09:00 〜 09:15
[SVC31-01] トンガ光海底ケーブルを用いたDAS観測実験:火山監視への実用化検討
キーワード:大規模火山災害、リモート観測、海域観測
背景:
2022年1月15日に発生したHunga-Tonga Hunga-Ha’apai (HTHH)海底火山の大噴火は、大気波動の影響も含め大規模な津波を発生させ、世界中に影響を与えた。この噴火災害は、浅海火山噴火を監視する必要性を改めて認識させた。火山活動監視の最も基本的な手法は地震観測であるが、海域に火山を抱える島国であるトンガの場合、観測機器の設置・維持が困難であり噴火時に稼働している観測点は皆無であった。近年急速に進歩しているDAS(Distributed Acoustic Sensing)技術は、火山近傍を通る光海底ケーブルの利用により人工ノイズの少ない海底でのオンライン観測を可能とし、火山監視に威力を発揮すると期待される。我々は、上記の噴火によって破断され復旧していないトンガ国内通信用の光海底ケーブルを利用し、本地域におけるDAS技術の有用性を検証するための観測実験を実施した。本稿では,その実施内容と得られたデータについて速報する。
観測概要:
トンガ王国本島トンガタプ島には国際及び国内間のブロードバンド通信のための光海底ケーブルが敷設され、国際線はフィジーに、国内線はヴァヴァウ諸島およびハアパイ諸島に繋がっている。どちらのケーブルもHTHH噴火により破断したが、国際線は噴火後約1カ月で復旧した。一方国内線は2023年3月頃の復旧が予定されている。DAS観測には通信に使用していないダークファイバ―を用いるが、トンガの光ケーブルには未使用の芯線が無い。しかし国内線は復旧前で通信に使用していないため、DAS観測への利用について管理者であるトンガケーブル社より了解が得られた。
国内線の光ケーブルはトンガタプ島からケーブルに沿って約30kmから約100kmの区間が切断されている。本観測ではトンガタプ島の陸上局舎にDAS測器を設置し、そこから30kmの区間でDAS観測を実施した。ケーブルの先端はHTHH中心部から約20kmに位置する。観測は2月6~13日の1週間行った。また、同時にリファレンスのための地震計を設置、観測を行った。
DAS観測にはOptaSense社製QuantXを使用した。ゲージ長30.63m、チャンネル間隔2.04m (14960チャンネル)、パルスレート3.125 kHzで測定し、観測データはデシメートして312.5Hzで保存した。地震観測はNanometrics社製Trelium Compact (120秒計)とLenartz社製LE-3Dlite MKIII(1秒計)を用い、白山工業製LS8800を用いて200Hzサンプリングで収録した。地震計の設置はトンガケーブル社の敷地内に120秒計と1秒計を一台ずつ、トンガケーブル社の南約7 kmの地点に約100mの間隔で2点設置した。
観測結果:
DAS観測記録はトンガタプ島に近い海域では波浪ノイズが大きいが、20 kmより先の水深が深くなる海域ではノイズレベルが大きく低下していく事が確認された。観測期間中に、リージョナルな地震だけでなく、ローカルと思われるイベントも複数確認された。
将来の展望:
陸上火山の監視では、火口近傍での観測が火山性流体の移動に伴う微弱な振動を捉え、噴火の予測や推移把握に役立てられて来た。小笠原島弧の無人島・西之島の噴火では、火口から数kmに海底地震計を設置し、また島内にテレメーター地震・空振観測点を運用して、噴火中や噴火間の活動の詳細な把握を試みたが、定常的な監視は困難であった。今回の実験では、ケーブル切断位置の関係で火口近傍観測には至らなかったが、DAS観測の有効距離や感度が十分であることが確認された。将来的に、復旧後の長距離国内線ケーブルを用い、また、沈み込み帯背弧側に延びた国際線ケーブルと併せてDAS観測を行うことができれば、火山や地震活動の監視能力は飛躍的に向上するだろう。また、今回初めての試みにおいても機材持ち込みから数時間以内の作業でデータの取得が開始されたことから、噴火や地震など緊急時の臨時観測にも有用であろう。今後実用化するためには、リアルタイムの解析や情報伝達手法の確立、通信を妨げずにDAS観測を行う手法の開発、上記のような観測を行うための事前計画と準備が必要である。本観測実験は、その重要な第一歩となるはずである。
謝辞:
本観測はトンガケーブル社および独立行政法人国際協力機構(JICA)の支援により実現いたしました。また東京大学地震研究所技術職員の八木健夫氏、Tonga Geological ServicesのV. Tovi氏を含むメンバーの皆様には現地の観測において多大なご協力を頂きました。記して感謝いたします。
