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[SVC29-07] 高温高圧実験に基づいた伊豆大島1986年B火口サブプリニー式噴火のマグマ上昇中の結晶化の温度・圧力の推定
キーワード:減圧結晶化、マグマ温度、結晶組織
伊豆大島1986年噴火では,B火口からサブプリニー式噴火を起こし,玄武岩質安山岩マグマを噴出した.この噴火は温度1070~1100℃(藤井ほか,1988)のマグマが深度4–5 km(気象庁, 2008)から上昇して生じたと考えられている.噴出物中にはマイクロライトと呼ばれる,火道上昇中に晶出した微細結晶が多量に含まれており,この多量のマイクロライトが爆発的噴火を引き起こした可能性が提案されている(石橋・種田,2018).しかし,高温(1000℃以上)での減圧実験を行うことが困難であったことなどから,マグマ上昇過程を再現する実験は行われておらず,火道上昇中のどのタイミングで結晶が晶出し,マグマが破砕するに至ったのかよくわかっていない.そこで,本研究では伊豆大島1986年B火口でのサブプリニー式噴火を対象とし,マグマ上昇中の結晶化の温度・圧力を推定するため,相平衡実験と減圧結晶化実験を行った.また,減圧結晶化実験は,高温の玄武岩質マグマでは実験的困難から行われていなかった連続的に減圧する手法(continuous decompression: CD)を新たに開発し,天然の上昇過程を模擬した.
本研究では産業技術総合研究所に設置されている内熱式ガス圧装置(SMC-8600,SMC-5000)を用いて相平衡実験・減圧結晶化実験を行った.実験の出発物質として伊豆大島1986年B火口から噴出したスコリアを用いた.粉末にしたスコリアを,6 wt%の水とともに深度約5 kmに相当する130 MPaで溶融することで,含水ガラスを合成した.減圧実験の出発物質は噴火直前のマグマ温度に相当する1040℃もしくは1080℃で溶融し,相平衡実験の出発物質は完全溶融させるため,リキダス温度よりはるかに高い1250℃で溶融した.これらの出発物質中には斜長石結晶は含まれていなかった.
減圧実験では,1040℃もしくは1080℃で130MPaから35 MPaまで100もしくは20 MPa/hで連続的に減圧した実験を行った.さらに1040℃で130MPaから10 MPaまで100 MPa/hで連続的に減圧した実験も行った.
相平衡実験では,目的の温度圧力条件下(1000~1120℃,10~130 MPa)で3時間以上保持したのちに急冷回収した.相平衡実験・減圧実験の回収試料の組織観察および組成分析は,走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光法を用いて行った.伊豆大島1986年B火口から噴出したスコリアについても同じ分析を行った.
減圧結晶化実験では,どの実験条件でも結晶化に遅れが生じ,天然のスコリアの斜長石マイクロライトの数密度・結晶度(結晶組織)は再現できなかった.1040℃で35 MPaまで20MPa/hで減圧した実験,および1040℃で10 MPaまで100MPa/hで減圧した実験では,斜長石は晶出したものの,結晶の数密度・結晶度ともに噴出物のスコリアよりもはるかに小さかった.また,相平衡実験の結晶度よりも小さかった.1040℃,100MPa/hの減圧実験においては,35 MPaまでの減圧では斜長石は見られなかったので,10–35 MPaの圧力区間で斜長石が結晶化したと考えられる.減圧実験で結晶組織は再現できなかった一方,1040℃で10 MPaまで減圧した実験において晶出した斜長石の組成は,噴出物の斜長石の組成と一致した.また,減圧実験で晶出した斜長石結晶の組成は,減圧実験の終端圧力と同じ圧力条件における相平衡実験の結果およびrhyolite-MELTS(Gualda et al., 2012)の計算結果とよく一致した.天然を模擬した連続的な減圧実験では,結晶の核形成が遅れ,低圧まで到達してから結晶化が起こるため,終端圧力付近の平衡組成を持った結晶が晶出したと考えられる.ゆえに,斜長石組成から結晶の晶出した温度圧力条件を推定できるかもしれない.
