10:45 〜 12:15
[SSS10-P05] 箱根火山での群発地震における非地震性滑りの寄与
キーワード:箱根火山、群発地震、繰り返し地震、傾斜計記録、震源移動、非地震性滑り
1.はじめに
火山地域における群発地震がどのような要因で誘発されるのか物理的なメカニズムについて明確にはわかっていない。現在考えられているモデルとしてマグマの移動に伴う応力の変化(Toda et al. 2002)、熱水の移動とそれに伴う断層の強度低下(Shelly et al. 2014)、非地震性滑りの拡大(Barros et al. 2020)等があげられる。近年の研究では高圧の流体が断層の非地震性滑りの誘発を起こしている可能性が指摘されており(Cappa et al. 2019)、熱水系の発達した火山では非地震性滑りが群発地震活動の発生メカニズムに大きく寄与する可能性がある(Yukutake et al. 2022)。非地震性滑りの検出に関しては、主にプレート境界において繰り返し地震が利用されてきた。近年では火山や内陸域での繰り返し地震の検出例も報告されており(Nakajima and Hasegawa 2023)、これらの地域においても非地震性すべり検出に重要な観測となる可能性がある。
箱根火山は伊豆半島北端に位置する活火山であり、過去に度々活発な群発地震が発生している。2015年には観測史上最大の群発地震活動が発生し、中央火口丘北側の大涌谷で小規模な水蒸気噴火が発生した。本研究では、2015年5月の地震活動と傾斜記録から、群発地震における非地震性滑りの寄与を考察する。
2.データおよび解析手法
2000年1月1日から2020年1月1日に箱根カルデラ内で発生した地震に対して、Double-Difference法(Waldhauser & Ellsworth 2000)を用いて震源決定を行い、28224の地震の震源を決定した。このうち2015年5月15日から31日までに湖尻付近で発生した地震を解析対象とした。非地震性滑りを推定するために、湖尻観測点の傾斜計時系列から、Okada (1992)の断層モデルを仮定し、断層パラメータを推定した。その際、断層位置と形状は震源分布を参考に決定し、滑り量と滑り角についてグリッドサーチで推定した。また、傾斜変動とは別に、繰り返し地震を検出することで非地震性滑りの推定を試みた。繰り返し地震の検出は、上記の震源カタログを基にS波の理論走時の1秒前から5秒後までのタイムウィンドウを用いて波形を切り出して相互相関処理を行い、相互相関係数が0.95以上の観測点が4以上あるものを繰り返し地震の候補として抽出した。さらに、応力降下量3MPaと仮定した際の円形の断層クラックが50%以上重なるものを繰り返し地震と定義した。
3.結果及び考察
2015年5月湖尻で発生した群発地震の震源分布は東南東-西北西方向に走向を持つほぼ鉛直な面上で分布する。この群発地震の最初のイベントからの経過時間と距離の分布を調べたところ、震源が拡散的に移動している様子が確認できた。震源移動の拡散係数をShapiro et al. (1997)の式を用いて推定すると約10m2/sとなった。2019年に湖尻で起こった群発地震と比較すると(Yukutake et al. 2019)、拡散係数は約10倍になっており、震源移動が速いことが分かった。
同期間において震源域の直上に位置する湖尻観測点の傾斜計により、群発地震開始時期である5月15日を境に西南西方向に約2.5μradian傾き下がる変動が観測された。グリッドサーチの結果からは、変位量4cmの右横ずれ断層により、観測された傾斜変動が説明でき、この滑り方向は 箱根域の広域的な応力場である北西-南東圧縮と整合する。最適な傾斜モデルのモーメントが、同期間中で起こったすべての群発地震の積算地震モーメントと非地震性滑りによるモーメントの和によってあらわせるとすると、92%のモーメントが非地震性滑りによって解放されたと推定できる。
一方、この期間検出された繰り返し地震に対して、Uchida & Burgmann (2020)の手法に基づきSomerville et al. (1999)による地震モーメントと滑り量とのスケーリングを仮定し、非地震性滑りの時系列を求めると、傾斜変動と同時期に始まる積算で0.4cmの滑りが算出された。ただし、繰り返し地震から求めた滑りの積算量と傾斜モデルの変位量とは整合しないため、繰り返し地震ついて検出基準や非地震性すべりとの関係を今後さらに検討を進めていく。
謝辞
本研究では、神奈川県温泉地学研究所、気象庁、防災科学技術研究所の観測点で記録された連続地震波形記録を使用させていただきました。断層パラメータの推定には気象研究所によるMAGCAP-Vを使用しました。
