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[SSS12-P01] ウェーブグライダーを用いたGNSS-音響測距結合方式の海底地殻変動観測(その4)
キーワード:海底地殻変動、GNSS-A、ウェーブグライダー、無人観測機、2011年東北地方太平洋沖地震
海洋研究開発機構と東北大学では,無人機ウェーブグライダーを用いてGNSS-音響測距結合方式の海底地殻変動観測(以下,GNSS-A観測)を行うシステムの開発を2018年度以来進めており,2019年7月に行われたKS-19-12航海での試験観測の結果(Iinuma et al., 2021, Front. Earth Sci.)を踏まえ,2020年度以降は年2回,多数の観測点を巡る運航を継続的に行っている.本要旨執筆時点までに計6回の長期運航が終了しており,2021年度秋の運航からは気象・海象観測データの収集機能も追加しての観測を実施している.
ウェーブグライダーはLiquid Robotics社(米)が開発した,自動自律航行する無人海上観測機であり,その第三世代機であるSV3は,全長約3mのフロート部と同約2mのグライダー部から成る.海上のフロート部と海中のグライダー部は全長約8mのアンビリカルケーブルで繋がれており,波浪によるフロート部の上下運動をグライダー部の羽根で前向きの力に変換することで,燃料や電力の消費に依らずして推進力を得る.航行時には,ラダーの角度を海流の向きを踏まえて調節して設定した航路をたどれるようにしたり,船舶自動識別装置を搭載した船舶との衝突を回避したりといった自律制御がなされる.フロート部の太陽光パネルと二次電池からの電力供給により,航行制御や陸上との通信,観測機器の作動及びデータ収録などが行われる.
GNSS-A観測を行うための機材とともに,観測機器の制御やデータ伝送を行うために,スラーヤ衛星通信システムを搭載した.取得したデータの一部や観測機器制御の履歴情報などを陸上に準リアルタイムに伝送することで,海底局の起動状況の確認や音響走時データ及び測距時のGNSS測位結果等の取得が可能となっており,補正情報を利用した高精度のGNSS測位ができれば,準リアルタイムに海底局アレイ位置の変化すなわち海底地殻変動が検出できるシステムとなっている.さらに,2021年度からは,フロート前後のGNSSアンテナのピラーや中央のマストに温湿度計を,フロート船尾部にCTDセンサーを設置し,海上湿度や海面水温及び塩分についてもデータを収録している.2022年5月から7月までに実施した第5回の長期運航の際に取得したデータについては,Nagano et al. (2022, Sensors)にて報告済みである.また,2022年には,釧路・十勝沖の津波計(海底水圧計,PG1)直上で,海底反射波による海面高度測定を行い,海底水圧,海面高度・水温・塩分,海上湿度・気温・気圧及びGNSS観測による上空の水蒸気量を同時に計測することにも成功した.
2020年6月以降,春~夏に根室半島沖~福島県沖の観測点を網羅する1~2か月程度の観測を,夏~秋に青森県沖~岩手県沖の観測点を重点的に巡回する1か月弱の観測を実施してきた.第4回の運航中にフロート中央部のマストが倒壊したり,第6回の運航中(観測終了後)に海況不良によって予定していた通りの回収ができなかったりしたものの,他船との接触や内部機器の深刻な不具合のような,データ取得に関する大きなトラブルを起こすことなく観測を実施できている.本大会開催時には第7回の長期運航を実施している見込みである.本発表においては,第7回も含めた長期運航の実績について紹介するとともに,ウェーブグライダーを用いたGNSS-A観測の限界や今後の技術開発方針について得られた知見を報告する.
謝辞:本研究の一部はJSPS科研費JP19H05596及びJP20KK0097の助成を受けて行われた. また,ウェーブグライダーの投入及び回収の一部は,東京大学大気海洋研究所の共同利用研究航海(KS-19-12,KS-20-16,KS-21-5,KS-21-25及びKS-23-4,すべて「新青丸」)にて行われた(KS-23-4については行われる見込み).記して感謝を表する.
ウェーブグライダーはLiquid Robotics社(米)が開発した,自動自律航行する無人海上観測機であり,その第三世代機であるSV3は,全長約3mのフロート部と同約2mのグライダー部から成る.海上のフロート部と海中のグライダー部は全長約8mのアンビリカルケーブルで繋がれており,波浪によるフロート部の上下運動をグライダー部の羽根で前向きの力に変換することで,燃料や電力の消費に依らずして推進力を得る.航行時には,ラダーの角度を海流の向きを踏まえて調節して設定した航路をたどれるようにしたり,船舶自動識別装置を搭載した船舶との衝突を回避したりといった自律制御がなされる.フロート部の太陽光パネルと二次電池からの電力供給により,航行制御や陸上との通信,観測機器の作動及びデータ収録などが行われる.
GNSS-A観測を行うための機材とともに,観測機器の制御やデータ伝送を行うために,スラーヤ衛星通信システムを搭載した.取得したデータの一部や観測機器制御の履歴情報などを陸上に準リアルタイムに伝送することで,海底局の起動状況の確認や音響走時データ及び測距時のGNSS測位結果等の取得が可能となっており,補正情報を利用した高精度のGNSS測位ができれば,準リアルタイムに海底局アレイ位置の変化すなわち海底地殻変動が検出できるシステムとなっている.さらに,2021年度からは,フロート前後のGNSSアンテナのピラーや中央のマストに温湿度計を,フロート船尾部にCTDセンサーを設置し,海上湿度や海面水温及び塩分についてもデータを収録している.2022年5月から7月までに実施した第5回の長期運航の際に取得したデータについては,Nagano et al. (2022, Sensors)にて報告済みである.また,2022年には,釧路・十勝沖の津波計(海底水圧計,PG1)直上で,海底反射波による海面高度測定を行い,海底水圧,海面高度・水温・塩分,海上湿度・気温・気圧及びGNSS観測による上空の水蒸気量を同時に計測することにも成功した.
2020年6月以降,春~夏に根室半島沖~福島県沖の観測点を網羅する1~2か月程度の観測を,夏~秋に青森県沖~岩手県沖の観測点を重点的に巡回する1か月弱の観測を実施してきた.第4回の運航中にフロート中央部のマストが倒壊したり,第6回の運航中(観測終了後)に海況不良によって予定していた通りの回収ができなかったりしたものの,他船との接触や内部機器の深刻な不具合のような,データ取得に関する大きなトラブルを起こすことなく観測を実施できている.本大会開催時には第7回の長期運航を実施している見込みである.本発表においては,第7回も含めた長期運航の実績について紹介するとともに,ウェーブグライダーを用いたGNSS-A観測の限界や今後の技術開発方針について得られた知見を報告する.
謝辞:本研究の一部はJSPS科研費JP19H05596及びJP20KK0097の助成を受けて行われた. また,ウェーブグライダーの投入及び回収の一部は,東京大学大気海洋研究所の共同利用研究航海(KS-19-12,KS-20-16,KS-21-5,KS-21-25及びKS-23-4,すべて「新青丸」)にて行われた(KS-23-4については行われる見込み).記して感謝を表する.