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[SSS13-06] 珪藻分析で推定した千島海溝沿いの17世紀巨大地震に伴う地殻変動
キーワード:古地震、地殻変動、千島海溝
珪藻群集分析に基づき過去の地殻変動の履歴を構築する手法を開発し,北海道十勝地方,大樹町の当縁湿原において17 世紀巨大地震前後の地殻変動量を推定した.当縁湿原では,17世紀の巨大地震に伴う津波堆積物が海岸から2km以上内陸まで分布している.ここで標高2.5-3.0m (TP) の地点でこの津波堆積物を含むコアを採取して珪藻群集を調べたところ,この地震発生直前まで徐々に沈降しており,地震後に隆起に転じ,その後はしばらく隆起傾向が続いた様子が示された.一方,潮間帯から潮上帯に生育するPseudopodosira kosugii は津波堆積物の層準で最も多く産出する.同じ湿原の干潟〜塩性湿地の3地点で Pseudopodosira kosugii の生息分布と標高,潮位との関係を詳しく調べた結果,分布限界およびモードはそれぞれ,0.8〜1.3m (TP),-0.2〜0.3m (TP) であることがわかった.このばらつきは環境の違いを反映したものと考えられる.過去の地殻変動は,地層中に出現するこの珪藻の分布限界およびモードを現在の標高と比較することで推定することができる.すなわち,現在の地層中にみられる分布限界は,地盤が隆起する過程で分布限界高度を超えてからさらに隆起した量を示す,同じくモードは,地震発生時に沈降から隆起に転じた時期を示すものなので,隆起量は最大でも現生のこの珪藻の分布モードの標高からの高さとなる.よって,分布限界とモードの両者を用いることで隆起量を制約できる.現生の分布高度については,当時の環境がわからない以上,モードについては3か所のうち最も低い標高,分布限界高度については最も低い標高をもとに検討すべきである.複数の調査地点のコアを用いて検討した結果,隆起量は1.5mと精度良く推測することができた.なお,この隆起量は地震時隆起と地震後隆起を合わせてものであるが,隆起が地震発生後に急激に起きていないことが珪藻分析からわかっているので,地震時隆起の寄与はほとんどないと考えられる.先史時代の地殻変動を詳細に検討した事例は貴重であり,波源モデルの構築や津波想定の再検討にも重要となる.