日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 強震動・地震災害

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:00 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)、松元 康広(株式会社構造計画研究所)、座長:大堀 道広(福井大学附属国際原子力工学研究所)、中村 武史(一般財団法人電力中央研究所)

13:45 〜 14:00

[SSS09-06] 2023年トルコ-シリア地震による地震動の距離減衰特性とその他内陸巨大地震の比較

*司 宏俊1古村 孝志1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:トルコ‐シリア地震、最大加速度、震源近傍地震動

1.はじめに
2023年2月6日トルコ中南部では、現地時間2月6日1時17分ごろに東アナトリア断層帯(EAF)が動きMw7.8の地震が発生し、続いて約9時間後の同日10時24分ごろにMw7.8の地震と異なる断層でMw7.5の地震も発生した。これらの地震により、トルコとシリアにおいて甚大な被害をもたらし、日本時間2月16日未明までには両国の被災地で4万も超える犠牲者が確認された。
これらの地震の際に断層近傍を含む多数の強震記録が得られているため,これらの観測記録を分析して、地震被害をもたらす地震動の特性を明らかにすることが地震防災上重要と考えられる。本稿では,Mw7.8の地震について現時点で入手可能な強震記録と震源断層の情報を用いて、断層極近傍も含めて地震動最大加速度(PGA)の距離減衰特性に関して検討を行ったうえ、強震記録の得られている近年発生した3つの内陸巨大地震の観測記録との比較も行った。
2.データ
検討に用いた強震記録はトルコ災害緊急事態対策庁(AFAD)によって公表されているが、観測波形データの取得はかなり時間がかかり一部しか取得していないため、本研究ではAFADで公表されている271観測点で得られている最大加速度値を用いた。なお、公表されている水平2成分の最大加速度値のうち大きいほうの値をPGAとした。観測記録の断層最短距離を計算するための断層モデルについては,2月15日時点ではMilliner(2023)により衛星Sentinel2のデータ分析から得られた断層線の位置とUSGS(2023)により地殻変動と遠地地震波のインバージョンで得られた3つのセグメントからなる断層モデルが公表されているが、予備検討による地震動のバラツキがより小さかったMilliner(2023)によるモデルを利用した。断層最短距離を計算する際には、断層上端深さは一律に1kmと仮定し、断層は鉛直断層と仮定した。また、比較検討対象となる近年発生した内陸巨大地震はMw7.9の2002年Denali地震、2008年四川地震及びMw7.8の2016年Kaikoura地震とした。これらの地震の強震記録はそれぞれAncheta et al. (2014), Bradley et al. (2017)及びSi et al. (2010)によるものを用いた。なお、検討対象地震のモーメントマグニチュードはGlobal CMT Project によるものを用いた。
3.結果
Fig.1に、本研究で得られたトルコ‐シリア地震のPGA距離減衰特性を示している。同図には比較のために、司・翠川(1999)による地震動予測式の平均と標準偏差の予測値も示されている。図から、観測記録が大きくバラついていることが確認できる。今回の地震では、断層極近傍の観測記録も含めて、断層最短距離10km以内のものは27記録ある。そのうち17記録は地震動予測式の標準偏差の範囲内に収まっているが、5記録は200ガル以下となり、距離が同程度のほかの観測記録より大きく下回ることが確認できた。なお、距離が40㎞範囲内では地震動予測式による予測値を上回る11の観測記録のうち、1記録は震央付近、9記録は震央より南西方向に位置する震源断層に沿って分布していることが確認できた。
一方、トルコ‐シリア地震とその他の内陸巨大地震の地震動距離減衰特性との比較では、2002年Mw7.9Denali地震と2016年Mw7.8Kaikoura地震の観測記録はトルコ‐シリア地震のそれに包含されていることが確認できた。また、2008年Mw7.9四川地震の観測記録は距離約100km以内では同様にトルコ‐シリア地震のそれに包含されているが、それより遠距離においては四川地震による観測記録のほうは平均的に振幅が大きいことが見受けられた。

参考文献:Ancheta et al. (2014):Earthquake Spectra; Bradley et al. (2015),SRL;Milliner(2023):Caltech; Si et al. (2010),7thCUEE&5thICEE.
謝辞:本研究においてはAFADによる観測記録を使用した。記して感謝を申し上げます。