日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT39] 合成開口レーダーとその応用

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)、座長:木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)


10:45 〜 11:00

[STT39-01] 干渉合成開口レーダー(InSAR)の干渉条件

*飛田 幹男1、古田 竜一1藤原 智2小林 知勝2 (1.一般財団法人リモート・センシング技術センター、2.国土交通省国土地理院)

キーワード:合成開口レーダー、臨界垂直基線長、導出

人工衛星に搭載された合成開口レーダー(SAR)センサが取得したSARデータの干渉処理による干渉合成開口レーダー(SAR Interferometry: InSAR)の基礎的な計算式の内、臨界垂直基線長(Critical baseline)の新しいシンプルな導出法を見出したので、紹介したい。
 ある画素を撮像した2回の衛星位置の間を結ぶ基線ベクトルの視線方向に垂直な成分を垂直基線長と呼ぶ。臨界垂直基線長B⟂cは、これよりも垂直基線長が長くなると干渉位相が得られないという臨界値である。この臨界基線長は、変位計測の精度に直結するSAR干渉画像のコヒーレンスを支配する最も重要な要素の一つである。そのため、SAR衛星の設計・軌道制御に加え、SARデータ解析戦略などに大きな影響を及ぼしてきた。臨界基線長の計算式は、1980年代に提唱され、上記の用途及び学術論文において利用及び引用されてきたが、その導出法には課題がある。多くの論文は過去の論文の計算式を引用しているが、実際に過去の論文をたどってみると、論文の目的や条件が現在とは異なり、臨界基線以外の様々な論点・計算式・変数に埋もれ、臨界基線そのものの導出法を抽出するのは困難かつ非効率である。また、臨界基線長計算式の導出法には複数のアプローチが提案されているが、一部省略されているものや、空間周波数と時間周波数の関係が曖昧なもの、偏微分の扱いに疑問があるものもあった。
 従来の導出法と比べて、シンプルでクリアな新たな臨界基線長の計算式を提案する。微小時間dt (sec)間に、レンジがdR (m)、オフナディア角がdθ (rad)、行路差でもあるB∥がdB∥ (m)、干渉位相がd𝜙 (cycle)変化する場合の関係式から、後方散乱波のスペクトルシフト周波数d𝑓(Hz)を求める。ここで、𝜙は(偏微分と全微分が必要な多変数関数ではなく)単なる合成関数なので、常微分の合成関数の微分公式を適用する。𝑑𝑓がレーダーバンド幅Wと等しくなると、もはや干渉しない。この時の垂直基線長Bが臨界基線B⟂cとなる。
 講演においては、新たな計算式とともに、常微分を適用する理由の他、各SAR衛星の臨界基線長の比較、地殻変動勾配臨界値などについても紹介する。また、一般に山の衛星側斜面は後方散乱強度が強いため高いコヒーレンスを示す場合が多いが、垂直基線長が長い場合には衛星から遠い側の(Far側)斜面の方がコヒーレンスが高い場合があるという珍しい事例とその定量的理由についても紹介する。