14:23 〜 14:42
[SVC30-03] 熱水流動数値計算に基づく登別地熱地域の熱水系構造と短期的活動推移の検討
キーワード:キャップ構造、熱水流動数値計算、unrest
熱水系が卓越する火山では,浅部に粘土鉱物からなる難透水性のキャップ構造の存在が指摘されており(例えば,Yoshimura et al., 2018),深部から上昇してくる熱水を遮蔽する役割を担っていると考えられている.キャップ構造は熱水系浅部の圧力を増加させ,時には破壊されて浸透率が上昇すると,急速な減圧と気化によって水蒸気噴火に繋がると予想される(例えば,Tsukamoto et al., 2018).噴火に至らなかった場合でも,熱水の供給率やキャップ構造の浸透率の増減によって,流動状態やそれに伴う力学的・熱的応答は多様に変化すると考えられる(例えば,Tanaka et al., 2018)本研究では,キャップ構造が想定される火山熱水系において,熱水系構造や流動状態の変化に伴う火山活動の消長を理解することを目的として,倶多楽火山の登別地熱地域を対象に地下水流動シミュレーターによる数値実験を行った.地獄谷や大湯沼の周辺では過去に水蒸気噴火が複数回生じており (Goto et al., 2013),近年では大正地獄で熱水が噴き上がるなど(気象庁,2019),熱水系の活発化を示唆する現象が確認されている.
本研究では多孔質媒質における多成分・多相系の地下水流動シミュレーターであるTOUGH2(Pruess et al., 1999)を用いた.計算領域は地獄谷を中心とした水平各10 km,深さ1500 m b.s.l.の領域とし,地形を考慮した.浸透率構造は倶多楽火山における地質調査やMT法探査結果を参考に,母岩に対応するHost rock,熱水の上昇領域に対応するConduit,低浸透率でキャップ構造としての役割を持つCap rock,表層約250mを覆うSurface layer,そしてConduitとCap rockが重なる領域に両者の中間的な浸透率を持つFracture zoneを設定した.まず,領域上端から天水の供給,Conduit底部からNaClを含む熱水の供給,Host rockの底部から地殻熱流量の供給を与え,準定常状態を計算した.また,モデルの妥当性を評価するために,シミュレーション結果から水の温度や圧力,NaCl濃度を用いてバルク比抵抗値を計算し,得られた比抵抗構造とMT法によって推定された比抵抗構造とを比較した.次に,実際に地獄谷と大湯沼の間にある笠山と呼ばれる区画で2013〜2022年頃に観測された地温上昇・地熱異常の拡大を想定した,短期的な活動推移の数値実験を行った.得られた準定常状態を初期条件として,Fracture zoneの浸透率および熱水供給率を変化させ,その後の間隙圧・温度分布および放熱率の10年間の変化を様々な条件で調査した.
シミュレーションよって得られた準定常状態の結果は,地獄谷や大湯沼,登別温泉などの高温領域の分布や,放熱率の推定値(寺田・他,2012)と良い対応を示した.得られた低比抵抗領域の分布も,MT法によって推定された比抵抗構造(Goto et al., 2015; Hashimoto et al., 2019)のうち登別地熱地域の直下に広がる低比抵抗領域の分布と概ね一致した.また,短期的推移の検討から,Fracture zoneの浸透率および熱水供給率の変化の組み合わせによって,地表面での放熱率の変化は類似していてもキャップ構造直下では増圧する場合も減圧する場合もあることを示した.笠山で観測された急速な地温上昇の再現を試みたところ,観測値はFracture zoneの浸透率および熱水供給率の増加のみで概ね説明可能であった.本研究の結果は,熱水系が卓越する火山においてキャップ構造の分布を詳細に把握する重要性を支持し,適切な浸透率構造や供給条件が推定できれば,地上観測量との比較によって熱水系に起因する火山活動の物理過程についてより詳細な理解が得られる可能性を示した.
なお,本研究は次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトの支援を受けた.
本研究では多孔質媒質における多成分・多相系の地下水流動シミュレーターであるTOUGH2(Pruess et al., 1999)を用いた.計算領域は地獄谷を中心とした水平各10 km,深さ1500 m b.s.l.の領域とし,地形を考慮した.浸透率構造は倶多楽火山における地質調査やMT法探査結果を参考に,母岩に対応するHost rock,熱水の上昇領域に対応するConduit,低浸透率でキャップ構造としての役割を持つCap rock,表層約250mを覆うSurface layer,そしてConduitとCap rockが重なる領域に両者の中間的な浸透率を持つFracture zoneを設定した.まず,領域上端から天水の供給,Conduit底部からNaClを含む熱水の供給,Host rockの底部から地殻熱流量の供給を与え,準定常状態を計算した.また,モデルの妥当性を評価するために,シミュレーション結果から水の温度や圧力,NaCl濃度を用いてバルク比抵抗値を計算し,得られた比抵抗構造とMT法によって推定された比抵抗構造とを比較した.次に,実際に地獄谷と大湯沼の間にある笠山と呼ばれる区画で2013〜2022年頃に観測された地温上昇・地熱異常の拡大を想定した,短期的な活動推移の数値実験を行った.得られた準定常状態を初期条件として,Fracture zoneの浸透率および熱水供給率を変化させ,その後の間隙圧・温度分布および放熱率の10年間の変化を様々な条件で調査した.
シミュレーションよって得られた準定常状態の結果は,地獄谷や大湯沼,登別温泉などの高温領域の分布や,放熱率の推定値(寺田・他,2012)と良い対応を示した.得られた低比抵抗領域の分布も,MT法によって推定された比抵抗構造(Goto et al., 2015; Hashimoto et al., 2019)のうち登別地熱地域の直下に広がる低比抵抗領域の分布と概ね一致した.また,短期的推移の検討から,Fracture zoneの浸透率および熱水供給率の変化の組み合わせによって,地表面での放熱率の変化は類似していてもキャップ構造直下では増圧する場合も減圧する場合もあることを示した.笠山で観測された急速な地温上昇の再現を試みたところ,観測値はFracture zoneの浸透率および熱水供給率の増加のみで概ね説明可能であった.本研究の結果は,熱水系が卓越する火山においてキャップ構造の分布を詳細に把握する重要性を支持し,適切な浸透率構造や供給条件が推定できれば,地上観測量との比較によって熱水系に起因する火山活動の物理過程についてより詳細な理解が得られる可能性を示した.
なお,本研究は次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトの支援を受けた.