日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT39] 合成開口レーダーとその応用

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)、座長:木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)


11:00 〜 11:15

[STT39-02] Lバンド干渉SARにおける積雪の影響
—積雪深と逆相関するパラドックスの存在—

*藤原 智1 (1.国土交通省 国土地理院)

キーワード:干渉SAR、Lバンド、積雪

はじめに
国土地理院では、LバンドSARを搭載するだいち2号(ALOS-2)を用いて、干渉SARによる全国の地殻・地盤変動の検出・監視を行っている。SAR干渉画像には、様々な要因による誤差が含まれており、その中でも積雪による影響は、冬期の北日本や山岳地帯では非常に大きい。積雪している場所は全く干渉しない場合も多いが、良好な干渉を示すこともあり、積雪深や雪の状況に関する情報を得られる可能性もある。
本報告では、積雪後の融雪によって積雪深と逆相関してしまうSAR干渉画像の例を示すことで、Lバンド干渉SARにおける積雪の影響の複雑さの一面を紹介する。

胆沢平野の例
Figure左に、岩手県奥州市付近の胆沢平野のALOS-2のSAR干渉画像(2022年2月3日–3月17日)を示す。胆沢平野は西から東に広がる広大な扇状地であり、高低差は200m以上ある。その斜面に沿ってSAR干渉画像の位相値が緩やかなグラデーションを示している。東側ほど衛星から遠ざかる変位であり、上下変位だとすれば東側ほど沈降し、その量は10cm以上になる。
近隣のアメダスデータからは、プライマリ画像の2月3日には前日までに10cm以上の積雪があり、セカンダリ画像の3月17日には積雪がない。2月3日の気温は0度程度で湿度のやや低い西風が吹いており撮像数時間前から日照があった。
SAR干渉画像について、積雪深に応じてマイクロ波の反射面が変化したと仮定すると、2月3日から3月17日の間で積雪がなくなっていることから、2月3日には扇状地の末端である東側ほど積雪が深かったことになってしまう。しかしながら、地形や季節風からすれば、西側ほど積雪が深いはずであり、SAR干渉画像と積雪の関係が逆となるパラドックスが生じている。

十勝平野の例
Figure右に、北海道帯広市付近の十勝平野のALOS-2のSAR干渉画像(2016年11月19日–2017年2月25日)を示す。この画像内の平野部では、南側の標高が北側より150m以上高い。その斜面に沿ってSAR干渉画像の位相値が緩やかなグラデーションとなっており、南側ほど衛星から遠ざかる変位で、上下変位だとすれば南側ほど沈降し、その量は10cm以上になる。プライマリ画像の11月には積雪がなく、セカンダリ画像の2月には数十cm以上の積雪があるため、胆沢平野と積雪の順序は逆だが現象としては同様である。セカンダリ画像の2月25日の天候は前日から晴れで気温は-1度程度である。
この画像内には2か所のアメダスによる積雪深の観測があり、Figure右に示したように、標高の高いほうが積雪は深く、十勝平野の例でもSAR干渉画像と積雪の深さは逆の結果となっている。

積雪パラドックスの考察
Lバンドマイクロ波にとって、低温で降雪直後のようなドライな雪(氷粒+空気)は「透明」であり、マイクロ波は積雪を透過してその下の土壌からの反射としてSARで観測される。ところが、日照や土壌の熱等により融解が進んでウエットな雪(氷粒+融けた水+空気)になることで、ウエットな雪の中でマイクロ波の体積散乱が発生すれば、見かけ上のマイクロ波の反射面上昇が説明できる。どちらの例も降雪後に日照があり、気温も低すぎない。標高の低い側ほど気温が高いために積雪の融解が進んで、よりウエットな雪に変わり、融解度に応じて、より表面に近い場所でマイクロ波が体積散乱による反射をしたとすれば、この現象を説明できる。一方、反射面が地面のままだとしても、より融雪の進んだ場所ほど誘電率の変化で位相遅延量が大きくなったことでも説明ができる。
なお、Figureで示した平野内は田や畑が比較的均一に広がっているために、特定の気象条件下で均一な融解が進むことで、良好な干渉及び一様なグラデーションを示すSAR干渉画像が得られている。しかし、植生の違い等でも大きく異なった干渉SARの位相変化が生じることがあり、Lバンド干渉SARにおける積雪の影響の複雑さは一筋縄ではなく、解釈には十分な注意が必要である。