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[SVC31-17] 噴気・温泉ガスのヘリウム・炭素同位体比からみた硫黄島の火成活動の起源と熱水系
キーワード:ヘリウム、硫黄島、炭素
伊豆・小笠原弧の最南端に位置する硫黄島火山のマグマは、同島弧の他の火山とは異なる化学的特徴を有し、沈み込み成分の寄与が大きいことが示唆されている。また同島は顕著な地殻変動により隆起し続けていることでも知られており、全島で活発な地熱活動が観測され、水蒸気噴火もたびたび発生している。この特異なマグマの生成過程と活発な熱水活動における揮発性元素の挙動を明らかにするために、1997年から2001年にかけてと、2017年8月、2022年11月に噴気と温泉ガスを採取し、希ガスと炭素の同位体比を測定した。その結果、硫黄島マグマの希ガス・炭素同位体比は、伊豆・小笠原・マリアナ弧の他の火山と異なり、(1)3He/4He比が5.6 RA程度と低く、(2)相対的に重い希ガスに富み、(3)海洋炭酸塩の最高値とほぼ等しい重い炭素同位体比(+1.5‰)を持つことが明らかになった。これらの特異な特徴は、マグマにスラブ由来の揮発性成分が含まれていることを強く示唆しており、その寄与率はヘリウムで31%、炭素で95%以上と見積もられる(Sumino et al., Chem. Geol. 2004)。同島における二酸化炭素放出量(Notsu et al., JVGR 2005)から見積もったスラブ由来の炭素とヘリウムの放出量(3.5 × 109 mol/年と 4.0 × 103 mol/年)は、マントルウェッジへのスラブ成分の供給量が大きく、かつスラブ物質からの脱ガスが効率的に起こっていることを示唆している。その原因として、(1)小笠原海台の沈み込みにより、厚い地殻がマントルウェッジの下に沈み込んでいること、(2)沈み込んだ小笠原海台の浮力により沈み込み角度が緩やかになったこと、(3)マリアナトラフにおける背弧海盆の拡大がこの地域の同島の背弧域まで及んでいることが考えられる(Sumino et al., Chem. Geol. 2004)。
硫黄島では過去1千年にわたり水蒸気噴火が続いてきたが、2022年8月に島南東の海中のカルデラ縁で発生した噴火には初めてマグマ噴出が認められ、火山活動がこれまでとは異なるステージに移りつつある可能性が示唆されている。2022年11月に採取した噴気や温泉ガスの3He/4He比には、2022年8月以降に水蒸気噴火がたびたび起こっている島の北側では、それまでと比較して顕著な変化は見られなかったが、元山中央の硫黄ヶ丘では6.0 RAという、これまでにない高い値が観測された。震源分布の偏りや、これまでの水蒸気噴火の噴出物の観察から、熱水系の中心は島のやや北側にあると考えられる。従って仮に2011年に浅部まで上昇したマグマ由来のヘリウムが高い3He/4He比を持っていたとしても、以前から火山ガスが蓄積し、胚胎岩に由来する4Heに富むヘリウムの混入により3He/4He比が低くなっている熱水だまりにはマグマ由来のヘリウムの影響がまだ認められていない一方で、熱水だまりの影響が比較的少ない硫黄ヶ丘でその寄与が見られた可能性があり、噴気・温泉ガスの今後の3He/4He比の変化を注視していく必要があると考えられる。
硫黄島では過去1千年にわたり水蒸気噴火が続いてきたが、2022年8月に島南東の海中のカルデラ縁で発生した噴火には初めてマグマ噴出が認められ、火山活動がこれまでとは異なるステージに移りつつある可能性が示唆されている。2022年11月に採取した噴気や温泉ガスの3He/4He比には、2022年8月以降に水蒸気噴火がたびたび起こっている島の北側では、それまでと比較して顕著な変化は見られなかったが、元山中央の硫黄ヶ丘では6.0 RAという、これまでにない高い値が観測された。震源分布の偏りや、これまでの水蒸気噴火の噴出物の観察から、熱水系の中心は島のやや北側にあると考えられる。従って仮に2011年に浅部まで上昇したマグマ由来のヘリウムが高い3He/4He比を持っていたとしても、以前から火山ガスが蓄積し、胚胎岩に由来する4Heに富むヘリウムの混入により3He/4He比が低くなっている熱水だまりにはマグマ由来のヘリウムの影響がまだ認められていない一方で、熱水だまりの影響が比較的少ない硫黄ヶ丘でその寄与が見られた可能性があり、噴気・温泉ガスの今後の3He/4He比の変化を注視していく必要があると考えられる。