15:30 〜 17:00
[STT41-P07] 国際規格に適合した新幹線用早期検知地震計の導入
キーワード:地震計、新幹線、国際規格、電磁両立性
1. はじめに
高速鉄道をはじめとした鉄道は、社会の重要なインフラであり、鉄道の運行停止は社会活動に大きな影響を与えうる。新幹線用早期検知地震計(以下、新幹線用地震計)は、地震時にインフラの一つである新幹線を停止させる機能を有するため、他の新幹線設備同様高い信頼性が求められる。ここでは、新幹線用地震計をEMCに関する国際規格(以下、EMC国際規格)に適合させる意義を整理したのち、新幹線への導入状況を報告しその効果について考察する。
2. 経緯
新幹線用地震計は、高速鉄道を地震から防護することを目的として、新幹線開業時から使用されている。現在運用されている地震計は鉄道総研が開発したもので、2004年から新幹線に導入された。
新幹線用地震計の仕様要件としてEMC国際規格の適用を検討し始めたきっかけは、まだ開業していない北陸新幹線(長野~金沢間)の開業を控えた2006年に、筆者が北陸の気象状況を調べた際、冬季雷という現象が多いという記事を見つけたことである。冬季雷は夏季雷と比較して発生事象が少ないものの、放電エネルギーは冬季雷が夏季雷のおよそ10倍とされている。冬季雷などの強い電磁波を伴う自然現象ならびに地震計周辺の電磁波に対して地震計の故障リスクを下げる対策の検討を行った結果、EMC試験を行うことが望ましいとの結論に至った。
EMCとは、Electro Magnetic Compatibilityの略称であり、電磁両立性と訳される。EMC試験は、強い電磁波や、落雷などによって有線から印加される高い電圧入力に対して、安定して動作することを確認する試験である。鉄道総研では、新幹線で用いられる地震計を対象として、鉄道用のEMC国際規格(IEC 62236)に準拠したEMC試験実施の仕様書1)(以下、EMC仕様書)を2010年に策定した。現在の新幹線用地震計は、鉄道総研が策定したEMC仕様書に基づいて製作が行われている2)。
3. 国際規格適合の意義
一般に国際規格とは、製品の性能・互換性あるいはサービスの品質を一定の水準に保つために、世界各国で共通して適用できる試験方法や評価基準を定めたものである。地震計を含む電子通信機器については、IEC(国際電気標準会議)が策定した電子・電気関係の規格や、ITU(国際電気通信連合)が定めた通信関連の規格が多く用いられている。なお、日本の国内規格であるJIS(日本産業規格)は、1995年以降、国際規格との整合性が図られている。
地震計の設計および製造方法に国際規格を適用することにより、安定的に動作する地震計の製造を可能とし、地震時における確実な安全対策の実現につなげることこそ、国際規格適合の意義である。なお、鉄道総研が策定した新幹線用地震計のEMC仕様書は、地震計が受ける電磁波の強さを規定している。これは一般的な地震計製作仕様に定められている温度、湿度と同じく周辺環境を定義したものと捉えることができる。
4. 新幹線への導入効果
EMC仕様書策定から12年を経て2022年度中に、全ての新幹線用地震計がEMC試験適合機器への置き換えが完了する予定である。これまで電磁波に起因するものを含めて地震計の誤動作等の障害の報告は受けていないことから、策定したEMC仕様に準じて適切に地震計の設計及び製作が実施されたと考えられる。なお、新幹線への導入にあたっては、地震計製造メーカに対して国際規格の評価が可能な試験サイトにてEMC仕様書に準じた試験を行い、合格の評価をもって採用とした。この合否判定は、中立的な立場の試験サイトによって行われている。
5. おわりに
我が国の鉄道において、1950年代より地震計による地震対策が行われてきた。その後、緊急地震速報の普及により、広く一般社会においても地震情報が利用されている。地震情報の活用が進む一方で、地震計は地震を観測する機能だけでなく、列車を停止することを始めとしたインフラを制御する機能も有しており、社会に対する地震計の役割は時代を追うごとに大きくなっている。さらに、新幹線の安全運行に貢献するために、新しい信頼性向上の検討も進めている3)。本稿の内容は地震計の信頼性向上のための汎用性が高い技術である。今後インフラを制御する地震計分野へ採用の働きかけを行い、地震計の信頼性向上と低コスト化を目指したい。
参考文献
1) 佐藤、川﨑ら:国際規格適合のための新幹線用地震計製作仕様の策定、日本地球惑星科学連合大会2010、HDS23-10
2) 佐藤、川﨑ら:国際規格に適合した新しい新幹線用早期検知地震計の開発、日本地球惑星科学連合大会2012、STT59-01
