日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC32] 火山防災の基礎と応用

2023年5月26日(金) 15:30 〜 16:45 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)

16:00 〜 16:15

[SVC32-09] 桜島における防災ツーリズム実証実験;
「防災」と「人の営み」をつなぐインタープリテーション

*吉瀬 毅1,3、高田 昌志2,1、姥 千恵子2,1、紫垣 真充3,1、玉井 貴夫4、筒井 麻貴4古殿 紀章5、下村 慎一郎6為栗 健7井口 正人7 (1.桜島・錦江湾ジオパーク推進協議会、2.桜島ジオサルク、3.鹿児島市世界遺産・ジオ・ツーリズム推進課、4.鹿児島市危機管理課、5.鹿児島市船舶局、6.国土交通省九州地方整備局大隅河川国道事務所、7.京都大学防災研究所火山活動研究センター)

キーワード:火山防災、アウトリーチ、インタープリテーション、桜島・錦江湾ジオパーク

はじめに
 活火山である桜島に暮らす人々が、火山災害からどのようにして身を守るか?防災・減災についての関係者が、どのような取り組みを行っているのか?火山に関する災害について、大規模噴火、火山灰対策、火山砂防などに対して個別の対策が取られてきた。一口に火山に対する対策とはいえ、それぞれに係る関係者が異なる場合があり、一般に向けての統一的な情報提供はできていなかった。そこで、桜島の火山防災の取組について、一般の市民や旅行客に詳しく周知するために、有料ガイド団体(桜島ジオサルク)がインタープリターとして桜島の防災拠点を案内するツアー(防災ツーリズム)を実証実験として実施した。本発表では、防災ツーリズムを通じて得たノウハウや知見の一部と、今後の展望について報告する。

ターゲット(ねらい)
 防災ツーリズムの対象となる参加者は、観光関係者と一般参加者である。旅行業者には、参加募集の案内を行い、一般からの参加希望は、公募により募集を行った。合計41人が参加した。参加者の内訳は、それぞれ旅行業者17人、一般参加24人であった。
 京都大学防災研究所附属火山活動研究センター(京大防災研)は研究活動とは別に、アウトリーチ活動も求められている。また、国土交通省国際砂防センター(砂防センター)には、砂防事業について一般公開する役割もある。京大防災研は研究活動のために、砂防センターは住民の生命と財産を守るために、それぞれ設備の設置・維持・管理、観測・分析、評価と情報提供などを日々行っている。そして、一部を行政などと連携して情報発信している。また、砂防センターには、常設展示や不定期な一般公開もある。
 また、防災体制について、網羅的に理解を促すためには、参加者にハード面(施設)だけではなく、ソフト面(避難体制)についても発信する必要がある。鹿児島市の船舶局と危機管理課は、住民が安心して生活できる環境を整備していることを発信したい。
 一般公開の機会があったとしても、研究成果や砂防事業、環境整備の内容が一般に”伝わる”ためにはいくつかの障害がある。火山に関する防災・減災は高度に細分化された専門性があるため、専門家から予備知識のない一般の住民に向けて繰り返し、平易な言葉で、全体を俯瞰して、説明する必要がある。さらに、一般公開の主催によって説明する専門家の背景が異なり、断片的な情報が一般に小出しに伝わる。
 そのため、これらのアウトリーチ活動について、防災・減災の専門家がすべてを行うのは難しく、時間やスキルの制約を考えると”伝える”ことに特化した専門家(インタープリター)に任せるのが良い。そこで鍵となるのは、桜島を中心にプロとして活動しているガイド団体(桜島ジオサルク)である。彼らは普段、一般の旅行客に対してインタープリターとして、桜島の成り立ちや噴火活動、そしてそれらがヒトにもたらす恩恵について、楽しく・わかりやすくガイドしている(ジオツーリズム)。ジオパークの関連団体(ジオガイド)は地球科学や人文地理学、その他生物学など一定の知識を有している。それらの知識の中には防災の知識も有り、ジオガイドがインタープリターとして防災ツーリズムのガイドを行うことにより、参加者は防災施設を見学するだけではなく、実験やアクティビティを交えながら体験し、桜島の防災について深く学ぶことができる。すなわち、参加者は桜島の防災について興味・関心が湧くだけではなく、全体を俯瞰してどのような役割の施設があるかを把握・理解できる。インタープリターは、ガイドとして観光客を楽しませるだけではなく、ハード・ソフト両面の防災・減災をつなぐ、鍵であると言える。
 インタープリテーションが関わることで、楽しいだけ・施設見学で学ぶだけのツアーではなく、参加者は楽しみながら産学官が連携したハード・ソフト両面の防災を網羅的(自然科学・工学・社会学)に理解できる。そのようなツアーをねらって、全国に先駆けて防災ツーリズムの実証実験を行った。

実施内容と評価
 京大防災研は、普段関係者以外が立ち入る事ができないハルタ山観測室の地震計の一般公開を行った。実際に地震計を前にして、地震計の原理や精度の説明、設置の経緯などを説明した。砂防センターは、同じく普段関係者以外が立ち入る事ができない地獄河原上流にある導流堤の一般公開を行った。実際に砂防施設を前にして、土砂の流入量の説明や、導流堤や砂防堰堤がない場合に見込まれる集落への損害について説明した。どちらも、普段目にすることのできない施設であり、参加者へのインパクトは大きかった。また、インタープリターは、随時炭酸飲料を用いた噴火再現実験などを行い、噴火のメカニズムなどについて解説を行うことによって、それぞれの現象についての平易なイメージを定着させた。これによって、施設の役割について参加者の把握・理解が深まっただろう。
 参加者は、桜島フェリーターミナル(袴腰)から野尻港までの移動中、車窓から退避壕を見学した。避難港到着後、危機管理課は、退避壕や退避舎などの避難施設や、有事の際に想定している避難体制について、ハザードアップを使用しながら説明を行った。また、船舶局は、参加者にフェリーによる避難体験をしてもらった。参加者と船舶局は、避難港に桜島フェリーを発着させて避難港(野尻港)から鹿児島市街地まで移動した。インタープリターと担当職員の解説付きで、模擬的に避難を体験することによって、参加者は実際に体験することによって安心が得られただろう。

まとめと今後の展望
 火山に関する災害について、大規模噴火、小規模な噴火活動による噴石、土砂災害など、それぞれの災害について参加者の理解が深まったと言える。
 大正噴火レベルの大規模噴火は、日常の噴火活動による降灰の延長にあるような現象ではなく、1 m以上の軽石が降り積もった後に、塊状の溶岩がゆっくりと押し寄せてくる現代のインフラを寸断するような現象であることを一般に周知できた。桜島は100年以上、大規模噴火を経験しておらず、現在のインフラがどこまで大規模噴火に耐えられるかは経験がない。できることをできる範囲で防災と減災に取り組んでいるが、被害の軽減のためには住民と行政の理解が必須である。今回、実証実験で行った防災ツーリズムを実施した。今後、防災ツーリズムを商品化し、ガイド団体がインタープリターとして実施することで、観光客や住民にとって楽しく防災について学べる機会を整えていきたい。防災ツーリズムは全国に先駆けた、ソフト面での防災・減災のモデルケースになるだろう。