日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 地震予知・予測

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (13) (オンラインポスター)

コンビーナ:勝俣 啓(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、中谷 正生(国立大学法人東京大学地震研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SSS11-P01] 「和達深発日本面震源帯」の「大和堆無震領域」と2011年3月11日M9.0
 

*新妻 信明1 (1.静岡大学理学部地球科学教室,仙台)

キーワード:震源帯、和達、大和堆、弧状屈曲海溝軸、Slab面積過不足、2011年3月11日M9.0

気象庁が公開しているCMT解震源4786個に基づき日本列島の地震を,13個の「凡震源帯Hyper Seismic Belt」,38個の「震源帯Seismic Belt」,169個の「震源区Seismic Division」に区分した.例えば,千島・日本・伊豆海溝から沈込む太平洋Slabに関する震源帯を「和達深発凡震源帯Wadati Hyper Seismic Belt」と名付けた.この凡震源帯には「千島面 WdtiC」・「日本面 WdtiJ」・「伊豆翼 WdtiWingI」の3個の震源帯があり,WdtiJには.「宗谷 Soy」・「留萌 Rm」・「北日本弧 AcN」・「樺太 Skh」・「沿海州 Prm」・「Vladivostok Vlad」・「日本海盆 Jsb」・「渡島 Osm」・「中日本弧 AcC」・「若狭 Wks」の10個の震源区が属する.この震源区分は,12816個の初動発震機構解,1922年以降の気象庁震度分布Catalog掲載とSeno & Eguchi(1983)の12625個の震源にも適用できるよう,震源分布境界と震源深度範囲を調整し,日本列島の100年以上にわたる地震活動の検討を可能にした.
 「和達深発凡震源帯 Wdti」は深発地震面の存在を最初に報告したWadati (1935)に因み命名した.英名は論文に使用されている訓令式Roma字であるWadatiを使用し,略号はWdtiとする.Wdtiの地震活動は,1930年代・1970年代そして1990年代から2010 年代に活発化したことが,地震断層面積を継時積算するBenioff曲線に表現されている.Wadati (1935)は,1930年代の活動期の観測に基づき発表され,Mantleへの窓を開いた.
 WdtiのCMT解の主歪軸方位は,ほぼ北米Plateに対する太平洋PlateのEuler緯線に揃っていることから,Wdtiの活動はこのPlate運動に関係していると考えられる.海溝距離横断面図上の震源は,AcN・AcCの震源区からVlad震源区に向かって深度660㎞の下部Mantle上面以深にまで達し,Mantleについての貴重な情報を発震している.
 WdtiJの震源は,太平洋Slabの存在を具体的に示しているが,その中央部に震源の存在しない無震領域がある.この領域は,日本海中央の「大和堆」の位置にあるので,「大和堆無震領域Yamato Bank aSeismic Area」と呼ぶことにする.この無震領域は,CMT解以前の震度分布震源についても無震であることが確認できる.
 海洋底が沈込む海溝軸の輪郭は,弧状に屈曲している.弧状屈曲は,球面上の小円に沿う形態であり,海溝軸までの距離が等しい小円中心が存在する.弧状屈曲に対応する小円中心を算出し,海溝域を小円区 Small Circle Divisionに区分できる.日本海溝域は,島弧側に凸で正極性の襟裳小円区・鹿島小円区と海洋側に凸で負極性の最上小円区に区分できる.小円に沿って屈曲する海溝軸から沈込む海洋Slabは,机を覆う布の様に面積過剰になり襞ができたり,面積が不足して切れ目を入れなければ机縁に沿って垂らすことができない.正の小円区では沈込Slabが過剰になり,負の小円区ではSlabが不足する.一連の太平洋底が負の最上小円区から沈込むには,裂開するか不足分を両隣の襟裳・鹿島小円区の過剰分で補う必要がある.「大和堆無震領域」は,負の最上小円区の小円中心を超えた大陸側に位置している.
 Euler緯度に直交する縦断面図において同一Euler緯線上の浅所から深所までの震源列は,Plate運動によって沈込むSlabの存在確認に使用できる.「大和堆無震領域」のように上下縁と両脇に震源が並んでいる場合は,裂目となってSlabが存在しないか,その領域にもSlabは存在するが地震が起きないかの何れかである.地震波はSlabで減衰し難いため,Slab深所で起こった地震の震度は,海溝沿いで最大になる.Slabの裂目を通過すれば震度が小さい影ができる.しかし,日本列島の観測点から見て「大和堆無新域」の延長方向に位置するVlad震源区の地震の震度分布にその影が認められず,Slab裂目の存在は否定される.Slabは上面を除けば,海洋底とほぼ同じ構成岩石と温度構造を持つことから,「大和堆無震領域」のSlabは,地震の起きない海洋底の様に歪が破壊限界に達していないのであろう.
 2011年3月11日の「東北弧沖震源帯平成震源区oAcJHs Seismic Division」M9.0は,数百年分のPlate運動面積を地震断層面積として解放した.このM9.0を除いた日本海溝域の地震活動による地震断層面積は,ほぼPlate運動面積と釣り合っており,M9.0震源と「大和堆無震領域」がほぼ同一Euler緯線上に在ることから,数百年分の歪の蓄積と解放にこの無震領域の関与が予想される.
 WdtiJの震源分布と歪軸方位にはM9.0によって手綱を急に放した様な変化が認められる.2011年3月11日M9.0を挟む2006年から2014年にかけて「大和帯無震領域」北東縁で地震活動が活発化したことも両者の関係を示唆する.