日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的火山

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (16) (オンラインポスター)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SVC31-P04] 東北地方、栗駒火山における完新世中期以降の水蒸気噴火に伴う降下テフラの空間分布と給源の推定

*諏訪 貴一1高橋 尚志2、市川 玲輝1遠田 晋次2 (1.東北大学大学院理学研究科、2.東北大学災害科学国際研究所)


キーワード:水蒸気噴火、降下テフラ、火山災害、完新世、栗駒火山

水蒸気噴火は,マグマ噴火に比べて規模は小さいものの発生頻度が高く,発生の場所とタイミングによっては2014年の御嶽山噴火のように大きな人的被害をもたらす.東北地方の火山においては,完新世以降,数多くの水蒸気噴火が発生しており,その活動性を評価するためにも,火山ごとにより詳細な噴火史の構築が求められる.奥羽山脈中部に位置する栗駒火山では,過去の水蒸気噴火イベントの発生回数や年代が簡易的に既往研究で報告されている程度で,それぞれの水蒸気噴火イベントの規模や,噴火に伴う降灰範囲などは十分に明らかになっていない.本研究では完新世中期以降に栗駒火山で発生した水蒸気噴火を対象に,発生年代や給源火口,テフラの降下範囲や層厚の空間分布を明らかにし,噴火イベントの規模や頻度について議論する.
 2 mおよび5 mメッシュDEMから作成した地形図や空中写真を用いた地形判読の結果,少なくとも50口以上の火口状凹地形が抽出された.これらの火口状凹地形はすべて栗駒火山北麓に分布する.土井(2006)や地形の新旧から,これらを東部火口群,中部火口群,西部火口群,剣岳西部火口群に分類した.また,上記とは独立した火口として地獄釜,小仁郷沢火口などが認められる.さらに,栗駒火山の15地点で表層土壌断面を記載し,土壌層中に挟まるガラス質テフラ層や,火山ガラスを含まない泥質なテフラ層を認定した.泥質テフラ層は風化火山岩片から成ることから,栗駒火山の水蒸気噴火による降下テフラと考えられる.ガラス質テフラの同定,土壌等の14C測定を実施して,土壌中に挟まる水蒸気噴火によって降下した泥質テフラ層を認定・対比するとともにその降下年代を推定した.その結果,十和田aテフラ(To-a;AD915)の上位には少なくとも2層,To-aと十和田中掫テフラ(To-Cu;5,986~5,899 cal BP;McLean et al., 2018)の間には少なくとも4層,To-Cuの下位には少なくとも1層の泥質テフラ層が確認された.To-a降下時以降の泥質テフラは,先行研究や土壌の厚さから1744年噴火,13世紀噴火によるものと判断した.To-a降下時以前の泥質テフラは,直下の土壌の14C年代から約1 ka,約3 ka,約4 ka,約6 ka,約7 kaに水蒸気噴火が発生し,降下・堆積したと考えられる.
 以上から,1944年の昭和湖における水蒸気噴火イベントも含めて,栗駒火山では過去8,000年間に少なくとも8~9回の水蒸気噴火が発生し,降灰が生じたことが明らかになった.特に,最近約1,000年間では計3回の水蒸気噴火が発生しており,その頻度が高くなっていることが分かる.しかし,水蒸気噴火はその規模の小ささから堆積物の層厚が薄く,侵食などにより古い層ほど失われやすいため,過去にも同頻度で水蒸気噴火が発生していた可能性があり,今後詳細な調査が必要である.また,それぞれの水蒸気噴火による降下テフラの等層厚線図を作成し,噴火の給源やテフラの降下範囲,空間分布を推定した.その結果,それぞれの降下テフラの給源は,13世紀の噴火が東部火口群,1744年,約3 ka,約4 kaの噴火が西部火口群,約7 kaの水蒸気噴火が剣岳西部火口群または小仁郷沢火口,約1 kaの噴火が栗駒火山南麓と推定された.さらに,西暦1744年,約4 ka,約7 kaに生じた水蒸気噴火は,少なくとも厚さ6 cm以上の降下テフラ層を残す,比較的大規模な噴火であった可能性が明らかになった.これは約3,000~4,000年に1回の頻度で,栗駒火山において比較的規模の大きな水蒸気噴火が発生してきたことを示す.さらに,本調査で最も広範囲で降下堆積物が確認され,完新世中期以降の栗駒火山では最大規模と考えられる約4 kaの水蒸気噴火による降灰量は,Hayakawa(1985)による経験式から約1.85×106 m3と推測され,これはテフラ噴出量が106 m3程度と推定されている2014年の御嶽山噴火と同規模かそれ以上であることが分かった.
 以上より,完新世中期以降の栗駒火山の水蒸気噴火の規模や頻度は他の火山と比較しても遜色ないといえる.栗駒火山では火口周辺にまで登山客などが立ち入ることを踏まえると,水蒸気噴火が発生した際には規模の大きな災害となりうるリスクがあることが示唆される.今後,テフラの記載地点を増やし,侵食等の影響を考慮しながら降灰範囲や等層厚線をより詳細に明らかにする必要がある.
 本研究には,栗駒山麓ジオパーク学術研究等奨励事業補助金を使用した.

文献:
土井(2006)岩手の地学,35・36,3–22;.
Hayakawa(1985):Bull. Earthq. Res. Inst., 60, 507–592;.
McLean et al. (2018) Quat. Sci. Rev., 183, 36–58.