日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 活断層と古地震

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:00 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)、安江 健一(富山大学)、座長:佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)

14:30 〜 14:45

[SSS13-09] 19世紀中期以降における地震断層出現事例から再考してみた活断層調査の目標

*小松原 琢1 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所)

キーワード:活断層、長期評価、すべり予測モデル、歴史地震

1. はじめに
 19世紀中期以降に地震断層を出現させた内陸地震は18例ある。僭越ながら、これらの地震断層の出現位置や変位量から防災のための活断層調査の現実的な目標を再考してみた。
 2. 既知活断層のない場所に出現した地震断層および非固有規模の地震断層の事例
 これまでになされてきた断層地形研究や地震前の空中写真判読から、地震前に活断層として地形学的に認定できていなかった場所に地震断層が出現した事例は1891年濃尾地震の梅原断層など7例ある。このうち2例(2004年新潟県中越地震と2008年岩手宮城内陸地震:ともに活褶曲に関連する)を除くと、他はすべて西南日本内帯で発生している。しかし、地震後の調査により、このすべてが第四紀後期に活動していたことが明らかにされた。また、地震断層出現後のトレンチ調査によって、出現した地震断層が明らかに「固有規模」ではないことが示された事例は、2014年神代断層地震など20世紀末以降の地震で3例ある。
 3. 活断層調査の目標に関する私見
活断層を起震断層とする地震発生の評価にあたっては、断層の位置、長さ、活動履歴、平均変位速度、の解明が最重要な調査目標とされる。このうち位置と長さは最も確実なデータが得られると期待されるが、特に西南日本内帯では、地形学的に活断層が認識できなかった事例が少なくない。また活動履歴については、非固有規模の地震断層を生じさせたMj=6.2~6.8の地震が過去30年あまりの間に3度起きていることから、現行調査法で見落としなく地震断層発生履歴を把握できているのか疑問を感じざるを得ない。
 断層の位置と長さについては(特に西南日本内帯において)地形判読に加え地表踏査による活断層検知を進める必要があるのではないだろうか。また、地震発生確率予測についてはKatsube et al. (2017) の2014年神代断層地震の研究(原典ではtime predictable model)で示されたように、slip-predictable model (Shimazaki and Nakata, 1980) に基づいて、最後の断層活動以降に蓄積された地震モーメント相当量を求める方が、非固有規模の地震活動を評価する上で重要ではないだろうか?
 4. Slip predictable mmodelによる地震発生ポテンシャル評価の利点
断層活動履歴に基づく地震発生予測は、新潟県中越地震や岩手・宮城内陸地震の起震構造のような幅広い変形帯を伴う構造に適用できるとは限らない。一方、上下変位を生じる構造の多くで平均変位速度と最新活動の上限年代を明らかにすることは可能である。さらに今までに得られた調査データから、それらを推算することも多くの場合可能であろう。
これらを考慮すると、平均変位速度と最新活動時期(の上限年代)からslip-predictable modelによって発生し得る地震のモーメントを推定することは、地震評価の1つの目標になるのではないかと演者は考えている。
議論を乞う。
 文献
 
Katsube, A. Kondo, H. and Kurosawa, H. (2017) Surface rupturing earthquakes repeated in the 300 years along the ISTL active fault system, central Japan. Geophysical Research Letters, 44, 6057-6064.
 Shimazaki, K. and Nakata, T. (1980) Time-predictable recurrence model for large earthquakes. Geophysical Research Letters, 7, 279-282.