日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 地震活動とその物理

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:楠城 一嘉(静岡県立大学)、直井 誠(京都大学)、座長:今西 和俊(産業技術総合研究所)、橋本 徹夫(防災科学技術研究所)

09:00 〜 09:15

[SSS10-01] 下部地殻微小地震の発生メカニズム:広島県西部直下の深部クラスター活動の事例

*今西 和俊1内出 崇彦1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:下部地殻地震、発生メカニズム、モーメントテンソル、非ダブルカップル成分

陸域の地震は通常深さ約15kmよりも浅い上部地殻で発生するが、それより深い下部地殻で発生する地震も存在する。例えば、南カリフォルニアの断層帯直下では、超稠密アレイ観測により検知能力を大幅に上げることで、下部地殻から上部マントルまで連なる地震活動が検出されている(Inbal et al., 2016)。日本においても広島県西部の深さ30kmあたりにおいて、直径10kmほどのクラスター活動が生じていることが知られている(高橋・山田, 2010; 志藤, 2021)。このような下部地殻の地震は内陸地震の発生にも関係すると考えられるが、その発生メカニズムはよくわかっていない。そこで本研究では、広島県西部の地震クラスターに着目し、モーメントテンソル解の推定を行った。
 解析対象としたのは、2004年以降に発生したMj1.5以上の地震(約70イベント)である。本研究では非ダブルカップル成分の存否についても議論するため、Dahm (1996)による相対モーメントテンソル法を改良した逐次相対モーメントテンソル法(Imanishi and Uchide, in preparation)を適用した。この手法はクラスター内の地震に相対モーメントテンソル法を繰り返し適用し、個々の地震のモーメントテンソル解の精度を上げるのと同時に地震間の相対精度も上げていく方法で、参照とする地震のモーメントテンソル解の精度が悪いと信頼性の高い結果が得られないという相対法の本質的な問題点を解決している。
 推定結果を見ると、どの地震も概ねダブルカップルで説明できるが、この地域の上部地殻で発生する地震を代表する東西圧縮の横ずれ型が卓越しているわけではなく、様々な断層タイプの地震が発生していることがわかった。このような小さな領域内でメカニズム解が大きく変化するのは珍しく、高間隙水圧により様々な姿勢の既存クラックが破壊する状況になっている可能性がある。また、推定誤差を有意に超える微小な非ダブルカップル成分が含まれていることも明らかになった。非ダブルカップル成分の空間分布にはあまり特徴が見られないが、クラックの開口成分が卓越する時期と閉口成分が卓越する時期が4-5年周期で繰り返す時間変化が確認できた。以上の推定結果から、クラスター内に流体が周期的に注入され、これが深部クラスターを引き起こす要因になっている可能性がある。

謝辞:解析には防災科研Hi-net、気象庁、東大地震研究所、産総研の地震波形データ、気象庁一元化カタログを使用しました。記して感謝いたします。