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[SVC30-P07] 九重火山西部地域における地熱流体の流動を規制する地質構造把握のための立体視地形判読と大崩ノ辻東方の溶岩流の火山岩年代測定
キーワード:大岳・八丁原地熱地域、変動地形、立体視地形判読、フィッショントラック年代測定、地熱系の熱源
大岳・八丁原地熱地域では,北西―南東方向の断層が卓越しており,それらが地熱流体の流動を規制する主要な地質構造とされている(林ほか,1985;松本ほか,1989など)。一方,活構造に着目すると,大岳・八丁原地域や九重火山を含む別府―島原地溝帯では東西方向の正断層が卓越する(今泉ほか,2018など)。ウラニンシほか(2021)は,大岳地域で掘削された地熱井の坑壁画像検層データの解析により,東西方向,南傾斜の断裂が卓越していることを報告し,東西方向の断層も透水性を有する地質構造であるとの解釈を行った。
本研究では,大岳・八丁原地域を含む九重火山西部地域に発達する地熱系の更なる理解を目的として地質構造モデル及び地熱系概念モデルの更新に取り組んでいる。本報告では,地質構造モデル更新の一環として実施した立体視地形判読の結果を報告する。また,地形判読において,黒岩山の北方,大崩ノ辻の東方に,黒岩山や泉水山の火山体形成後に噴出したとみられる,これまでの研究において未区分の溶岩流の地形を認定し,この溶岩流の火山岩年代測定を実施したのでその結果をあわせて報告する。
立体視地形判読は,国土地理院により基盤地図情報として公開されている5 mメッシュの数値標高モデルから作成した立体斜度図及び立体地下開度図(株式会社タックエンジニアリング作成)を用いた。地形判読の結果,黒岩山北麓,合頭山及び猟師山の火山山麓斜面などに東西方向~西北西-東南東方向に延びる崖地形や鞍部列が複数認められた。崖地形は逆向きの低断層崖を形成し,変動地形と解釈される。八丁原地域では熱水変質帯やガスの噴気がその断層変位地形のトレース上に位置することから,これら変位地形は流体の流動通路となる断層の存在を示している可能性が考えられる。大岳地域の地熱井の坑壁画像検層において東西方向の断裂が卓越すること(ウラニンシほか,2021)も考え合わせると,大岳・八丁原地熱地域を含む九重火山西部域では,従来認定されている北西―南東方向の断層に加えて,東西方向の断層も地熱系の発達に関連している可能性が示唆される。
本研究による立体視地形判読において,大崩ノ辻の東方にこれまでは区分されていなかった小規模な溶岩ドームと溶岩流(大崩ノ辻東方溶岩と仮称)を新たに区分した。この溶岩ドームと溶岩流は,九重火山の噴火ステージ第1期に活動した黒岩山(83±3ka, 220±80ka),合頭山,猟師山(217±6ka)の火山列(川辺ほか,2015)に位置する。大崩ノ辻東方溶岩は,石英含有普通角閃石両輝石黒雲母安山岩及び普通角閃石単斜輝石安山岩からなる。この火山岩の噴出年代を明らかにするために現地で採取した火山岩試料からジルコン結晶を抽出し,株式会社京都フィッショントラックによるフィッショントラック(FT)年代測定を行った。測定方法はLA-ICP-MS-FT法であり,若い年代値が想定されたため,1408粒子を対象に測定した。測定の結果,0.027±0.008MaのFT年代を得た。得られた年代は,第1期の噴火活動に比べて新しく,九重火山の噴火ステージ第3期と同時期の年代を示す。Aizawa et al. (2021)は,黒岩山東部の地表下2~6 kmに垂直方向に延びる低比抵抗域の存在を示し,この縁に沿ってマグマ性物質の上昇を推定している。このことは,噴火ステージ第1期の火山列近傍において,第1期以降も活発な火山活動が存在する可能性を示唆しており,0.027±0.008MaのFT年代に示される大崩ノ辻東方溶岩の噴火活動もそれに関連する火山活動である可能性が挙げられる。大岳・八丁原地域の地熱系の熱源は噴火ステージ第1期の黒岩山,合頭山,猟師山の噴火活動の残存熱と考えられているが(松本ほか,1989),約3万年の噴火活動が大岳・八丁原地熱系近傍に推定されたことは,大岳・八丁原地域を含めた九重火山西部地域の地熱系の熱源について更なる検討が望まれる結果となった。今後,フィールド調査による断層調査ならびに火山灰層序学観点からの溶岩噴出年代の検証を進める予定である。
