日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT44] 最先端ベイズ統計学が拓く地震ビッグデータ解析

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:長尾 大道(東京大学地震研究所)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、椎名 高裕(産業技術総合研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[STT44-P01] 非線形フルベイズ推定における事後平均およびABIC演算の計算論的困難と新しい階層モンテカルロ法による解決策

*佐藤 大祐1深畑 幸俊1 (1.京都大学防災研究所)

ベイズ推定では、観測データとモデルパラメターを理論的に関係付ける観測方程式とモデルパラメターに関する事前分布から、モデルパラメターの事後分布を構成する。フルベイズ推定では、観測方程式とモデルパラメターの事前分布の重みを規定する超パラメターについても事前分布(超事前分布)を考慮し、モデルパラメターと超パラメターに関する同時事後分布を構成する。同時事後分布はモデルパラメターと超パラメターの全統計的情報を記述するフルベイズ推定の形式解だが、ここからモデルパラメターの有用な情報を引き出す縮約の操作は必ずしも容易ではない。Sato, Fukahata, & Nozue (2022)は、同時事後分布から単純に計算した場合、モデルパラメターの標本平均が事後母平均へ収束するのにモデルパラメター数の指数関数時間が必要になることを結論づけた。赤池のベイズ情報量規準(ABIC; Akaike, 1980)として知られる同時事後分布をモデルパラメターについて積分(周辺化)する方法が有効な縮約であることが同時に示されたが、非線形問題では通常ABICを解析的に計算できないという問題が残る。同時事後分布のモデルパラメターに関する周辺化を数値的に実行することも、モデルパラメター数の指数関数時間を要するために実行は一般に現実的でない。

本研究では、非線形問題でABICおよび事後母平均を高速に計算するための新たなモンテカルロ法を提案し、人工データを用いたすべりインバージョンへ適用することによりその性能を検討する。新手法では、(i)モデルパラメターの条件付事後分布と(ii)超パラメターの周辺事後分布へと同時事後分布を形式的に分解し、入れ子構造をなしたMulti-Stage Monte-Carlo法として計算する。(ii)はそのままでは同時事後分布のモデルパラメターに関する周辺化を必要とするので、熱力学的積分法 (Kirkwood, 1935)と呼ばれる、統計力学における自由エネルギーの高速計算法をさらに応用してこれを回避する。熱力学的積分法は、未規格化確率(ボルツマン因子)の積分の対数(自由エネルギー)の超パラメター微分が高速計算可能なボルツマン因子の対数(エネルギー; 損失関数)の平均になることを利用した、一種のlikelihood free推定である。超パラメターの対数周辺事後分布は、データ分布・モデルパラメターの事前分布・同条件付事後分布に対する3つの自由エネルギーの線型結合になっており、各項を熱力学的積分法で高速に、つまり非指数関数(多項式)時間で計算できる。これにより、超パラメター値の微小変化に対するABICの差分(ベイズ因子)が得られ、前述のMulti-Stage Monte-Carlo法が多項式時間解法として機能する。

発表では、上記手法の概略を示した上で、その性能を従来標準的に用いられてきたフルベイズモンテカルロ法の結果と比較する。線形逆問題では、新手法はモデルパラメターや超パラメターの事後平均計算を著しく高速化した。その際、従来手法の低速性の原因となる、モデルパラメター数の増加に伴いデータへの過小適合(事前分布への過剰適合)で鋭いピークをとる単峰分布になるという同時事後分布の病的性質(Sato, Fukahata, & Nozue, 2022)は、すべりインバージョンにおいても確認された。また、非ガウス問題において例外的にABICの半解析的表現が既知である、非負の拘束を課した滑りインバージョンを利用し、非ガウス型の同時事後分布における新手法の性能を解析解との比較によって定量化した。