2022年1月15日に発生したHunga-Tonga Hunga-Ha’apai (HTHH)海底火山の大噴火は、大気波動の影響も含め大規模な津波を発生させ、世界中に影響を与えた。この噴火災害は、浅海火山噴火を監視する必要性を改めて認識させた。火山活動監視の最も基本的な手法は地震観測であるが、海域に火山を抱える島国であるトンガの場合、観測機器の設置・維持が困難であり噴火時に稼働している観測点は皆無であった。近年急速に進歩しているDAS(Distributed Acoustic Sensing)技術は、火山近傍を通る光海底ケーブルの利用により人工ノイズの少ない海底でのオンライン観測を可能とし、火山監視に威力を発揮すると期待される。我々は、上記の噴火によって破断され復旧していないトンガ国内通信用の光海底ケーブルを利用し、本地域におけるDAS技術の有用性を検証するための観測実験を実施した。本稿では,その実施内容と得られたデータについて速報する。
観測概要:
トンガ王国本島トンガタプ島には国際及び国内間のブロードバンド通信のための光海底ケーブルが敷設され、国際線はフィジーに、国内線はヴァヴァウ諸島およびハアパイ諸島に繋がっている。どちらのケーブルもHTHH噴火により破断したが、国際線は噴火後約1カ月で復旧した。一方国内線は2023年3月頃の復旧が予定されている。DAS観測には通信に使用していないダークファイバ―を用いるが、トンガの光ケーブルには未使用の芯線が無い。しかし国内線は復旧前で通信に使用していないため、DAS観測への利用について管理者であるトンガケーブル社より了解が得られた。
国内線の光ケーブルはトンガタプ島からケーブルに沿って約30kmから約100kmの区間が切断されている。本観測ではトンガタプ島の陸上局舎にDAS測器を設置し、そこから30kmの区間でDAS観測を実施した。ケーブルの先端はHTHH中心部から約20kmに位置する。観測は2月6~13日の1週間行った。また、同時にリファレンスのための地震計を設置、観測を行った。
DAS観測にはOptaSense社製QuantXを使用した。ゲージ長30.63m、チャンネル間隔2.04m (14960チャンネル)、パルスレート3.125 kHzで測定し、観測データはデシメートして312.5Hzで保存した。地震観測はNanometrics社製Trelium Compact (120秒計)とLenartz社製LE-3Dlite MKIII(1秒計)を用い、白山工業製LS8800を用いて200Hzサンプリングで収録した。地震計の設置はトンガケーブル社の敷地内に120秒計と1秒計を一台ずつ、トンガケーブル社の南約7 kmの地点に約100mの間隔で2点設置した。
観測結果:
DAS観測記録はトンガタプ島に近い海域では波浪ノイズが大きいが、20 kmより先の水深が深くなる海域ではノイズレベルが大きく低下していく事が確認された。観測期間中に、リージョナルな地震だけでなく、ローカルと思われるイベントも複数確認された。
将来の展望:
陸上火山の監視では、火口近傍での観測が火山性流体の移動に伴う微弱な振動を捉え、噴火の予測や推移把握に役立てられて来た。小笠原島弧の無人島・西之島の噴火では、火口から数kmに海底地震計を設置し、また島内にテレメーター地震・空振観測点を運用して、噴火中や噴火間の活動の詳細な把握を試みたが、定常的な監視は困難であった。今回の実験では、ケーブル切断位置の関係で火口近傍観測には至らなかったが、DAS観測の有効距離や感度が十分であることが確認された。将来的に、復旧後の長距離国内線ケーブルを用い、また、沈み込み帯背弧側に延びた国際線ケーブルと併せてDAS観測を行うことができれば、火山や地震活動の監視能力は飛躍的に向上するだろう。また、今回初めての試みにおいても機材持ち込みから数時間以内の作業でデータの取得が開始されたことから、噴火や地震など緊急時の臨時観測にも有用であろう。今後実用化するためには、リアルタイムの解析や情報伝達手法の確立、通信を妨げずにDAS観測を行う手法の開発、上記のような観測を行うための事前計画と準備が必要である。本観測実験は、その重要な第一歩となるはずである。
謝辞:
本観測はトンガケーブル社および独立行政法人国際協力機構(JICA)の支援により実現いたしました。また東京大学地震研究所技術職員の八木健夫氏、Tonga Geological ServicesのV. Tovi氏を含むメンバーの皆様には現地の観測において多大なご協力を頂きました。記して感謝いたします。