日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC33] 火山の監視と活動評価

2023年5月26日(金) 09:00 〜 10:30 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高木 朗充(気象庁気象研究所)、宗包 浩志(国土地理院)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、座長:久利 美和(気象庁)、楠城 一嘉(静岡県立大学)

10:00 〜 10:15

[SVC33-05] 気象衛星「ひまわり」の2階差分画像を用いた大規模噴火時の気圧波検知の事例

*久利 美和1、桑山 辰夫1、山田 基史1、福満 修一郎1 (1.気象庁地震火山部)

キーワード:大規模噴火、気象衛星「ひまわり」、津波

1.はじめに
 2022年1月15日に発生した、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火(以下、トンガ諸島の噴火)により、日本では、気圧変化(気圧波)とその直後からの潮位変化が観測された。
気象庁では、同年2月から3月にかけて、津波・火山・海洋の専門家を交えた「津波予測技術に関する勉強会」を開催し、トンガ諸島の噴火で発生した潮位変化のメカニズム等を分析し、潮位変化は大規模噴火に伴う気圧波の伝播等によって生じたことが分かった。同年5月から6月にかけて、津波・火山・防災情報の専門家やメディア、関係省庁からなる「火山噴火等による潮位変化に関する情報のあり方検討会」を開催し、火山噴火により発生した気圧波に起因する潮位変化に関する情報のあり方を検討した。
 トンガ諸島の噴火の航空路火山灰情報(VAA)第1報では、噴煙高度は約16,000m(52,000フィート)であり、過去に気圧波に起因する潮位変化が発生した3事例(1883年クラカタウ、1956年ベズィミアニィ、2022年トンガ諸島)の噴煙高度が約15,000m(50,000フィート)以上であったことなどを踏まえ、噴煙高度海抜約15,000m(50,000フィート)以上の火山噴火が発生した場合、気象庁は津波発生の可能性のある大規模噴火発生の情報提供を行うこととした。

2.輝度温度画像の2階差分画像による気圧波の検知
 トンガ諸島の噴火後、ひまわりが10分毎に観測した画像のうち、対流圏上中層の水蒸気に感度のあるバンド10の輝度温度画像を時間方向に2階差分したところ、地球規模で同心円状に広がる明瞭な気圧波の伝播を捉えた(「津波予測技術に関する勉強会」報告書参照)。これは、気圧を直接観測しているものではなく、気圧変化に伴う輝度温度の時間的な変化を可視化したものである。輝度温度変化と気圧変化の量的な関係が明らかではないことから定量的な評価は困難ながら、広範囲に広がる気圧波を迅速に検知するうえで有効な手段である。
 同手法で、気象衛星ひまわり8号の運用開始(2015年7月7日)以降、噴煙高度海抜約15,000m(50,000フィート)以上のVAAの入電があった22事例の画像(1200×1200ピクセル)を確認したところ、福徳岡ノ場(日本、2021年8月13日)、ベズィミアニィ(ロシア、2022年5月28日)で、輝度温度変化の同心円状の伝播を、またクラカタウ(インドネシア、2018年12月22日)で弧状の伝播を確認した。ただし、伝播が明瞭に見えるのは噴火地点の周辺のみで、継続時間も短く、トンガ諸島のような、地球を周回する規模ではなかった。ただし、ベズィミアニィは天候不良により詳細の確認は困難であった。
 さらに、トンガ諸島、福徳岡ノ場、クラカタウの3事例について、ひまわり8号の10分毎の3バンド(バンド8、バンド10、バンド12)の全球での2階差分画像(1100×1100ピクセル)を作成し、輝度温度変化の伝播の検知状況を比較した。結果、すべての現象を明瞭に検知していたのはバンド10であった。詳細は以下のとおりである。トンガ諸島の噴火事例では、3バンドすべてで明瞭な伝播を確認したが、とくに、成層圏に感度のあるバンド12が明瞭であった。実際の噴煙高度が成層圏(傘型領域で約30km、頂部では約55km)に達していたためと考えられる。噴煙高度が対流圏界面付近に到達した福徳岡ノ場、の事例では、バンド8とバンド10で同程度に明瞭、バンド12では不明瞭であった。また、福徳岡ノ場の噴火事例では、噴火発生直後だけではなく、約18時間後にも伝播が確認された。山体崩壊により津波が発生したクラカタウの事例ではバンド10でのみ明瞭、バンド8ではやや不明瞭、バンド12では不明瞭であった。クラカタウの事例では、津波を引き起こしたと考えられる山体崩壊に至った噴火は、現地時間で21時03分(22/1403Z)と21時05分(22/1405Z)に発生したと考えられている。ただし、噴煙高度が高くなったのは、現地時間の翌朝であり(VAA, ERUPTION DETAILS: ERUPTION TO FL550 OBS MOV TO SW、OBS VA DTG: 23/0025Z)、噴煙高度情報のみでは山体崩壊による津波の可能性の検知が難しいことも示された。