日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 強震動・地震災害

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (5) (オンラインポスター)

コンビーナ:林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)、松元 康広(株式会社構造計画研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[SSS09-P04] 斜面災害リスク評価のための浅部微動アレイ探査:阿蘇カルデラから東部の火砕流堆積域における予備解析

*長 郁夫1米岡 佳弥1川畑 大作1宮地 良典1星住 英夫1下司 信夫1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:斜面災害、阿蘇、火山灰、微動アレイ、探査

はじめに
 現在,産業技術総合研究所(以下,産総研)は,知的基盤整備計画(経済産業省, 2021)に基づき九州北部に着目して斜面災害リスク評価のための地質情報整備を進めている.日本地すべり学会(2014)は,地震による斜面変動発生危険箇所が特定された場合の精査法の1つとして,2D/3D弾塑性FEMに基づく地震応答解析を提案している.また,微動のH/Vスペクトルに基づいて表層地盤の震動特性を把握するアプローチも課題として提起している.そこで,産総研の上記プロジェクトチームのうち発表者を含むグループでは,地震応答解析に資する基礎データとして,2016年の熊本地震による斜面変動が多く発生した阿蘇カルデラ周辺地域に注目し,微動アレイ探査に基づいて浅部(深さ数10m迄)S波速度構造のモデル化を進めるとともに,微動アレイ観測時に微動のH/Vスペクトルも同時に測定することを考えている.
 対象地域の中で特に阿蘇カルデラの東側に広がる約9万年前の阿蘇4火砕流台地(星住他,2015)とそれを覆う比較的軟弱な表層地盤に着目し,10x15km程度の領域で,浅部S波速度構造およびH/Vスペクトルに基づく地盤の共振周波数の面的評価を実施する計画を立てている.この地域では,強溶結の阿蘇4B火砕流堆積物からなる堅固な地盤を,所によっては30mに達する厚い風成火山灰層(火山灰土)が覆っている.10 km程度の距離スケールでは傾斜3°以下の平坦〜緩斜面を呈するものの,局所的には傾斜15-30°あるいはそれ以上となる(国土地理院, 1994).そのため,所々で土石流や急傾斜地崩壊の危険性が警戒されている(熊本県,2023).
一般に,微動アレイ探査は,市街地から離れた山地,特に岩盤や硬質地盤では適用性が低いとされる(堀家,1993; 物理探査学会,2008).着目する地域は山地もしくは山間である.また,一般に厚い火山灰土層に覆われるが,小スケールでは起伏に富むため,局所的に表層から硬い地盤となるため,所によっては微動アレイ探査が適用できない可能性もある.そこで我々は,面的評価に先駆けて,本地域における微動アレイの適用性を確認するための予備観測及び解析を実施した.
微動アレイ探査測線
 阿蘇カルデラ東縁の外側(標高約800mの地点)から国道57号線に並行するように東方に向かい竹田市役所付近(標高約260mの地点)に至る約25kmの測線を設定した.測線に沿う13サイト(1-3km間隔)で微動アレイ観測を実施した(Fig. 1).この測線の長さは面的評価の計画幅(10〜15km)の倍近くあるが,それは,この測線の西側2/3程度では阿蘇4火砕流堆積物の強溶結部が厚い火山灰土に覆われているのに対し,東側1/3は阿蘇3火砕流堆積物 (12万年前)が現れ,表層の火山灰土が薄いことが現地調査から分かっているからである.この測線沿いに微動アレイ探査を実施すれば,西側の火山灰土の厚い軟弱地盤地域と東側の火山灰土が薄い(硬質)地盤地域を適切に識別できることが確認できる.また,この測線の中ほどの火山灰土の厚い地点A及び東端の地点B(数mでVs 1000m/sを超える)に防災科学技術研究所のHi-net観測点がある.そこではPS検層がなされているので,微動アレイ探査結果を直接検証できる.
アレイジオメトリと地震計
 各微動アレイ探査地点にて,固有周期4.5Hzの上下動成分ジオフォン(GS11D)7個で構成される24m長のリニアアレイを向きを変えて2回実施した(L字アレイ).このようなアレイジオメトリ・観測方式は通常の微動アレイ探査の三角形アレイとは異なるが,SN比が劣悪かつアレイ展開のためには狭小過ぎる山地,特に岩盤や硬質地盤に対応するための処置である(Cho, 2023).この他,実験的(検証用)に,2地点では通常の三角形アレイを実施した.また,観測サイトが軟弱地盤ならばごく小さいサイズのアレイによる観測効率の向上が可能と期待されるので(Cho, 2022),検証のため,PS検層にて表層が軟弱なことが分かっている地点Aで,半径0.6 mの「極小アレイ」(Cho et al., 2013)に15 mのリニアアレイを付与した「ヒゲアレイ」(Yamada et al., 2018)を実施した.そこではジオフォンの代わりに加速度計(JU410)を用いたアレイも試みた.
 西半分の6地点においては微動の3成分観測を行いH/Vスペクトルを同定した.
結果と今後の予定
 微動アレイ探査結果は概ね期待通りとなった.まず,独立なリニアアレイ(24m長)を2回実施するL字アレイによる硬質地盤対応の結果は測線東端のHi-net観測点(地点B)で実施されたPS検層データとの照合により妥当性が検証された.L字アレイの結果は2地点で実施した三角アレイとの比較からも検証された.次に,得られたS波速度断面はAso-3, 4の分布と対応するように,西側では表層の軟弱層が厚く,東側では薄いイメージとなることが示された(Fig. 1).この傾向は,深さ10, 20, 30mまでの平均S波速度の分布にも顕著に表れている.最後に,地点Aで実施した極小アレイ(ヒゲアレイ)の結果は,L字アレイと概ね同等の結果を与えることが示された.
 今後は,面的微動アレイ探査を実施するにあたり,主要部は極小アレイを基礎とし(すなわち,極小アレイとリニアアレイまたは 3点不規則アレイの組み合わせ),必要に応じてL字アレイを実施することを計画中である.