日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 強震動・地震災害

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:00 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)、松元 康広(株式会社構造計画研究所)、座長:大堀 道広(福井大学附属国際原子力工学研究所)、中村 武史(一般財団法人電力中央研究所)

14:15 〜 14:30

[SSS09-08] 2022年11月9日茨城県南部の地震(MJMA4.9)における茨城県城里町小勝の震度5強に関する考察

*鈴木 亘1先名 重樹1青井 真1 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所)

キーワード:大震度成因、地盤増幅、高周波数地震波、震度計算用フィルタ、茨城県南部の地震

2022年11月9日17時40分に茨城県南部の深さ51 kmを震源として発生した気象庁マグニチュード(MJMA)4.9の地震(以下、「2022年の地震」と呼ぶ)において、震央の北東36 kmに位置する茨城県震度計の城里町小勝で震度5強を観測した。その他の震度観測点での最大震度は4であり、城里町小勝の震度は他と比べて顕著に大きかった。城里町小勝の震度観測点は2018年3月22日に観測が開始されている。それ以降に茨城県南部を震源として発生したMJMA5.0の3地震では、周辺の震度計と比べて特別に大きい震度が観測されている訳ではない。本発表では2022年の地震において、城里町小勝で周辺より2階級以上大きい震度5強が観測された理由を考察する。
2022年の地震における城里町小勝の加速度波形は水平2成分とも振幅が500 Galを超えている。水平2成分の加速度フーリエスペクトルは7~8 Hzにピークを持ち、波形の目視でも、この高周波数成分のモノトニックな波群が卓越していることが確認される。加速度波形に震度計算のためのフィルタを適用すると、水平成分について波形の形状はフィルタ前後で大きく変わらず、振幅は100~200 Galとなった。震度計算では0.5 Hzを中心とした周波数成分が重視され高周波数成分の影響は小さい印象があるが、本地震動では高周波数帯域の振幅が大きく卓越しており、大きな震度となる程度の振幅がフィルタ後も残ることが分かった。
城里町小勝の地盤構造を調査するため、2022年の地震後の11月20日に震度計近傍で常時微動の極小アレイ探査を行った。微動アレイデータの逆解析からは、地下5 m以深のVS 400 m/sの層の上に、VS 200 m/s未満の表層が乗る浅部地盤構造モデルが推定された。この地盤構造モデルから計算されるVS 400 m/sの層から地表への伝達関数は8 Hzにピークを持ち、2022年の地震での水平動の卓越周波数とほぼ一致する。震度計周辺の表層の地盤構造が、2022年の地震において大きな震度をもたらした7~8 Hzに卓越した地震動の一因と考えられる。
但し先に述べたように、発生位置が近く同規模の3地震では城里町小勝だけ震度が特別に大きいということはなく、2022年の地震における大きな震度は浅部地盤構造以外の要因も影響しているはずである。2022年の地震と他3地震(2018年11月27日、2020年4月12日、2021年12月12日)におけるK-NET及びKiK-net観測点の周期0.1秒と0.15秒の加速度応答分布は地震間で特徴が異なり、2022年の地震においては城里町小勝周辺の茨城県中北部から栃木県にかけての領域で応答値が他の地震よりも大きい。一方、周期0.5秒や1秒のより低い周波数帯域では、2022年の地震の応答値は他の地震と同程度かやや小さい。震源の影響か深部の地下構造の影響かはより詳細な分析が必要であるが、2022年の地震では城里町小勝を含む震央の北方に対し、高周波数成分に富む地震波が伝播したことがもう一つの要因と考えられる。
以上をまとめると2022年の地震において城里町小勝で他の震度観測点より2階級以上大きい震度5強が観測された理由は、2022年の地震では6~10 Hzの高周波数成分に富む地震波が入射し、さらに7~8 Hzの帯域が表層地盤の影響で大きく増幅し、震度計算用のフィルタ後も一定以上の振幅が残ったためと考えられる。
謝辞:SK-netより入手した茨城県提供の強震波形データを利用しました。記して感謝いたします。