アレイを用いた解析
地震波の到来方向を検討するために地表稠密アレイ記録を用いてセンブランス解析[Neidell and Taner(1971)]を試みた(Fig.1参照).センブランス解析には,各成分の速度波形を用い,解析時間長は2秒とした.用いた観測点は2020年の地震は25点,2021年の地震は26点である.
2020年の地震では,P波初動部,S波初動部ともほぼ敷地直下から伝播している.ただし,敷地南東側の標高がやや高いこと,敷地南側の表層地盤が厚いことの影響で,震央が南東方向にあるにもかかわらず,S波初動がやや北西側から伝播している結果となった.後続波については見かけ速度がS波初動より遅く(約2 km/s),南側から伝播が示された.
2021年の地震では,P波初動は震央方向から速度5 km/sで伝播し,S波初動もほぼ震央方向から速度約3 km/sでの伝播となった.顕著な後続波については,S波初動とほぼ同じ方向からの伝播で約3.0km/sの速度が検出された.
3.大深度観測を用いた解析
S孔,E孔の大深度観測記録を用いて地下深部からの上昇波と地表からの反射フェーズ(下降波)の特定を試みた.P波初動部・S波初動については,両地震とも上昇波・下降波が確認できた.地中観測点と地表観測点間の時間差は,2020年の地震ではPS検層結果とほぼ一致し,2021年の地震ではやや短く斜め入射と整合的な値を示していた.
次に,顕著な後続波の伝播性状を検討した.2020年の地震における後続波は,S波初動部と逆位相で上昇波・下降波が確認できるが,その時間間隔は初動部における時間間隔よりも短い.また,S孔に比べE孔の方が後続波の出現が遅い.2021年の地震における後続波は,S波初動部と逆位相で上昇波・下降波が確認でき,その時間差はS波初動部と同様であった.なお,2021年の後続波出現時刻はS波初動の5.6~5.7秒後であり,敷地の地下構造モデルにおける地震基盤から上の往復走時に近い.
4.まとめ
柏崎刈羽原子力発電所敷地内の地表稠密アレイ及び大深度地震観測の記録を用いて,2020年8月6日新潟県中越地方の地震と2021年9月24日新潟県上中越沖の地震を対象にP波初動,S波初動及び顕著な後続波について三次元的な波動伝播性状を検討した.結果は次の通りである.
2020年の地震では,P波初動,S波初動はいずれも敷地直下から入射していると考えられる.また,後続波は,敷地に対し角度を持って入射しており,南側からの伝播も確認されることから,敷地直下で多重反射した波ではないと判断される.周辺地域の基盤形状の不整形が影響していると考えられる.
2021年の地震では,P波初動は震央方向から,S波初動,後続波は震央よりやや西側からの伝播が確認された.また,後続波は,S波初動とほぼ同じ見かけ速度であり,大深度観測において上昇波・下降波も確認できていることから実体波(S波)と考えられる.また,後続波は,位相や出現時刻から考えて震央と観測点間での地震基盤反射波と考えられる.
文献
Fujioka, M. et al. (2016), Deep vertical array observation in Kashiwazaki-Kariwa nuclear power station, Proceedings of the 5th IASPEI/IAEE International Symposium: Effects of Surface Geology on Seismic Motion, P204E.
Neidell, N.S. and M.T. Taner (1971), Semblance and Other coherency measures for multichannel data, Geophysics, Vol.36, pp.482-497.