日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT40] 空中からの地球計測とモニタリング

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (18) (オンラインポスター)

コンビーナ:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[STT40-P05] ヘリコプター搭載型可搬型赤外線カメラシステム(STIC-P)による那須岳の輝度温度分布の観測

*實渕 哲也1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:可搬型カメラ、火山観測、赤外カメラ

防災科学技術研究所(防災科研)は,地上での観測と航空機による上空からの手持ち観測を実現できる可搬型赤外カメラシステム:Structure and Thermal Information Capture-Portable (STIC-P)を,2020年3月に開発した.ここでは,STIC-Pの試験的運用として実施した那須岳の山頂付近の地熱地帯の輝度温度の観測結果を述べる.
防災科研では,火山観測用途の航空機搭載型リモートセンシング装置の開発研究と活用を1988年より実施している.我々は,手持ち可能な可搬型で,地上観測やヘリコプター等による上空からの斜め観測を実現できる可搬型赤外カメラシステム(STIC-P)を2020年3月に開発した. STIC-Pは赤外カメラ1台,可視カメラ2台で構成され,各カメラは,静止画像またはビデオ(30Hz)画像を測定できる.2021年4月には,STIC-Pの性能検証として,ヘリコプター搭載のSTIC-Pを用い,箱根大涌谷斜め上空から試験観測を実施し,Structure from Motion / Multi View Stereo (SfM/MVS)処理によりDigital Surface Model (DSM)が作成できることを検証した.
引き続き我々は,STIC-Pによるオペレーショナルな火山観測の実現を目指し,STIC-Pによるヘリコプター(ベル式 206B 型:(株)ヘリサービス保有機)からの那須岳(無間地獄)周辺の輝度温度等の試験観測を,2021年11月14日および2022年10月21日に実施した.観測条件は,観測高度は海抜2700m,測線は,那須岳を中心とした半径1500mの円周状測線からの斜め観測とし,互いに部分的に重畳する画像として,各観測で258枚(2021年),212枚(2022年)の輝度温度画像データを取得した.これらにSfM/MVS処理を適用した結果,両観測結果ともDSMの推定が可能で,DSMからの等高線図作成や地図情報を持つオルソ補正画像の作成を,位置誤差約10m以内で行え,那須岳(無間地獄付近)の輝度温度分布等を定量的に把握できた.2021年11月14日に観測された最高輝度温度は,西斜面噴気孔Aで計測された54.0℃,放熱率は0.195MWであった.2022年10月21日に観測された最高輝度温度は,同じく西斜面噴気孔Aで計測された62.8℃,放熱率は0.188MWであった.各観測で計測された西斜面噴気孔Aの2021年と2022年の輝度温度分布と形状は,ほぼ同様であると評価できた.
以上の結果より,STIC-Pで取得した複数の重畳する斜め観測画像にSfM/MVS処理を適用することで地図座標をもつ3次元情報を推定でき,そのオルソ補正処理で得た輝度と面積の定量的な情報を有する輝度温度分布情報により,火山の地熱地帯の定量的な比較評価ができることが分った.今後,STIC-Pによる同様の観測データを継続的に蓄積することで,放熱率等を用いた地熱域の経時的,定量的評価が可能となり,火山の地熱地帯の評価手法としてのSTIC-Pの活用が期待できる.