10:15 〜 10:30
[SSS09-21] S-net地震動記録を用いた地震動の拡散波動場理論に基づく地下構造同定
キーワード:S-net、地震動水平上下スペクトル比、地下構造
近年、陸域だけでなく日本周辺の海域でも地震観測網が整備されるようになった。南海トラフの熊野灘や紀伊水道周辺にはDONETが整備され2011年から観測が行われており、北海道沖から房総半島沖までの太平洋沖にはS-netが整備され2016年から地震動や水圧の変化などを観測している。これらの観測網が敷設されているような海域の地下構造についてはこれまで様々な調査が行われてきているが、その観測の困難さから陸域ほど詳細な構造は求められていない。対象とする海域で実際に観測された地震動を解析することで、より高精度な地下構造の作成に寄与する情報を得ることができる。
本研究ではS-netで観測された地震動記録を用いて、地震動の拡散波動場理論(Diffuse Field Concept for earthquake, DFCe, Kawase et al., 2011)を適用し1次元地下構造を同定する。DFCeは地震動の水平上下スペクトル比(EHVR)を地震基盤以浅の増幅特性の水平上下比として解釈するので、観測点間距離が大きく先験情報も多くないS-netのような観測点でも地震基盤から地表面までの地盤構造の全体像を推定することができる。S-net観測点150点で地盤構造同定を行い関東から北海道にかけての太平洋沖の海域の地下構造を推定することを最終的な目標とし、本発表ではいくつかのS-net観測点での観測記録の精査および地盤構造同定について述べる。
S-net観測点は陸上の基地局から繋がるケーブルに内挿されており、地震計の観測軸はケーブルの向きに沿った方向にあり、かつケーブルの回転などを受けている。これらのずれ・回転を補正するためにTakagi et al. (2019)の手法を適用し、南北・東西・上下方向の地震記録を作成した。観測されている地震動記録のうち、震央距離が200km以下であり、MJMAが5.5以上、PGAが50Gal以下のものを選択した。
海底地震記録には海面で反射し海底に戻ってきた振動の影響が含まれていると言われている(Akuhara and Mochizuki, 2015)。この影響を確認するため、水深102mの観測点(S2N01)の上下動記録に対しウインドウ幅を5秒としたランニングスペクトルやStockwell Transformを適用し、スペクトル振幅の時間変化を求めた。反射波の影響が顕著であればその干渉により特定の周波数でスペクトル振幅に谷が生じると予想したが、今回使用した地震記録ではそのような谷は見られす、反射波の影響は小さかったと考えられる。
震央距離等を考慮して選択した25地震の地震動記録から、S波到達以降40秒を切り出し、FFTによりフーリエスペクトルを求め、0.1HzのParzenウィンドウで平滑化を行い、NS/UDとEW/UDを求め25地震の幾何平均をそれぞれ求めた。S2N01観測点ではEHVRに方位差は見られず、0.3Hzに緩いピークがあり0.6Hzで谷になり、1Hzにかけてまた増幅した後10Hz強に鋭いピークがある形状を示した。
次に、観測EHVRを再現するような地下構造をDFCeに基づき同定した。前述のように海面からの反射波の影響は小さいと考え同定において考慮せず、陸域の地表面での同定手法をそのまま適用する。当該観測点の地下構造に関する先験情報がないため、適度に速度勾配を持たせた10層+基盤のモデルを初期モデルとし、基盤以浅の各層のS波速度VsとP波速度Vp、層厚を同定した。VsやVpには深さとともに増加するよう条件を付けつつ、層厚も含めた各パラメターの探索範囲は設定せずに同定する。密度はVsから換算し減衰は全層1.1%とする。図に示すように深さ700~2000mの層で0.3Hzのピークを、最表層で10Hz強のピークを再現する構造が得られた。
今後は海底地震記録に関してより詳細な分析を行うとともに、S-net全観測点の地盤構造を同定し関東から北海道にかけての太平洋沖の地盤構造のおおまかな地下構造の推定を行う。
本研究ではS-netで観測された地震動記録を用いて、地震動の拡散波動場理論(Diffuse Field Concept for earthquake, DFCe, Kawase et al., 2011)を適用し1次元地下構造を同定する。DFCeは地震動の水平上下スペクトル比(EHVR)を地震基盤以浅の増幅特性の水平上下比として解釈するので、観測点間距離が大きく先験情報も多くないS-netのような観測点でも地震基盤から地表面までの地盤構造の全体像を推定することができる。S-net観測点150点で地盤構造同定を行い関東から北海道にかけての太平洋沖の海域の地下構造を推定することを最終的な目標とし、本発表ではいくつかのS-net観測点での観測記録の精査および地盤構造同定について述べる。
S-net観測点は陸上の基地局から繋がるケーブルに内挿されており、地震計の観測軸はケーブルの向きに沿った方向にあり、かつケーブルの回転などを受けている。これらのずれ・回転を補正するためにTakagi et al. (2019)の手法を適用し、南北・東西・上下方向の地震記録を作成した。観測されている地震動記録のうち、震央距離が200km以下であり、MJMAが5.5以上、PGAが50Gal以下のものを選択した。
海底地震記録には海面で反射し海底に戻ってきた振動の影響が含まれていると言われている(Akuhara and Mochizuki, 2015)。この影響を確認するため、水深102mの観測点(S2N01)の上下動記録に対しウインドウ幅を5秒としたランニングスペクトルやStockwell Transformを適用し、スペクトル振幅の時間変化を求めた。反射波の影響が顕著であればその干渉により特定の周波数でスペクトル振幅に谷が生じると予想したが、今回使用した地震記録ではそのような谷は見られす、反射波の影響は小さかったと考えられる。
震央距離等を考慮して選択した25地震の地震動記録から、S波到達以降40秒を切り出し、FFTによりフーリエスペクトルを求め、0.1HzのParzenウィンドウで平滑化を行い、NS/UDとEW/UDを求め25地震の幾何平均をそれぞれ求めた。S2N01観測点ではEHVRに方位差は見られず、0.3Hzに緩いピークがあり0.6Hzで谷になり、1Hzにかけてまた増幅した後10Hz強に鋭いピークがある形状を示した。
次に、観測EHVRを再現するような地下構造をDFCeに基づき同定した。前述のように海面からの反射波の影響は小さいと考え同定において考慮せず、陸域の地表面での同定手法をそのまま適用する。当該観測点の地下構造に関する先験情報がないため、適度に速度勾配を持たせた10層+基盤のモデルを初期モデルとし、基盤以浅の各層のS波速度VsとP波速度Vp、層厚を同定した。VsやVpには深さとともに増加するよう条件を付けつつ、層厚も含めた各パラメターの探索範囲は設定せずに同定する。密度はVsから換算し減衰は全層1.1%とする。図に示すように深さ700~2000mの層で0.3Hzのピークを、最表層で10Hz強のピークを再現する構造が得られた。
今後は海底地震記録に関してより詳細な分析を行うとともに、S-net全観測点の地盤構造を同定し関東から北海道にかけての太平洋沖の地盤構造のおおまかな地下構造の推定を行う。