日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT39] 合成開口レーダーとその応用

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (17) (オンラインポスター)

コンビーナ:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[STT39-P15] ディープラーニングを用いた洪水域検出におけるSARコヒーレンスの有用性について

*田中 謙太郎1、内田 翔太1、安井 秀輔1、Raveerat Jaturapitpornchai1、出口 知敬1、齋藤 亮1 (1.株式会社スペースシフト)

キーワード:合成開口レーダー、ディープラーニング、PALSAR-2、洪水、コヒーレンス

洪水は人々の生命や財産に多大な損害を与える最大規模の自然災害の1つとして知られている。洪水の被害状況を迅速に把握し影響を評価するための重要な情報源として、地表面の情報を広範囲かつ一度に取得できる衛星観測が有効である。特に合成開口レーダ(SAR)は、マイクロ波の反射を観測するものであり、夜間や天候の影響を受けないことが特徴である。SARから得られる情報には強度画像やコヒーレンス画像が存在し、それぞれ以下のような点で洪水のモニタリングに有効と考えられている。水域がマイクロ波を衛星に反射しないため暗く映ることを利用し、洪水時と非洪水時の強度画像を比較し輝度が大きく減少している領域を浸水域と判読するために活用される。また、SARのコヒーレンス画像は都市部や植生地など、異なるタイプの土地被覆で発生した洪水を特定するために活用される。
 浸水域をSARから推定する手法については以前より様々な手法が検討されてきた。その中でディープラーニングを用いた手法が近年注目され始めている。特にディープラーニングを用いた手法では洪水時と非洪水時の強度画像のペアを利用したセマンティックセグメンテーションによる浸水域の推定が盛んに試みられている。その一方で、洪水のモニタリングで有用であることが示唆されているコヒーレンス画像を、ディープラーニングに活用している事例はほとんど存在しない。
 そこで、本稿ではSARの洪水時と非洪水時の強度画像のペアに加えコヒーレンス画像をモデルのインプットに追加して学習させた場合と、洪水時と非洪水時の強度画像のペアのみで学習させたディープラーニングによる手法の性能を比較し、ディープラーニングにとって浸水域の判断に有用な特徴量をコヒーレンス画像が含みうるのかを検証した。本稿ではALOS-2/PALSAR-2の強度画像及びSAR single look complex(SLC)画像の浸水時と非浸水時のペアから生成されたコヒーレンス画像を利用した。
 精度評価実験は、k-meanクラスタリング法などの従来手法と、洪水発生前と発生時の強度画像で学習したディープラーニングによる手法、洪水発生前と発生時のペアから生成されたコヒーレンス画像及び洪水発生前と発生時の強度画像で学習したディープラーニングによる手法の推論結果との比較により実施し、結果の検証には2015年9月の茨城県常総市で発生した洪水で実施した。本手法の精度は、真陽性(TP)、真陰性(TN)、偽陽性(FP)、偽陰性(FN)、Intersection over Union(IOU)で評価した。本実験の結果ディープラーニングを用いた浸水域の推定において、コヒーレンス画像を追加情報として用いることで、IOUが大幅に増加し、既存の水域の検出によるFPが減少し精度が向上するという結果が得られた。このことから、ディープラーニングが浸水域を判断するために有用な特徴がコヒーレンス画像に含まれるという示唆が得られた。