10:45 〜 12:15
[SSS13-P05] 浅部地下構造調査に基づく奈良盆地東縁断層帯南半部の断層分布形状と上下変位速度分布
キーワード:奈良盆地東縁断層帯、ボーリングデータベース、浅部地下構造、逆断層、帯解断層
1.はじめに
活断層の上下変位速度分布は,アスペリティの位置を検討するために重要な情報である.多地点で上下変位量を計測する際には,一般的に地形学的手法が用いられるが,断層の低下側で新期の堆積物が地形を埋没させることにより,地形学的な計測では上下変位量を過小評価したり,正確な変位量分布を把握できない可能性がある.そこで,稠密なボーリングデータを集積した「関西圏地盤情報データベース」(KG-NETほか,2021)を活用し,地質学的手法によって上下変位量を測定する方法に着目した.奈良盆地東縁断層帯の中で最も盆地中心側に位置する帯解断層(図1)は,主にL2段丘面を変位させているが,断層変位地形が不明瞭なことから詳細な断層分布形状については意見が分かれ,上下変位量分布については十分な調査がなされていない(例えば,八木ほか,1997;産業技術総合研究所,2014).さらに,奈良盆地東縁断層帯の平均変位速度は帯解断層と天理撓曲(図1)の合算値として推定されているものの,帯解断層の平均変位速度は十分に解明されておらず(奥村ほか,1997 ;地震本部,2001),より多くの地点での測定が求められる.本研究では,主にL2段丘面を変位させる帯解断層とその近傍の活断層について浅部変形構造の調査を行い,断層分布形状と上下変位速度分布について検討した.
2.方法
「関西圏地盤情報データベース」(KG-NETほか,2021)を利用してL2段丘礫層の上面を系統的に認定し,その標高を測定した.Surfer(Golden Software社製)を用いて作成したL2段丘礫層上面の数値標高モデルから撓曲変形の範囲を認定し,断層の分布形状について検討した.また,主に帯解断層を東西に横切る地質断面図を複数作成し,L2段丘礫層上面の上下変位量を測定した.各断面図をつなぐ南北方向の地質断面図を作成し,同一の層準をL2段丘礫層として認定していることを確認した.小林(2018),文科省研究開発局・防災研(2022)により得られている堆積層の年代からL2段丘礫層上面の年代を推定し,断層の上下変位速度を算出するとともにその分布傾向について検討した.
3.結果と議論
解析した4,433本のボーリングデータのうち,2,054本でL2段丘礫層を認定した.大安寺付近から天理市川原城町に至る約9 kmの区間において,帯解断層の地表トレースに沿った増傾斜部が認められ,埋没した撓曲変形を示すと解釈した(図1 (b)).この撓曲変形は帯解断層の地表トレースより最大で約600 m西側までおよぶことから,撓曲の低下側が沖積平野により埋没しており,盆地のより中心側に変形の前線が位置することが示唆される.変動地形が不明瞭な奈良市池田町から天理市川原城町に至る区間でも撓曲変形が認められ,都市圏活断層図(八木ほか,1997)の地表トレースより約3 km南まで帯解断層が延びることが明らかとなった.帯解断層以外についても,地形学的に認定されていた活断層の存在を地質学的な手法でも確認することができた.以上のことから,より正確な断層分布の評価のためにボーリングデータベースの解析が有効であることが示された.帯解断層によるL2段丘礫層上面の上下変位量(および上下変位速度)分布は天理市櫟本町付近で極小となった(図2).ここでは櫟本撓曲が並走しており,帯解断層の変位の一部が櫟本撓曲に分散している可能性がある.小林(2018), 文科省研究開発局・防災研(2022)で得られている堆積層の年代から,L2段丘礫層上面の年代は26~35 kaと推定された.帯解断層の上下変位速度は最大で約0.3~0.5 mm/yr,断層帯の上下変位速度は帯解断層・田中町付近の断層・天理撓曲の値を合算して約0.5~0.7 mm/yrと算出された.
4.結論
ボーリングデータベースの解析による浅部構造調査の結果,変動地形が不明瞭な奈良市池田町から天理市川原城町に至る区間で帯解断層による撓曲変形を認定した.測定した上下変位量から,断層帯の上下変位速度は帯解断層・田中町付近の断層・天理撓曲の値を合算して約0.5~0.7 mm/yrと算出された.断層帯前縁部の断層による撓曲変形は,地表トレースより最大で600 m西側に位置する可能性が示唆され,稠密なボーリングデータベースの解析は広範囲にわたる撓曲変形の分布形状と上下変位量を調査するために有効であることが示された. ただし,L2段丘面より上位の段丘面を変位させる断層については異なる手法による調査が求められる.
