日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 地震活動とその物理

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (12) (オンラインポスター)

コンビーナ:楠城 一嘉(静岡県立大学)、直井 誠(京都大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SSS10-P08] 2008年岩手・宮城内陸地震震源域とその周辺地域における通常地震と低周波地震の震源スペクトルと地震波放射エネルギーの比較

*織茂 雅希1吉田 圭佑1松澤 暢1平 貴昭2江本 賢太郎3長谷川 昭1 (1.東北大学理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター、2.カリフォルニア大学バークレイ校地震研究所、3.九州大学理学研究科附属地震火山観測研究センター)


キーワード:震源スペクトル、規格化エネルギー、低周波地震

火山直下のモホ面付近では、通常地震と異なる特徴を持った深部低周波地震が発生している。同程度の規模の通常地震と比べると、地震波の卓越周波数が低く、特徴的な後続部を持つことが多い。深部低周波地震の地震波放射過程の詳細はよく分かっていない。通常地震と深部低周波地震の地震波のエネルギーを定量化することが重要である。2008年岩手・宮城内陸地震震源域とその周辺地域では、通常地震と深部低周波地震が発生している。2008年岩手・宮城内陸地震震源域およびその周辺地域では、通常地震震源域内においても低周波地震 (浅部低周波地震) が発生していることが報告されている (Nakajima and Hasegawa, 2021)。これらの地震の震源スペクトルを推定し、規格化エネルギーを系統的に調べた。
地震波の観測スペクトルを用いて震源スペクトルを推定した。最初に、地震波の後続波を用いるコーダ規格化法 (Aki, 1982; Aki and Chouet, 1975) に基づいて、地震波減衰 Q-1 と観測点直下のサイト特性を推定した。次に、観測スペクトルからサイト特性と地震波減衰 Q-1 を除去することにより震源スペクトルを決定した (Takahashi et al., 2005; Yoshida et al., 2017)。最後に、震源スペクトルを使用して規格化エネルギーを推定した。
この結果、通常地震 1464 個、深部低周波地震 169個、浅部低周波地震 52 個の震源スペクトルを決定し、規格化エネルギー eR を推定することができた。通常地震の eR10-5 のオーダー (log10eR の平均値は -4.3、標準偏差は 0.39) であり、先行研究 (e.g., Kanamori and Brodsky, 2004) と調和的であった。一方、深部低周波地震の場合には、 10-8 から 10-7 のオーダー (log10eR の平均値は -7.0、標準偏差は 0.43)、浅部低周波地震の場合には、10-6 のオーダー (log10eR の平均値は -5.4、標準偏差は 0.5) であり、低周波地震の eR は通常地震のそれよりも 1 から 3 桁系統的に小さかった。
上記推定では、解析対象域の地震波減衰 Q-1 が空間的に均質であると仮定した。しかし、深部低周波地震は通常地震よりも深部で発生するため、実際には、深部低周波地震の代表する Q-1 が通常地震のそれと異なる可能性がある。その結果、深部低周波地震の震源スペクトルや規格化エネルギーが系統的に誤って推定された可能性は否定できない。深部低周波地震発生帯と通常地震発生帯の地震波減衰 Q-1 の違いが、 eR に与えた影響を評価するために、深さ15 kmを境界とした地震波減衰 Q-1 の二層構造を仮定した。その場合に得られた eR を、空間的に均質な Q-1 を仮定した場合の eR と比較したところ、log10eR の平均値が 0.1 程度変化したのみで、顕著な違いは見られなかった。地震波減衰 Q-1 の空間的均質性の仮定が、通常地震と深部低周波地震の違いに与えた影響は小さいと考えられる。
推定した震源スペクトルを用いて、モーメントマグニチュード Mw と放射エネルギーに基づいたエネルギーマグニチュード ME を推定し、気象庁マグニチュード Mjma と比較した。低周波地震の場合、MwMjma が通常地震よりも大きく乖離する傾向が見られた。一方、MEMjma は、通常地震と低周波地震のいずれの場合でも、ばらつきはあるものの概ね一致した。Mjma が地震モーメントよりも放射エネルギーを反映しており、同じ地震モーメントで比べた場合には、低周波地震の高周波エネルギー励起量が、通常地震よりも小さいことを反映しているのかもしれない。これらの結果は、低周波地震が通常地震よりも応力降下量が小さく、ゆっくりとした破壊や変形を伴う地震であることを示唆していると考えられる。