09:45 〜 10:00
[SSS10-04] 福島-茨城沖で多発している上盤プレート内正断層型地震の断層構造
地震発生を理解するために,地球内部の断層構造や応力状態の把握が必要不可欠である.小地震の震源分布は,断層構造や応力状態を把握するための強力な情報源として利用できる.しかしながら島弧-海溝系においては,地震観測網が基本的には陸側にのみしか分布しないことから,海域部で発生する地震について,震源の深さの精度に問題があり,信頼できる震源分布が得られないでいる.2016年以降の場合,海域のS-net観測点におけるP波とS波の到達時刻データを使用することで,日本海溝沿いの海域で発生した地震の震源の深さを高精度に推定することができる.しかし,それ以前の期間に発生した地震については,深さの推定が難しい.
2011年にMw 9.0 東北沖地震が発生してから,東北日本沖合では正断層型地震が多発している.気象庁一元化震源では,正断層型地震の多くが東側に傾斜した領域で発生しているようにみえるが,これは深さの決定精度不足によるものかもしれない.防災科学技術研究所のF-netによるMTカタログでは,正断層型地震の多くが地表付近に集中して分布し,気象庁の震源とは傾向が異なることから,この活動の断層構造や応力状態が実際にどのようであるかは未だ明らかではない.
震源の深さを拘束する情報として, depth-phaseの到達時刻が使用されてきた.東北沖合で発生する地震については,sP depth-phaseとして知られる sP 波が,およそ 50~200 kmの震央距離の観測点において,頻繁に観測されている(Umino et al., 1995).sP depth-pahse を用いた先行研究では,プレート境界地震やスラブ内地震に焦点を当てており,浅い領域で発生した地震については十分研究されてこなかった.本研究では,sP depth-phase を使用して,上盤プレート内で発生する地震の深さを系統的に決定して,断層構造を推定する.特に,東北沖地震発生以降,最も頻繁に正断層型地震が発生している,福島-茨城沖の領域に着目する.本研究領域における先行研究では,depth-phaseの到達時刻データを目視による読み取りで取得していたが,本研究では,より客観的で効率的にdepth-phaseを震源深さの推定に活用することができる波形モデリングに基づいた方法を用いる.
最初に,福島-茨城沖合の深さ40 kmよりも浅部で発生している地震の観測波形を目視により調べた.その結果,多くの地震に,直達P波と直達S波の間に到着する明瞭な後続波が存在することがわかった.その振幅は上下動成分に卓越し,震央距離の異なる観測点でみても P波からの遅れ時間が同程度であった. F-net解によるメカニズム解の情報に基づき, Zhu & Rivera (2002) のコードを用いて各観測点の合成波形を計算してみると,ある深さでの合成波形のsP波が,観測波形の後続波と近い時間に表れていることが確かめられた.これらの観測された波はsP波であると考えられる.
福島-茨城沖で発生した地震を対象に,合成波形と観測波形を比較することで,震源の深さを推定した.解析対象は,2003年3月から2022年3月までに発生した,F-net によるMT解が求まっている3.2 ≦ Mw ≦ 5 の1,297イベントである.S-net設置以前から使用可能な陸上観測点で得られた波形データのみを使用し,合成波形を計算する深さを変えながら,エンベロープ同士の相関値が最大となる深さを探索した.この深さ決定方法にdouble-difference 法 (Waldhauser & Ellsworth, 2000) を組み合わせることで,depth-phase を使用した解析だけでは,深さが安定的に決定できなかった震源を再決定することができた.
得られた震源の深さは,気象庁一元化震源よりも10km 程度浅くなる傾向を示し,F-net解の深さよりも系統的に深くなった.本研究の深さは,2016年以降のS-netデータを使用して決定した震源(鈴木,2022)とよく対応していた.得られた震源分布では,正断層型地震が主に東側に傾斜して分布していた.気象庁一元化震源でも確認できた東側傾斜する構造は,震源決定精度に由来するみかけのものではなく,応力,強度,流体や温度分布に関係する重要な構造を反映していることを示唆する.
2011年にMw 9.0 東北沖地震が発生してから,東北日本沖合では正断層型地震が多発している.気象庁一元化震源では,正断層型地震の多くが東側に傾斜した領域で発生しているようにみえるが,これは深さの決定精度不足によるものかもしれない.防災科学技術研究所のF-netによるMTカタログでは,正断層型地震の多くが地表付近に集中して分布し,気象庁の震源とは傾向が異なることから,この活動の断層構造や応力状態が実際にどのようであるかは未だ明らかではない.
震源の深さを拘束する情報として, depth-phaseの到達時刻が使用されてきた.東北沖合で発生する地震については,sP depth-phaseとして知られる sP 波が,およそ 50~200 kmの震央距離の観測点において,頻繁に観測されている(Umino et al., 1995).sP depth-pahse を用いた先行研究では,プレート境界地震やスラブ内地震に焦点を当てており,浅い領域で発生した地震については十分研究されてこなかった.本研究では,sP depth-phase を使用して,上盤プレート内で発生する地震の深さを系統的に決定して,断層構造を推定する.特に,東北沖地震発生以降,最も頻繁に正断層型地震が発生している,福島-茨城沖の領域に着目する.本研究領域における先行研究では,depth-phaseの到達時刻データを目視による読み取りで取得していたが,本研究では,より客観的で効率的にdepth-phaseを震源深さの推定に活用することができる波形モデリングに基づいた方法を用いる.
最初に,福島-茨城沖合の深さ40 kmよりも浅部で発生している地震の観測波形を目視により調べた.その結果,多くの地震に,直達P波と直達S波の間に到着する明瞭な後続波が存在することがわかった.その振幅は上下動成分に卓越し,震央距離の異なる観測点でみても P波からの遅れ時間が同程度であった. F-net解によるメカニズム解の情報に基づき, Zhu & Rivera (2002) のコードを用いて各観測点の合成波形を計算してみると,ある深さでの合成波形のsP波が,観測波形の後続波と近い時間に表れていることが確かめられた.これらの観測された波はsP波であると考えられる.
福島-茨城沖で発生した地震を対象に,合成波形と観測波形を比較することで,震源の深さを推定した.解析対象は,2003年3月から2022年3月までに発生した,F-net によるMT解が求まっている3.2 ≦ Mw ≦ 5 の1,297イベントである.S-net設置以前から使用可能な陸上観測点で得られた波形データのみを使用し,合成波形を計算する深さを変えながら,エンベロープ同士の相関値が最大となる深さを探索した.この深さ決定方法にdouble-difference 法 (Waldhauser & Ellsworth, 2000) を組み合わせることで,depth-phase を使用した解析だけでは,深さが安定的に決定できなかった震源を再決定することができた.
得られた震源の深さは,気象庁一元化震源よりも10km 程度浅くなる傾向を示し,F-net解の深さよりも系統的に深くなった.本研究の深さは,2016年以降のS-netデータを使用して決定した震源(鈴木,2022)とよく対応していた.得られた震源分布では,正断層型地震が主に東側に傾斜して分布していた.気象庁一元化震源でも確認できた東側傾斜する構造は,震源決定精度に由来するみかけのものではなく,応力,強度,流体や温度分布に関係する重要な構造を反映していることを示唆する.