日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT42] 光ファイバーセンシング技術の地球科学への応用

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:荒木 英一郎(海洋研究開発機構)、江本 賢太郎(九州大学大学院理学研究院)、宮澤 理稔(京都大学防災研究所)、辻 健(東京大学大学院 工学研究科)、座長:荒木 英一郎(海洋研究開発機構)、江本 賢太郎(九州大学大学院理学研究院)

09:23 〜 09:38

[STT42-02] 双方向光増幅中継器を併用したDAS長距離測定ー東海道新幹線布設光ファイバにおける検証

*吉見 雅行1井出 哲2、岩田 秀治3 (1.産業技術総合研究所活断層・火山研究部門、2.東京大学大学院理学系研究科、3.東海旅客鉄道株式会社)

キーワード:DAS、光増幅中継器、長距離測定、地震観測

DAS計測では、計測距離の増大に伴って光の減衰に起因するノイズが生じる。これは双方向光増幅中継器を併用することで緩和できると期待される。今回、その効果を東海道新幹線の軌道沿いに布設された通信用光ケーブルに適用して検証したので報告する。

これまで東海道新幹線沿線等のJR東海所有の通信用光ケーブルを用いて、DASによる地震観測を実施してきた(吉見他、JpGU2021、SSJ2022)。2022年9月から2023年2月にかけては、京都駅を起点に米原-新大阪区間における長期間観測を実施した(井出他、JpGU2023)。これらの観測における計測区間距離は、熱海-静岡間で約75km、京都-米原間で約71kmであったが、どちらも距離50kmから60kmを超えると光の減衰に伴うと考えられるS/Nの低下が発生していた。
DAS機器が高価な現状では、機器1台の計測距離を延ばす工夫も望まれる。東海道新幹線布設の通信用光ケーブルは30〜45km毎に光接続箱に引き入れられている。そこで、これら接続地点に光増幅中継器を挿入し、DASの長距離測定能力を検証した。検証では、京都を拠点とし米原で折り返して新大阪に至る約180km区間、および、京都から米原を超え岐阜羽島駅までの約112km区間の二通りの経路を設定した。

使用したDAS機器はAP Sensing社製N5226B R100であり、メーカーの協力を得て200 kmまでデータ処理できるように改造したものである。光増幅中継器は、Interrogatorからのパルス光とレイリー後方散乱光の両方を増幅させるよう、互いに反対を向いた2台のEDFA(エルビウム添加光ファイバ増幅器)をサーキュレーターを介して結合した「一心双方向増幅器」とした(試作協力:OCC、NKシステム社)。光増幅中継器の動作点を安定化するため、Gain clamp光(連続光)をDASパルス光と波長多重して送出した。各中継器のパルス光側EDFAにはDASパルス光とclamp光のみを通す帯域通過フィルタを、戻り光側EDFAにはDASパルス光のレイリー後方散乱光のみを通す帯域通過フィルタをそれぞれ備えて、EDFAが発する広帯域ノイズ光(ASE光)の影響を抑えた。
図1は、光増幅中継器の有無による違いを約181 km(京都-米原-京都-新大阪)の測定で比較したwaterfall図である。新幹線の走行振動が軌跡として認識できる。光増幅中継器なしの場合、約100 km以遠は光の減衰に伴いノイズが増大し、徐々に軌跡が識別困難となる。一方、光増幅中継器を併用すると181 kmまで低ノイズに測定できる。
この測定条件におけるOTDRトレースを図2に示す。このOTDRはDAS信号光を用いて測定されているため、DAS信号光の距離方向の振舞いの把握に役立つ。光増幅中継器がない場合、110km以遠はレイリー後方散乱光が減衰してノイズフロア以下となり検出不可能となる。一方、光増幅中継器を配置した場合には、181km先までのレイリー散乱光を測定できていることが分かる。この際、増幅特性の適切なレベル調整が必要であった。
図3は、光増幅中継器を併用して京都-岐阜羽島間(約112km)を観測中の2023年1月27日13:49と13:50頃に連続して発生した美濃中西部を震源とする地震時のwaterfall図である。約100 kmに渡る地震波の伝搬を1台のDASで記録できた。

一般にDAS測定では、空間分解能とロスバジェットがトレードオフ関係にある。空間分解能を粗く設定するとより多くのパワーのパルス光を送出できるため、ロスバジェットが増え、光増幅中継器なしでも100km程度まで測定できる(図1上図)。一方、空間分解能を細かく設定すると送出パルス光のパワーが少なくなるため、ロスバジェットが減り、数10kmの比較的短距離で信号がノイズに埋もれて制限されてしまう。従来は長距離の測定と高い空間分解能の両立は難しかったが、光増幅中継器を併用することで、より高い空間分解能での測定も可能になる。図4は、図3と同じ区間をゲージ長3.75mで測定した例である。
DAS観測において、光増幅中継器は、より広範囲かつ緻密な測定を行う補助ツールとして有効である。