15:30 〜 17:00
[SVC28-P06] 空気振動観測によるブルカノ式噴火岩塊到達距離の検討
キーワード:ブルカノ式噴火、火山岩塊、空気振動
火山噴火に伴う放出岩塊は世界中の多くの活火山における主要なハザードの一つであり,その範囲は最大到達距離によって規定される.岩塊運動は噴火によって放出されるエネルギーの一形態であり,その岩塊の到達距離を理解するには総放出エネルギーと岩塊運動への分配比率の把握が原理的には必要である(Gerst et al., 2013).観測によって個別の噴火のこうした性質を推定することは容易ではない.
1955年から現在まで継続している桜島南岳の噴火活動では,岩塊の最大到達距離と空気振動(空振)最大振幅の間に明瞭な関係が得られている(井口・山田,2021).このことは,岩塊の初速獲得と空振励起の間に一定の関係が成立していることを示唆する.この知見に基づき,本研究は空振観測によって2017年10月以降の桜島南岳山頂火口におけるブルカノ式噴火に伴う岩塊到達距離の評価を試みる.
京都大学防災研究所は,南岳山頂火口からおよそ3 kmの距離に位置するハルタ山観測室において連続空振観測を実施しており,該当期間に低周波マイクロフォン(SI104 白山工業製)で記録された空振記録に着目する.岩塊の到達距離は鹿児島地方気象台による遠望観測記録を参照する.記録における到達距離は合目によって表記されているため,乱数を仮定することで合目から水平距離に換算する(井口・山田,2021).岩塊の最大到達距離を与える射出角を63°(井口・他, 1983)と仮定し,空気抵抗を考慮した弾道方程式(Minakami, 1942)によって到達距離から火口における岩塊鉛直初速度(Vmax)(m/s)を推定する.
2017年以降の南岳の噴火活動は,休止期を挟む噴火エピソードが繰り返されている(Iguchi et al., 2022).特に活発な噴火活動が発生した2019年9月以降のエピソードでは, 2020年6月4日(2:59)の噴火において火口から3.3 kmの地点に岩塊が落下した.この期間の空振記録の重要な特徴は増圧相の長周期化であり,爆発時のガス放出の時定数が長いことを意味する.時定数の長いガス放出は,岩塊をより加速させることが想定される.すなわち岩塊運動評価のためには,増圧相の最大振幅と周期の両方を評価する必要がある.そのため,本研究では振幅の距離減衰を補正した空振一回積分波形の最大値(Imax)(Pa・s)を岩塊到達距離評価の指標とする.
該当期間の518イベントにおいては,全体を代表するVmax/Imaxの範囲として,標準偏差によって1.0×10-4–3.0×10-4が得られる(図1a).しかし厳密にはVmax/Imaxは常に一定ではない.図1bではVmax/ImaxのVmaxに対しての依存性を検討している.Vmaxが大きくなるほどVmax/Imaxの上限値が小さくなる傾向が認められる.このVmax/Imaxの特徴を,岩塊の運動方程式に基づいて検討する.岩塊質量m (kg),岩塊の鉛直方向加速度a (m),岩塊底面積s (m2),火道内圧力P(t) (Pa)を用いて,運動方程式はとして表される.爆発直後の岩塊運動においては、空気抵抗や重力加速度の影響は十分に小さいものと仮定している。この関係を時間領域で一回積分し,Vmaxを与える圧力の時間積分をImaxで近似できると仮定すると,(Vmax/Imax)=( s/m)の関係が得られる.岩塊形状を直方体と仮定すれば,s/mは岩塊密度ρ(kg/m3)と深さd (m)を用いて1/ρdと表される.ρが一定(2500 kg/m3)の条件においては,Vmax/Imaxの低下はdの増大を意味する.言い換えると,Vmaxが大きいイベントほど爆発深度が深いことが示唆される.図1aにおけるVmax/Imaxの代表的範囲はd=1.3–4.0 m,先述の2020年6月4日の噴火の場合はd=13.8 mに相当する.
空振増圧相の長周期化に代表される火山ガス放出量の増加は,噴火活動の活発化を反映していると解釈できる.岩塊到達距離の増大には,火口底へガス溜まりの強度だけでなく,岩塊を加速させるガス放出量の増大が必要であると言える.運動方程式に基づく検討では,Vmaxの大きなイベントほどdが深いという特徴が示唆される.深部ほど静岩圧の増加によって高圧条件を実現できるため,より高いVmaxを実現できるのかもしれない.また火山体は有限の破壊強度を有していることから,溜め込める圧力や,起因するVmaxには上限があることが想定される.図1bに示すVmax/Imax上限のVmaxへの依存性は,発生しうる最大の岩塊到達距離を予測することができるかもしれない.
