日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC28] International Volcanology

2023年5月24日(水) 15:30 〜 16:45 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:Chris Conway(Geological Survey of Japan, AIST)、松本 恵子(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、山田 大志(京都大学防災研究所 火山活動研究センター)、Katy Jane Chamberlain(University of Liverpool)、座長:山田 大志(京都大学防災研究所 火山活動研究センター)、Katy Jane Chamberlain(University of Liverpool)


15:30 〜 15:45

[SVC28-06] アイソパックと平均粒径から総噴出量と噴出率をもとめる〜GPGPU降灰シミュレーションコードTWiCEとMCMCを用いた推定

*萬年 一剛1 (1.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:テフラ、シミュレーション、火山灰、MCMC、GPGPU

従来、プリニー式噴火など噴煙柱を形成する火砕噴火の総噴出量は、等層厚線(アイソパック)の厚さ(S)と面積(A)の関係(以下S-A関係)を適当な数式で近似し、積分することで求めることが多かった。しかし、近似式には理論的な裏付けがないため、測定点がない火口のごく近傍や遠方の外挿によって、推定値が大きく異なる問題があった。また、噴出率に関しては、Carey and Sparks (1986)により最大粒径のアイソプレスの幅から噴煙高度(∝噴出率)や平均的な風速をもとめる方法が提案され、広く利用されてきた。しかし、「最大粒径」の決定に恣意性が含まれることや、噴煙の高さと幅の関係が常に一定であるという仮定を含んでいる。
 一方、総噴出量や噴出率などの噴火パラメータについてシミュレーションコードを用いてインバージョンによりもとめようとする研究もこれまでに行われてきた。しかし、こうしたインバージョンの多くは、地表における各点の堆積量について観測と計算の残差が最小となるパラメータの組合せを探索するもので、もとめられた個々の噴煙パラメータの不確かさやパラメータ間の相関関係について検討をすることは難しかった。
 発表者はこうしたさまざまな問題を同時に解決するため、降灰シミュレーションコードTWiCEとマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)を用いて、火山地質学者が得たS-A関係などから、噴煙パラメータを推定する枠組を構築することを試みている。MCMCは、マルコフ連鎖を生成することによって、対象とする分布関数のサンプリングを行うアルゴリズムの総称で、今回はメトロポリス法を用いた。本研究の枠組では、S-A関係について観測と計算の残差を尤度分布と考え、これを噴煙パラメータの関数としてサンプリングを行い、最適解や不定性を検討する。TWiCEは風によって曲げられた噴煙からの降灰分布を計算するシミュレーションコードで、GPUを用いるため、多数の点について高速に降灰量を計算できる。探索するパラメータとして、総噴出量(M)、噴出率(Q)、噴煙の厚さ(Hp)、拡散係数(K)、正規分布を仮定した全噴出物粒度組成の平均(Md)とその標準偏差(σ)の計6つを設定した。
新燃岳2011年噴火のデータを用いたこれまでの計算結果では、S-A関係からはMが良好に制約できることがわかったが、その他のパラメータはほとんど制約できないことが判明した。そこで、データ収集が比較的簡単と考えられる、火口からの距離(d)と平均粒径(md)の関係(md-d関係)をあらたな再現対象としてパラメータ探索を行ったところ、噴出率Qに一定の制約をかけることが出来たほか、QとHpに相関関係が認められた。ここで、MについてS-A関係からもとめられた値を与えて探索するとQについては更に強い制約を与えることが出来たが、Hp、K、Md、σについて強い制約を与えることは困難で、今後の課題として残された。
このように、MCMCと降灰シミュレーションを組み合わせることで、従来のアイソパックからは総噴出量Mの尤度分布を知ることが可能であるほか、md-d関係がもとめられれば噴出率Qについても良い制約を与えることが可能であることがわかった。この結果は野外調査において厚さ分布の他、少なくとも近傍から遠方の数点で粒度分布測定をする重要性を示唆している。