日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT40] 空中からの地球計測とモニタリング

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、座長:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

14:30 〜 14:45

[STT40-04] UAVに搭載した近赤外マルチスペクトルカメラによる野外における土壌水分の計測

★招待講演

*小野 秀史1 (1.株式会社エイト日本技術開発)

キーワード:近赤外マルチスペクトルカメラ、UAV、土壌水分

はじめに
我々の研究グループは,迅速性と安全離隔(非接触)が要求される災害現地調査に活用する目的で,マルチスペクトル/ハイパースペクトルカメラの適用を検討している.これまでに,人工調整試料や天然試料(火山砕屑物等)を使用した室内実験の結果から,試料の含水状態と近赤外領域における反射スペクトル強度の相関を同手法によって表現できることを再確認した.また解析結果から試料の粒径や粒度分布等の違いによる水分分布の差異について識別ができ,マッピング画像によってその特徴差を表現できることを確認した.さらに原位置土壌の含水状態を評価する目的で野外実験を行い,野外計測における課題・問題点の検討を行っている.
現在,地上観測,有人機や人工衛星観測による観測を補足する目的から,UAVを用いた観測について検討を進めている.今回,近赤外マルチスペクトルカメラをUAVに搭載し,表層土壌の含水状態を上空から観測した実証試験について報告する.また,野外における土壌の含水状態計測の課題と問題点,UAV搭載カメラによる撮影の際の課題について報告する.
技術的特徴
1)近赤外マルチスペクトルビデオカメラ:太陽光源を用いた土壌水分の観測・計測に目的を特化し,加えてUAVに搭載可能なようにカメラと周辺システムの小型化を目指した.水の吸収スペクトル特性は1450nm帯に現れるが,太陽光源を用いると大気中水分の影響により1450nm帯そのものの計測が不能なため,1300nm付近および1500nm付近を計測帯として使用した.これらの帯域と,正規化に用いるより短波長側の帯域を含めて,NDSⅠ(Normalized Difference Spectral Index)解析に要する4~5帯域のセンサーの搭載に限定したカメラシステムとした.2)搭載したマルチスペクトルカメラのスキャン方式:当該カメラはラインスキャンを行わないスナップショット方式を採用しており,撮影位置および撮影角度の固定(設定)が可能である.このため,撮影画像と3次元空間位置情報の関連付けを行いやすい利点がある.3)計測対象物の識別:計測対象の土壌をそれ以外の大気,雲,植生等と識別・判別するために,画像AI処理のほか,撮影対象物毎のスペクトル特性の違いに基づいた標準データにより判別を行う手法を採用している.
計測方法・条件
UAVにジンバルを介して近赤外マルチスペクトルカメラ据え付け,制御コンピュータとバッテリーを搭載した.また,近赤外マルチスペクトルカメラと同軸に小型RGBカメラを搭載した.撮影対象を含む地表面に対し,上空から鉛直下方・斜め下方の撮影を行い,同時に反射強度の補正および基準化のために標準反射板の撮影を行った.通常の野外撮影では,標準反射板を撮影対象と同条件の地上に設置する必要があるが,災害時等にはこれが困難なことから,標準反射板を機体に搭載し撮像と同時に情報記録する方法も試みた.
スペクトル解析では,暗電流補正,標準反射板データによる強度補正を行った後,誤差因子緩和にNDSIによる正規化を行う.正規化には,1050nm,1150nmを標準波長とし,スペクトル吸収特性を示す水分子運動の基準振動の第一倍音(1450nm)に近接する1300nm,1500nm帯を使用した.
実験結果
近赤外撮影画像はRGB画像等と比較し,土質の違いによらず,乾燥・湿潤状態の識別を容易とする結果を示した.撮像データについてNDSIスペクトル解析を実行した結果,上空30mからの撮像データでは,数10cm四方の狭小領域に対して含水状態の差を識別でき,程度(含水率)や分布域を客観的に示す可能性を示した.同高度からの撮影では,撮影対象の粒径・粒度分布の違いによる含水状態の差異も認識できる.また,崩壊地や崖錐斜面での実証試験では,礫質土の基質・砂質土について,粒径・粒度分布が同等であっても,含水状態の差異の識別が可能なことを確認した.
課題と今後の目標
以下について検討・改良の必要性を確認した.1)光源である太陽光の入射条件に対する補正.2)大気中水分の影響にたいする補正.3)対象土壌に含まれる水分量が多い場合の温度補正.現時点では定性的な評価の範囲に留まるが,今後,撮影対象試料の含水率を段階的に変化させて撮像を行い,定量的評価について検証を行う.また,光源の条件(入射角,露光量)によって撮像が受ける影響や,撮影距離と大気中水分の影響などについて,検討を進める予定である.