3) 佐藤、信頼性を向上させたフェールセーフ地震計の構想、日本地球惑星科学連合大会2021、STT35-02
高速鉄道をはじめとした鉄道は、社会の重要なインフラであり、鉄道の運行停止は社会活動に大きな影響を与えうる。新幹線用早期検知地震計(以下、新幹線用地震計)は、地震時にインフラの一つである新幹線を停止させる機能を有するため、他の新幹線設備同様高い信頼性が求められる。ここでは、新幹線用地震計をEMCに関する国際規格(以下、EMC国際規格)に適合させる意義を整理したのち、新幹線への導入状況を報告しその効果について考察する。
2. 経緯
新幹線用地震計は、高速鉄道を地震から防護することを目的として、新幹線開業時から使用されている。現在運用されている地震計は鉄道総研が開発したもので、2004年から新幹線に導入された。
新幹線用地震計の仕様要件としてEMC国際規格の適用を検討し始めたきっかけは、まだ開業していない北陸新幹線(長野~金沢間)の開業を控えた2006年に、筆者が北陸の気象状況を調べた際、冬季雷という現象が多いという記事を見つけたことである。冬季雷は夏季雷と比較して発生事象が少ないものの、放電エネルギーは冬季雷が夏季雷のおよそ10倍とされている。冬季雷などの強い電磁波を伴う自然現象ならびに地震計周辺の電磁波に対して地震計の故障リスクを下げる対策の検討を行った結果、EMC試験を行うことが望ましいとの結論に至った。
EMCとは、Electro Magnetic Compatibilityの略称であり、電磁両立性と訳される。EMC試験は、強い電磁波や、落雷などによって有線から印加される高い電圧入力に対して、安定して動作することを確認する試験である。鉄道総研では、新幹線で用いられる地震計を対象として、鉄道用のEMC国際規格(IEC 62236)に準拠したEMC試験実施の仕様書1)(以下、EMC仕様書)を2010年に策定した。現在の新幹線用地震計は、鉄道総研が策定したEMC仕様書に基づいて製作が行われている2)。
3. 国際規格適合の意義
一般に国際規格とは、製品の性能・互換性あるいはサービスの品質を一定の水準に保つために、世界各国で共通して適用できる試験方法や評価基準を定めたものである。地震計を含む電子通信機器については、IEC(国際電気標準会議)が策定した電子・電気関係の規格や、ITU(国際電気通信連合)が定めた通信関連の規格が多く用いられている。なお、日本の国内規格であるJIS(日本産業規格)は、1995年以降、国際規格との整合性が図られている。
地震計の設計および製造方法に国際規格を適用することにより、安定的に動作する地震計の製造を可能とし、地震時における確実な安全対策の実現につなげることこそ、国際規格適合の意義である。なお、鉄道総研が策定した新幹線用地震計のEMC仕様書は、地震計が受ける電磁波の強さを規定している。これは一般的な地震計製作仕様に定められている温度、湿度と同じく周辺環境を定義したものと捉えることができる。
4. 新幹線への導入効果
EMC仕様書策定から12年を経て2022年度中に、全ての新幹線用地震計がEMC試験適合機器への置き換えが完了する予定である。これまで電磁波に起因するものを含めて地震計の誤動作等の障害の報告は受けていないことから、策定したEMC仕様に準じて適切に地震計の設計及び製作が実施されたと考えられる。なお、新幹線への導入にあたっては、地震計製造メーカに対して国際規格の評価が可能な試験サイトにてEMC仕様書に準じた試験を行い、合格の評価をもって採用とした。この合否判定は、中立的な立場の試験サイトによって行われている。
5. おわりに
我が国の鉄道において、1950年代より地震計による地震対策が行われてきた。その後、緊急地震速報の普及により、広く一般社会においても地震情報が利用されている。地震情報の活用が進む一方で、地震計は地震を観測する機能だけでなく、列車を停止することを始めとしたインフラを制御する機能も有しており、社会に対する地震計の役割は時代を追うごとに大きくなっている。さらに、新幹線の安全運行に貢献するために、新しい信頼性向上の検討も進めている3)。本稿の内容は地震計の信頼性向上のための汎用性が高い技術である。今後インフラを制御する地震計分野へ採用の働きかけを行い、地震計の信頼性向上と低コスト化を目指したい。
参考文献
1) 佐藤、川﨑ら:国際規格適合のための新幹線用地震計製作仕様の策定、日本地球惑星科学連合大会2010、HDS23-10
2) 佐藤、川﨑ら:国際規格に適合した新しい新幹線用早期検知地震計の開発、日本地球惑星科学連合大会2012、STT59-01
3) 佐藤、信頼性を向上させたフェールセーフ地震計の構想、日本地球惑星科学連合大会2021、STT35-02