そこで,本研究ではさらに結晶化時の温度・圧力条件を制約するため,rhyolite-MELTSで計算された平衡斜長石組成とスコリア中のマイクロライトの斜長石組成を比較した.その結果,上昇中のマグマの温度が1100℃で一定であったと仮定した場合,スコリア中のマイクロライト組成を再現できる圧力は5 MPa以下であることが分かった.しかしながら,マグマが破砕するのに十分な発泡度(~60 vol%)はより深部(10 MPa程度)で達成されてしまう。マグマ破砕前に結晶化が開始するためには,マグマの温度が数十℃程度低下すればよいと考えられる.しかし,すでに述べたように,本研究で1040℃まで温度を下げた実験では,温度を下げて結晶化したとしても,結晶化に遅れが生じ,噴出物の結晶組織は再現できていない.このことから,噴出物の結晶組織を再現するには,マグマ上昇中に温度が低下し,さらに結晶化を促進するほかのメカニズムが働いている可能性がある.
本研究では産業技術総合研究所に設置されている内熱式ガス圧装置(SMC-8600,SMC-5000)を用いて相平衡実験・減圧結晶化実験を行った.実験の出発物質として伊豆大島1986年B火口から噴出したスコリアを用いた.粉末にしたスコリアを,6 wt%の水とともに深度約5 kmに相当する130 MPaで溶融することで,含水ガラスを合成した.減圧実験の出発物質は噴火直前のマグマ温度に相当する1040℃もしくは1080℃で溶融し,相平衡実験の出発物質は完全溶融させるため,リキダス温度よりはるかに高い1250℃で溶融した.これらの出発物質中には斜長石結晶は含まれていなかった.
減圧実験では,1040℃もしくは1080℃で130MPaから35 MPaまで100もしくは20 MPa/hで連続的に減圧した実験を行った.さらに1040℃で130MPaから10 MPaまで100 MPa/hで連続的に減圧した実験も行った.
相平衡実験では,目的の温度圧力条件下(1000~1120℃,10~130 MPa)で3時間以上保持したのちに急冷回収した.相平衡実験・減圧実験の回収試料の組織観察および組成分析は,走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光法を用いて行った.伊豆大島1986年B火口から噴出したスコリアについても同じ分析を行った.
減圧結晶化実験では,どの実験条件でも結晶化に遅れが生じ,天然のスコリアの斜長石マイクロライトの数密度・結晶度(結晶組織)は再現できなかった.1040℃で35 MPaまで20MPa/hで減圧した実験,および1040℃で10 MPaまで100MPa/hで減圧した実験では,斜長石は晶出したものの,結晶の数密度・結晶度ともに噴出物のスコリアよりもはるかに小さかった.また,相平衡実験の結晶度よりも小さかった.1040℃,100MPa/hの減圧実験においては,35 MPaまでの減圧では斜長石は見られなかったので,10–35 MPaの圧力区間で斜長石が結晶化したと考えられる.減圧実験で結晶組織は再現できなかった一方,1040℃で10 MPaまで減圧した実験において晶出した斜長石の組成は,噴出物の斜長石の組成と一致した.また,減圧実験で晶出した斜長石結晶の組成は,減圧実験の終端圧力と同じ圧力条件における相平衡実験の結果およびrhyolite-MELTS(Gualda et al., 2012)の計算結果とよく一致した.天然を模擬した連続的な減圧実験では,結晶の核形成が遅れ,低圧まで到達してから結晶化が起こるため,終端圧力付近の平衡組成を持った結晶が晶出したと考えられる.ゆえに,斜長石組成から結晶の晶出した温度圧力条件を推定できるかもしれない.
そこで,本研究ではさらに結晶化時の温度・圧力条件を制約するため,rhyolite-MELTSで計算された平衡斜長石組成とスコリア中のマイクロライトの斜長石組成を比較した.その結果,上昇中のマグマの温度が1100℃で一定であったと仮定した場合,スコリア中のマイクロライト組成を再現できる圧力は5 MPa以下であることが分かった.しかしながら,マグマが破砕するのに十分な発泡度(~60 vol%)はより深部(10 MPa程度)で達成されてしまう。マグマ破砕前に結晶化が開始するためには,マグマの温度が数十℃程度低下すればよいと考えられる.しかし,すでに述べたように,本研究で1040℃まで温度を下げた実験では,温度を下げて結晶化したとしても,結晶化に遅れが生じ,噴出物の結晶組織は再現できていない.このことから,噴出物の結晶組織を再現するには,マグマ上昇中に温度が低下し,さらに結晶化を促進するほかのメカニズムが働いている可能性がある.