日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的火山

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:30 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:中野 優(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、及川 純(東京大学地震研究所)

09:15 〜 09:30

[SVC31-02] 箱根火山大涌谷極浅部で発生する地震と火山活動の関係

*栗原 亮1長岡 優1本多 亮1板寺 一洋1 (1.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:箱根火山、火山性地震、マッチドフィルタ法、水蒸気噴火

箱根山では多くの地震が発生し、頻繁に群発的な地震活動が観測される。最近では、2015年の水蒸気噴火時や2019年に群発的な地震活動が観測され、これらの地震は大涌谷、駒ヶ岳、芦ノ湖周辺の地表付近から深さ5 km程度に広く分布している(cf.原田他2015,行竹他2020)。群発地震発生時以外も、箱根山では通常の地震が多く発生しており、神奈川県温泉地学研究所(以下、温地研)ではその観測を行なっている。
2022年5月や7月に、通常の地震とは異なる大涌谷周辺の観測点だけで見られる地震が観測された。これらの地震は、検知範囲の狭さや見かけ速度から極浅部で発生したことが推測され、通常の地震に比べてP波S波が不鮮明である。震源位置を推定すると、大涌谷の谷の周辺の深さ-1­から0kmとほぼ地表付近に求まる。これらの地震の卓越周波数は10Hz程度であり、低周波地震とは異なる波形を持っている。この地震の活動状況を調べるため、マッチドフィルタ法を用いて噴火の発生があった2015年および2019–2022年の4年間の活動履歴を調べた。噴火前と比較するため、解析には噴火前から設置のあった4つの温地研の観測点を利用した。テンプレートとしては2019–2022年の地震73個を利用した。
その結果、2015年の結果では、2015年の4-7月でこの地震が顕著に増加していることが明らかになった。これは群発地震が見られた2015年5月上旬から実際に小規模な噴火が発生した6月下旬までの期間とほぼ対応する。この期間は通常の地震も多いため、実際にこの極浅部の地震であるかを確かめるため、大涌谷近傍にある温地研のOWD観測点と大涌谷から約6km離れたTNM観測点の振幅の比が100を超えるイベントに絞って累積個数を見ても、2015年1年間で検出された地震はこの活発化の時期に集中する。このことから、噴火に伴って活発化する地震であるということがわかる。
一方、2019–2022年の結果では、2022年の5–7月ごろに集中しており、火山活動が活発であった2019年では検出数は少ないという結果が得られた。この地震が増加した2022年の5–7月には震源が深めの地震や地殻変動には変化がなく、火山活動が活発化したという証拠はない。そのため、この地震が地表付近の熱水の影響によるものと推定される。これら2つの期間の結果は、この地震は地表付近の熱水活動によって活発化することがあると考えられるが、その熱水活動を引き起こす原因が火山活動自体の高まりに対応する場合とそうでない場合があるということになる。