日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC32] 火山防災の基礎と応用

2023年5月26日(金) 13:45 〜 15:15 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)

14:00 〜 14:15

[SVC32-02] 桜島ブルカノ式噴火にともなう地盤変動の統計的性質を用いた確率的噴火予測

*石井 杏佳1井口 正人1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:確率的噴火予測、桜島火山、ブルカノ式噴火、地盤変動

降灰ハザードの評価には、降灰をもたらす噴火の規模・時刻の予測が重要である。降灰シミュレーションによって予測される降灰量や降灰領域に対して、噴火規模・時刻の予測確率を掛け合わせることで、噴火の不確定性を考慮した定量的な評価が可能になる。桜島では年間数百回を超える噴火が発生するため、降灰は近隣住民にとって最も身近なハザードである。一方で、頻発する噴火は大規模な噴火データベースを提供し、統計的なアプローチにもとづいた噴火確率の評価を可能にする。そこで、本研究では、桜島の噴火データベースをもとに噴火規模・時刻の確率分布を取得し、噴火の短期予測を行うシステムを構築することを目指す。桜島ではブルカノ式噴火の発生前に山体が膨張し、噴火に伴って収縮することが知られている。本研究では、2009-2020年に昭和火口および南岳火口で発生した爆発イベントを対象に、この地盤変動の統計的性質を調査した。まず、膨張継続時間、膨張体積、収縮体積、収縮率(=収縮体積/膨張体積)に着目し、これら4つの指標のデータベースを作成した。使用したデータは、南岳山頂火口から2.4 kmに位置する有村観測坑道の伸縮計記録2成分(火口方向・直交方向)である。膨張・収縮体積は、火口直下に1つの球状圧力源を仮定し、歪み2成分の比を用いて圧力源での体積変化量を推定した。次に、4つの指標の頻度分布を再現できるモデル分布を推定した。モデル分布の候補としてLog-logistic分布、Weibull分布、指数分布を採用し、最も観測値を説明できるものを最適モデルとした。各分布のモデルパラメータは最尤推定で制約した。その結果、両火口ともに、膨張継続時間、膨張体積、収縮体積、収縮率のいずれも、Log-logistic分布が最適モデルとなった。Log-logistic分布はブルカノ式噴火の噴火間隔のモデル分布として多くの研究で用いられており、競合する2つのプロセス(たとえば、マグマの貫入による増圧と脱ガスによる減圧)の存在を示唆することが知られている(Connor et al., 2003;Watt et al., 2004)。したがって、これは桜島のブルカノ式噴火にともなう地盤変動が、火道内での増圧・減圧過程のバランスに支配されていることを示していると考えられる。また、最適モデルの時間変化を推定すると、解析対象期間のほとんどの時期でLog-logistic分布が最適モデルとなった。さらに、現象の規則性を表すLog-logistic分布のモデルパラメータkには時間変化がみられた。特に2011年末から2012年初め、2019年末から2020年初めにkが高い値を示しており、この時期の噴火にともなう地盤変動は、他の時期に比べてより規則的であったと考えられる。これらの時期は、長期的な地盤変動データからマグマ貫入があったと考えられている時期にちょうど一致する (井口・ほか, 2019; Iguchi et al., 2022)。つまり、同程度のスケールの規則的な繰り返し噴火は、高いマグマ供給によってもたらされている可能性がある。したがって、より現実に即した噴火確率を求めるには、長期的なマグマ供給量の変化や、噴火前にリアルタイムで得られる膨張速度 (=膨張体積/膨張時間)に応じて関数形を変えることが重要になるかもしれない。