日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的火山

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:30 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:中野 優(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、及川 純(東京大学地震研究所)

09:45 〜 10:00

[SVC31-04] 新燃岳2008年噴火に伴って発生した群発地震活動におけるb値の時間変化と空間分布

*及川 純1田島 靖久2 (1.東京大学地震研究所、2.日本工営(株))

キーワード:火山性地震、火山噴火、b値、霧島火山新燃岳、群発地震、水蒸気噴火

霧島山は,新燃岳,御鉢,硫黄山など複数の火口から同時期に噴火を起こす歴史を持つ火山群であり,現在,国内で最も噴火活動が活発な火山の一つである.特に新燃岳では, 2008年8月に1992年以来16年ぶりに噴火した後,2010年の6回の小噴火を経て,2011年に準プリニー式噴火を含む大きな噴火活動が起こった.その後,6年間の休止期を経て2017年10月に噴火活動を再開し,2018年3月〜6月に噴火活動があって現在に至る.及川・田島(2020,2021)は,地震活動から噴火の準備過程を研究する目的で,一連の噴火活動が始まった2008年8月22日の噴火前から2011年噴火までの火山性地震発生の様子を明らかにした.本研究は,特異な変化を示す2008年噴火直前に発生した群発地震活動の特徴に注目して,噴火を生じさせた熱流体の活動や火道の生成に関して考察する.

新燃岳の火口直下における火山性地震活動は,2007年までは消長はあるものの低調であった.2008年に入ると火山性地震は希に発生する程度でほとんど観測されない状態であったが,8月19日に激しい群発地震活動が始まり8月22日16時34分の噴火に至った.噴火後も,火山性地震活動は比較的活発で,地震数の多い状態が12月まで続いた.その後,火山性地震活動は比較的低調になったが,2009年12月より再び火山性地震活動が活発化し,2011年噴火に至った.震源分布の様子は,2008年噴火の前後で,特に深さ分布で違っている.Fig.1に,縦軸に海抜下の深さ,横軸に時間をとった,震源の深さの時間変化を示す.噴火直前の群発地震活動は,19日に火口直下の深さ海抜下1-2km程度付近から始まった.震源域は徐々に浅い方へ広がり,22日には地表付近まで達して噴火発生まで激しい地震活動が続いた.震源域の上端は1日で1km程度上昇している.噴火後は,ほとんど深さ海抜下1km程度より浅い深さで地震が発生する状況が続いた.

震源決定をする際には,地震の振幅を用いてそれぞれの地震のマグニチュードを推定しているが,頻度分布にグーテンベルグ・リヒターの式を当てはめてb値を求めることができる.新燃岳火口直下の地震活動に関して期間を分けてb値を求めると,2008年噴火直前の群発地震では2.0,それ以外の期間では0.6から0.9程度となった.b値は地震発生場を形成す地殻の特徴を表す値で,いわゆる通常の構造性地震では0.7〜1.1程度,火山地域などの特殊な領域では2を超える事があるといわれている.今回にあてはまれば,2008年噴火直前には,噴火を起こす熱流体の状態変化を反映してb値が大きな値を示したと考えられる.さらに,群発地震発生期間におけるb値の変化を調べたのがFig.2およびFig.3である.Fig.2は群発地震発生期間の前半(◆)と後半(■)に分けた頻度分布であるが.それぞれのb値は1.9と2.1となり,時間的には変化が見られない.Fig.3は,深さ海抜1km以深(●)と1km以浅(−)に分けた頻度分布であるが.それぞれのb値は2.1と1.4になる.すなわち,新燃火口直下の火山性地震が発生する領域は,b値が大きく(2.1 ),比較的大きな地震が起こりにくい海抜1km以深と, b値が小さく(1.4),比較的大きな地震が起こりやすい海抜1km以浅に分けられる.

以上より,2008年噴火直前には,噴火を起こす熱流体が活発化し上昇しながら通路を開く噴火準備過程に対応して火口直下海抜1km以深でも活発な地震活動が発生したため地震発生場として大きなb値を示す状況になり,通路が開いた噴火後は,地震発生が海抜1km以浅に限られるために通常のb値を示す状態となったと解釈できる.なお,2010年に発生した小噴火では直前に大きなb値を示す活動は見られなかったが,これは,すでに通路が開いているために周囲の地震発生場の状態を変化させずに噴火が起こったと解釈できる.