日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 強震動・地震災害

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (5) (オンラインポスター)

コンビーナ:林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)、松元 康広(株式会社構造計画研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[SSS09-P10] 2021年アラスカChignikプレート間地震 (MW 8.2) の広帯域震源特性

*郭 雨佳1吉田 邦一1宮腰 研2 (1.一般財団法人地域地盤環境研究所、2.(株)大崎総合研究所)

キーワード:プレート間地震、アリューシャン海溝、震源スケーリング則、大すべり域、強震動生成域

2021年7月29日,米国アラスカ半島沖の北米/太平洋プレートの境界を震源とするMW 8.2のプレート間地震(Chignik地震)が発生した.本研究は,この地震の震源域周辺で記録された波形を解析し,地震波の長周期/短周期成分の生成源の違いなどこの地震の広帯域震源特性について検討する.このような検討で得られる震源特性に関する知見を蓄積することは,プレート間地震の地震動予測における震源モデル化にとって非常に有用である.検討は,長周期側の0.03-0.08 Hz(周期12.5-33秒)では大すべり域 (slip asperity area) を,短周期側の0.1-10 Hz(周期0.1-10秒)では強震動生成域 (SMGA) を地震動シミュレーションにより推定する.

長周期側の検討では,まず,USGS (2021) の震源インバージョン結果のすべり分布からSomerville et al. (1999) の規範に従って断層破壊領域を抽出し,この破壊領域と同じ面積を持つ巨視的断層面をプレート境界にほぼ沿うように配置した.なお,抽出された破壊領域が余震域とほぼ対応していることは確認している.続いて,震源インバージョン結果を参考に2つの矩形の大すべり域と背景領域からなる特性化震源モデルを設定し,観測記録の振幅レベルやパルス状波形を説明できるように,大すべり域の位置や面積を試行錯誤的にチューニングした.波形計算は離散化波数法 (Bouchon, 1981) と反射・透過係数行列法 (Kennett and Kerry, 1979) を使用し,計算に使用する一次元速度構造モデルはNayak et al. (2020) を初期モデルとして余震(2021年7月30日MW 5.5)の波形記録をもとに予めチューニングしている.一方,短周期側の検討では,観測波形に2つのパルスが見られることから,正方形の強震動生成域を2つ仮定し,それらのパラメータを経験的グリーン関数法 (Irikura, 1986) により推定した.経験的グリーン関数として使用する要素地震は,上述のMW 5.5の余震である.

検討の結果,地震動の短周期成分に寄与する強震動生成域は,長周期成分に寄与する大すべり域よりも少し深い側に同定された.ところで,Lay et al. (2012) は破壊様式の違いに基づき,プレート境界を4つの領域に分け,浅部から順にDomain A, B, C, Dとしている.本検討で得られた大すべり域はDomain Bの大部分,強震動生成域はDomain Bの最下部もしくはDomain Cの最上部付近に対応しており,両者の位置関係はLay et al. (2012) が提案したプレート間地震の震源像と調和的である.抽出された断層破壊領域の面積は36652 km2であるが,大すべり域の面積はその21%にあたる7840 km2,強震動生成域の面積は同11%にあたる3904 km2であった.破壊領域および大すべり域の面積は日本のプレート間地震を対象としたスケーリング則であるMurotani et al. (2008) と整合的であるが,強震動生成域の面積は佐藤 (2010) のスケーリング則(破壊領域面積の4%)に比べて大きい.強震動生成域の面積が大すべり域に比べて小さいことはプレート間地震の震源特性として考えられているが(例えば,佐藤,2010;田島・他,2013),両者の面積比に関しては,今後も広帯域地震動評価に基づき,さらにはプレートの地域性も考慮に入れた継続的な議論が重要である.

謝辞:本研究は,原子力規制庁の委託業務「令和4年度原子力施設等防災対策等委託費(海溝型地震の特性化震源モデルに係る検討)事業」による成果の一部である.波形データはAlaska Regional NetworkおよびAlaska Volcano Observatoryから提供されたものであり,ここに記して感謝する.