火山地域における群発地震がどのような要因で誘発されるのか物理的なメカニズムについて明確にはわかっていない。現在考えられているモデルとしてマグマの移動に伴う応力の変化(Toda et al. 2002)、熱水の移動とそれに伴う断層の強度低下(Shelly et al. 2014)、非地震性滑りの拡大(Barros et al. 2020)等があげられる。近年の研究では高圧の流体が断層の非地震性滑りの誘発を起こしている可能性が指摘されており(Cappa et al. 2019)、熱水系の発達した火山では非地震性滑りが群発地震活動の発生メカニズムに大きく寄与する可能性がある(Yukutake et al. 2022)。非地震性滑りの検出に関しては、主にプレート境界において繰り返し地震が利用されてきた。近年では火山や内陸域での繰り返し地震の検出例も報告されており(Nakajima and Hasegawa 2023)、これらの地域においても非地震性すべり検出に重要な観測となる可能性がある。
箱根火山は伊豆半島北端に位置する活火山であり、過去に度々活発な群発地震が発生している。2015年には観測史上最大の群発地震活動が発生し、中央火口丘北側の大涌谷で小規模な水蒸気噴火が発生した。本研究では、2015年5月の地震活動と傾斜記録から、群発地震における非地震性滑りの寄与を考察する。
2.データおよび解析手法
2000年1月1日から2020年1月1日に箱根カルデラ内で発生した地震に対して、Double-Difference法(Waldhauser & Ellsworth 2000)を用いて震源決定を行い、28224の地震の震源を決定した。このうち2015年5月15日から31日までに湖尻付近で発生した地震を解析対象とした。非地震性滑りを推定するために、湖尻観測点の傾斜計時系列から、Okada (1992)の断層モデルを仮定し、断層パラメータを推定した。その際、断層位置と形状は震源分布を参考に決定し、滑り量と滑り角についてグリッドサーチで推定した。また、傾斜変動とは別に、繰り返し地震を検出することで非地震性滑りの推定を試みた。繰り返し地震の検出は、上記の震源カタログを基にS波の理論走時の1秒前から5秒後までのタイムウィンドウを用いて波形を切り出して相互相関処理を行い、相互相関係数が0.95以上の観測点が4以上あるものを繰り返し地震の候補として抽出した。さらに、応力降下量3MPaと仮定した際の円形の断層クラックが50%以上重なるものを繰り返し地震と定義した。
3.結果及び考察
2015年5月湖尻で発生した群発地震の震源分布は東南東-西北西方向に走向を持つほぼ鉛直な面上で分布する。この群発地震の最初のイベントからの経過時間と距離の分布を調べたところ、震源が拡散的に移動している様子が確認できた。震源移動の拡散係数をShapiro et al. (1997)の式を用いて推定すると約10m2/sとなった。2019年に湖尻で起こった群発地震と比較すると(Yukutake et al. 2019)、拡散係数は約10倍になっており、震源移動が速いことが分かった。
同期間において震源域の直上に位置する湖尻観測点の傾斜計により、群発地震開始時期である5月15日を境に西南西方向に約2.5μradian傾き下がる変動が観測された。グリッドサーチの結果からは、変位量4cmの右横ずれ断層により、観測された傾斜変動が説明でき、この滑り方向は 箱根域の広域的な応力場である北西-南東圧縮と整合する。最適な傾斜モデルのモーメントが、同期間中で起こったすべての群発地震の積算地震モーメントと非地震性滑りによるモーメントの和によってあらわせるとすると、92%のモーメントが非地震性滑りによって解放されたと推定できる。
一方、この期間検出された繰り返し地震に対して、Uchida & Burgmann (2020)の手法に基づきSomerville et al. (1999)による地震モーメントと滑り量とのスケーリングを仮定し、非地震性滑りの時系列を求めると、傾斜変動と同時期に始まる積算で0.4cmの滑りが算出された。ただし、繰り返し地震から求めた滑りの積算量と傾斜モデルの変位量とは整合しないため、繰り返し地震ついて検出基準や非地震性すべりとの関係を今後さらに検討を進めていく。
謝辞
本研究では、神奈川県温泉地学研究所、気象庁、防災科学技術研究所の観測点で記録された連続地震波形記録を使用させていただきました。断層パラメータの推定には気象研究所によるMAGCAP-Vを使用しました。