活断層の上下変位速度分布は,アスペリティの位置を検討するために重要な情報である.多地点で上下変位量を計測する際には,一般的に地形学的手法が用いられるが,断層の低下側で新期の堆積物が地形を埋没させることにより,地形学的な計測では上下変位量を過小評価したり,正確な変位量分布を把握できない可能性がある.そこで,稠密なボーリングデータを集積した「関西圏地盤情報データベース」(KG-NETほか,2021)を活用し,地質学的手法によって上下変位量を測定する方法に着目した.奈良盆地東縁断層帯の中で最も盆地中心側に位置する帯解断層(図1)は,主にL2段丘面を変位させているが,断層変位地形が不明瞭なことから詳細な断層分布形状については意見が分かれ,上下変位量分布については十分な調査がなされていない(例えば,八木ほか,1997;産業技術総合研究所,2014).さらに,奈良盆地東縁断層帯の平均変位速度は帯解断層と天理撓曲(図1)の合算値として推定されているものの,帯解断層の平均変位速度は十分に解明されておらず(奥村ほか,1997 ;地震本部,2001),より多くの地点での測定が求められる.本研究では,主にL2段丘面を変位させる帯解断層とその近傍の活断層について浅部変形構造の調査を行い,断層分布形状と上下変位速度分布について検討した.
2.方法
「関西圏地盤情報データベース」(KG-NETほか,2021)を利用してL2段丘礫層の上面を系統的に認定し,その標高を測定した.Surfer(Golden Software社製)を用いて作成したL2段丘礫層上面の数値標高モデルから撓曲変形の範囲を認定し,断層の分布形状について検討した.また,主に帯解断層を東西に横切る地質断面図を複数作成し,L2段丘礫層上面の上下変位量を測定した.各断面図をつなぐ南北方向の地質断面図を作成し,同一の層準をL2段丘礫層として認定していることを確認した.小林(2018),文科省研究開発局・防災研(2022)により得られている堆積層の年代からL2段丘礫層上面の年代を推定し,断層の上下変位速度を算出するとともにその分布傾向について検討した.
3.結果と議論
解析した4,433本のボーリングデータのうち,2,054本でL2段丘礫層を認定した.大安寺付近から天理市川原城町に至る約9 kmの区間において,帯解断層の地表トレースに沿った増傾斜部が認められ,埋没した撓曲変形を示すと解釈した(図1 (b)).この撓曲変形は帯解断層の地表トレースより最大で約600 m西側までおよぶことから,撓曲の低下側が沖積平野により埋没しており,盆地のより中心側に変形の前線が位置することが示唆される.変動地形が不明瞭な奈良市池田町から天理市川原城町に至る区間でも撓曲変形が認められ,都市圏活断層図(八木ほか,1997)の地表トレースより約3 km南まで帯解断層が延びることが明らかとなった.帯解断層以外についても,地形学的に認定されていた活断層の存在を地質学的な手法でも確認することができた.以上のことから,より正確な断層分布の評価のためにボーリングデータベースの解析が有効であることが示された.帯解断層によるL2段丘礫層上面の上下変位量(および上下変位速度)分布は天理市櫟本町付近で極小となった(図2).ここでは櫟本撓曲が並走しており,帯解断層の変位の一部が櫟本撓曲に分散している可能性がある.小林(2018), 文科省研究開発局・防災研(2022)で得られている堆積層の年代から,L2段丘礫層上面の年代は26~35 kaと推定された.帯解断層の上下変位速度は最大で約0.3~0.5 mm/yr,断層帯の上下変位速度は帯解断層・田中町付近の断層・天理撓曲の値を合算して約0.5~0.7 mm/yrと算出された.
4.結論
ボーリングデータベースの解析による浅部構造調査の結果,変動地形が不明瞭な奈良市池田町から天理市川原城町に至る区間で帯解断層による撓曲変形を認定した.測定した上下変位量から,断層帯の上下変位速度は帯解断層・田中町付近の断層・天理撓曲の値を合算して約0.5~0.7 mm/yrと算出された.断層帯前縁部の断層による撓曲変形は,地表トレースより最大で600 m西側に位置する可能性が示唆され,稠密なボーリングデータベースの解析は広範囲にわたる撓曲変形の分布形状と上下変位量を調査するために有効であることが示された. ただし,L2段丘面より上位の段丘面を変位させる断層については異なる手法による調査が求められる.