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[SVC33-01] 2022年吾妻山大穴火口浅部の熱的推移について ~全磁力連続観測による示唆~
キーワード:火山、吾妻山、地磁気、連続観測、熱水系、逆推定
東北地方の最も活動的な火山の一つである吾妻山では、1977年の水蒸気噴火を最後に噴火活動が記録されていないが、2008年に大穴火口で噴気が活発化して以来、現在に至るまで火山活動の消長を繰り返している。気象庁では、2001年から火山ガスやGNSSを含む多項目の観測により活動監視を行い、最近では2014-15年及び2018-19年に複数の項目において活動度上昇を示唆する顕著な変化を観測した(関ほか2021)。地磁気観測においては、2003年の全磁力繰返し観測の開始に引き続き、2015年11月からは全磁力連続観測(大穴火口を取り囲む6点)も運用しており、いずれにおいても非常に急峻な全磁力変化を観測した(>10nT/年)。これらは上述の活発化とおよそ同期しており、全磁力データは大穴火口下の浅部の熱的変化を捉える有益な観測資料の一つと位置付けられている。
本講演では、2022年に記録された吾妻山の全磁力連続観測を用い、年1回の繰返し観測では得られなかった時間分解能で大穴火口下の熱的状態の変化の推定を試みた結果を報告する。同年初頭の連続観測においては、前年までの帯磁(冷却)傾向が消磁(加熱)傾向に転じ、5月からはその消磁傾向が加速していた。そこで、吾妻山を特徴づける全磁力の大きな変化率(とそれに伴う比較的高いS/N比)に着目し、各観測点の1ヶ月前後差を説明する熱消磁源(一様磁化した球の中心位置とモーメントの大きさ)の時間発展をMaGCAP-V(気象研究所地震火山研究部,2008)を用いて推定した。その結果、4月下旬から10月上旬の約5か月間に渡り、熱源の水平位置が大穴火口のやや北側に一貫して特定されただけでなく、興味深いことに、その標高が1400m弱から1600m強までほぼ着実に上昇していた(図参照)。一方で、磁気モーメント強度の変化量の推移については明瞭な傾向は得られなかった。上記期間以外では、消磁に由来すると考えられる全磁力変化の強度が十分でなく、熱源の位置をロバストに逆推定することは出来なかった。今回の解析期間は約4か月のみと限定的であるが、本結果は火山における熱的状態の連続モニタリングにおける全磁力連続観測の有用性を示す画期的な一例である。
全磁力連続観測のみに基づく本解析結果が示唆する熱源の上昇過程には、以下のように、大穴火口周辺の他の観測項目との調和的対応も見られる(仙台管区気象台・令和4年12月火山活動解説資料より)。①5月には地磁気変化に先行して、大穴火口北西の火山ガス観測装置にてSO2/H2S比の上昇が観測された。②5月頃から8月下旬にかけて、大穴火口浅部の膨張を示唆する地殻変動(傾斜計とGNSS基線長)が観測された。③9月頃から11月頃にかけて大穴火口の周辺領域において地熱域の面積の拡大が観測された。これらと本手法の結果を統合することで、5月から11月にかけての大穴火口浅部における熱的状態の発展がより鮮明になり、消磁・帯磁の傾向のみを参考にしていた従来よりも高度な活動評価に貢献することが期待される。特に、①と②が共に最盛期を迎えていた6月中旬〜8月上旬に熱源の標高の上昇率が最も大きく、同期間における熱水系の推移についてより詳細な解釈が与えられよう。
本報告では、今後も活発化の可能性が否定できない大穴火口周辺において、全磁力の連続観測の変化も注視し続けることの重要性を示した。ここでは単純に熱源の推定を時間離散的に行ったが、今後の改良点としては、連続的に時間発展する熱源モデルの構築も考えられる。データの蓄積に伴ってモデルを逐次更新するなど、より洗練された活動評価に資するための手法の開発が期待できる。
本講演では、2022年に記録された吾妻山の全磁力連続観測を用い、年1回の繰返し観測では得られなかった時間分解能で大穴火口下の熱的状態の変化の推定を試みた結果を報告する。同年初頭の連続観測においては、前年までの帯磁(冷却)傾向が消磁(加熱)傾向に転じ、5月からはその消磁傾向が加速していた。そこで、吾妻山を特徴づける全磁力の大きな変化率(とそれに伴う比較的高いS/N比)に着目し、各観測点の1ヶ月前後差を説明する熱消磁源(一様磁化した球の中心位置とモーメントの大きさ)の時間発展をMaGCAP-V(気象研究所地震火山研究部,2008)を用いて推定した。その結果、4月下旬から10月上旬の約5か月間に渡り、熱源の水平位置が大穴火口のやや北側に一貫して特定されただけでなく、興味深いことに、その標高が1400m弱から1600m強までほぼ着実に上昇していた(図参照)。一方で、磁気モーメント強度の変化量の推移については明瞭な傾向は得られなかった。上記期間以外では、消磁に由来すると考えられる全磁力変化の強度が十分でなく、熱源の位置をロバストに逆推定することは出来なかった。今回の解析期間は約4か月のみと限定的であるが、本結果は火山における熱的状態の連続モニタリングにおける全磁力連続観測の有用性を示す画期的な一例である。
全磁力連続観測のみに基づく本解析結果が示唆する熱源の上昇過程には、以下のように、大穴火口周辺の他の観測項目との調和的対応も見られる(仙台管区気象台・令和4年12月火山活動解説資料より)。①5月には地磁気変化に先行して、大穴火口北西の火山ガス観測装置にてSO2/H2S比の上昇が観測された。②5月頃から8月下旬にかけて、大穴火口浅部の膨張を示唆する地殻変動(傾斜計とGNSS基線長)が観測された。③9月頃から11月頃にかけて大穴火口の周辺領域において地熱域の面積の拡大が観測された。これらと本手法の結果を統合することで、5月から11月にかけての大穴火口浅部における熱的状態の発展がより鮮明になり、消磁・帯磁の傾向のみを参考にしていた従来よりも高度な活動評価に貢献することが期待される。特に、①と②が共に最盛期を迎えていた6月中旬〜8月上旬に熱源の標高の上昇率が最も大きく、同期間における熱水系の推移についてより詳細な解釈が与えられよう。
本報告では、今後も活発化の可能性が否定できない大穴火口周辺において、全磁力の連続観測の変化も注視し続けることの重要性を示した。ここでは単純に熱源の推定を時間離散的に行ったが、今後の改良点としては、連続的に時間発展する熱源モデルの構築も考えられる。データの蓄積に伴ってモデルを逐次更新するなど、より洗練された活動評価に資するための手法の開発が期待できる。