謝辞
鹿児島地方気象台の遠望観測記録を参照させて頂きました.
1955年から現在まで継続している桜島南岳の噴火活動では,岩塊の最大到達距離と空気振動(空振)最大振幅の間に明瞭な関係が得られている(井口・山田,2021).このことは,岩塊の初速獲得と空振励起の間に一定の関係が成立していることを示唆する.この知見に基づき,本研究は空振観測によって2017年10月以降の桜島南岳山頂火口におけるブルカノ式噴火に伴う岩塊到達距離の評価を試みる.
京都大学防災研究所は,南岳山頂火口からおよそ3 kmの距離に位置するハルタ山観測室において連続空振観測を実施しており,該当期間に低周波マイクロフォン(SI104 白山工業製)で記録された空振記録に着目する.岩塊の到達距離は鹿児島地方気象台による遠望観測記録を参照する.記録における到達距離は合目によって表記されているため,乱数を仮定することで合目から水平距離に換算する(井口・山田,2021).岩塊の最大到達距離を与える射出角を63°(井口・他, 1983)と仮定し,空気抵抗を考慮した弾道方程式(Minakami, 1942)によって到達距離から火口における岩塊鉛直初速度(Vmax)(m/s)を推定する.
2017年以降の南岳の噴火活動は,休止期を挟む噴火エピソードが繰り返されている(Iguchi et al., 2022).特に活発な噴火活動が発生した2019年9月以降のエピソードでは, 2020年6月4日(2:59)の噴火において火口から3.3 kmの地点に岩塊が落下した.この期間の空振記録の重要な特徴は増圧相の長周期化であり,爆発時のガス放出の時定数が長いことを意味する.時定数の長いガス放出は,岩塊をより加速させることが想定される.すなわち岩塊運動評価のためには,増圧相の最大振幅と周期の両方を評価する必要がある.そのため,本研究では振幅の距離減衰を補正した空振一回積分波形の最大値(Imax)(Pa・s)を岩塊到達距離評価の指標とする.
該当期間の518イベントにおいては,全体を代表するVmax/Imaxの範囲として,標準偏差によって1.0×10-4–3.0×10-4が得られる(図1a).しかし厳密にはVmax/Imaxは常に一定ではない.図1bではVmax/ImaxのVmaxに対しての依存性を検討している.Vmaxが大きくなるほどVmax/Imaxの上限値が小さくなる傾向が認められる.このVmax/Imaxの特徴を,岩塊の運動方程式に基づいて検討する.岩塊質量m (kg),岩塊の鉛直方向加速度a (m),岩塊底面積s (m2),火道内圧力P(t) (Pa)を用いて,運動方程式はとして表される.爆発直後の岩塊運動においては、空気抵抗や重力加速度の影響は十分に小さいものと仮定している。この関係を時間領域で一回積分し,Vmaxを与える圧力の時間積分をImaxで近似できると仮定すると,(Vmax/Imax)=( s/m)の関係が得られる.岩塊形状を直方体と仮定すれば,s/mは岩塊密度ρ(kg/m3)と深さd (m)を用いて1/ρdと表される.ρが一定(2500 kg/m3)の条件においては,Vmax/Imaxの低下はdの増大を意味する.言い換えると,Vmaxが大きいイベントほど爆発深度が深いことが示唆される.図1aにおけるVmax/Imaxの代表的範囲はd=1.3–4.0 m,先述の2020年6月4日の噴火の場合はd=13.8 mに相当する.
空振増圧相の長周期化に代表される火山ガス放出量の増加は,噴火活動の活発化を反映していると解釈できる.岩塊到達距離の増大には,火口底へガス溜まりの強度だけでなく,岩塊を加速させるガス放出量の増大が必要であると言える.運動方程式に基づく検討では,Vmaxの大きなイベントほどdが深いという特徴が示唆される.深部ほど静岩圧の増加によって高圧条件を実現できるため,より高いVmaxを実現できるのかもしれない.また火山体は有限の破壊強度を有していることから,溜め込める圧力や,起因するVmaxには上限があることが想定される.図1bに示すVmax/Imax上限のVmaxへの依存性は,発生しうる最大の岩塊到達距離を予測することができるかもしれない.
謝辞
鹿児島地方気象台の遠望観測記録を参照させて頂きました.