本報告のうち火山岩年代測定は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の開発項目に係る委託業務「地熱発電導入拡大研究開発/超臨界地熱資源技術開発/超臨界地熱資源量評価(九重地域)」の成果である。
本研究では,大岳・八丁原地域を含む九重火山西部地域に発達する地熱系の更なる理解を目的として地質構造モデル及び地熱系概念モデルの更新に取り組んでいる。本報告では,地質構造モデル更新の一環として実施した立体視地形判読の結果を報告する。また,地形判読において,黒岩山の北方,大崩ノ辻の東方に,黒岩山や泉水山の火山体形成後に噴出したとみられる,これまでの研究において未区分の溶岩流の地形を認定し,この溶岩流の火山岩年代測定を実施したのでその結果をあわせて報告する。
立体視地形判読は,国土地理院により基盤地図情報として公開されている5 mメッシュの数値標高モデルから作成した立体斜度図及び立体地下開度図(株式会社タックエンジニアリング作成)を用いた。地形判読の結果,黒岩山北麓,合頭山及び猟師山の火山山麓斜面などに東西方向~西北西-東南東方向に延びる崖地形や鞍部列が複数認められた。崖地形は逆向きの低断層崖を形成し,変動地形と解釈される。八丁原地域では熱水変質帯やガスの噴気がその断層変位地形のトレース上に位置することから,これら変位地形は流体の流動通路となる断層の存在を示している可能性が考えられる。大岳地域の地熱井の坑壁画像検層において東西方向の断裂が卓越すること(ウラニンシほか,2021)も考え合わせると,大岳・八丁原地熱地域を含む九重火山西部域では,従来認定されている北西―南東方向の断層に加えて,東西方向の断層も地熱系の発達に関連している可能性が示唆される。
本研究による立体視地形判読において,大崩ノ辻の東方にこれまでは区分されていなかった小規模な溶岩ドームと溶岩流(大崩ノ辻東方溶岩と仮称)を新たに区分した。この溶岩ドームと溶岩流は,九重火山の噴火ステージ第1期に活動した黒岩山(83±3ka, 220±80ka),合頭山,猟師山(217±6ka)の火山列(川辺ほか,2015)に位置する。大崩ノ辻東方溶岩は,石英含有普通角閃石両輝石黒雲母安山岩及び普通角閃石単斜輝石安山岩からなる。この火山岩の噴出年代を明らかにするために現地で採取した火山岩試料からジルコン結晶を抽出し,株式会社京都フィッショントラックによるフィッショントラック(FT)年代測定を行った。測定方法はLA-ICP-MS-FT法であり,若い年代値が想定されたため,1408粒子を対象に測定した。測定の結果,0.027±0.008MaのFT年代を得た。得られた年代は,第1期の噴火活動に比べて新しく,九重火山の噴火ステージ第3期と同時期の年代を示す。Aizawa et al. (2021)は,黒岩山東部の地表下2~6 kmに垂直方向に延びる低比抵抗域の存在を示し,この縁に沿ってマグマ性物質の上昇を推定している。このことは,噴火ステージ第1期の火山列近傍において,第1期以降も活発な火山活動が存在する可能性を示唆しており,0.027±0.008MaのFT年代に示される大崩ノ辻東方溶岩の噴火活動もそれに関連する火山活動である可能性が挙げられる。大岳・八丁原地域の地熱系の熱源は噴火ステージ第1期の黒岩山,合頭山,猟師山の噴火活動の残存熱と考えられているが(松本ほか,1989),約3万年の噴火活動が大岳・八丁原地熱系近傍に推定されたことは,大岳・八丁原地域を含めた九重火山西部地域の地熱系の熱源について更なる検討が望まれる結果となった。今後,フィールド調査による断層調査ならびに火山灰層序学観点からの溶岩噴出年代の検証を進める予定である。
本報告のうち火山岩年代測定は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の開発項目に係る委託業務「地熱発電導入拡大研究開発/超臨界地熱資源技術開発/超臨界地熱資源量評価(九重地域)」の成果である。