日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC33] 火山の監視と活動評価

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高木 朗充(気象庁気象研究所)、宗包 浩志(国土地理院)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、座長:高木 朗充(気象庁気象研究所)、寺田 暁彦(東京工業大学火山流体研究センター)

11:30 〜 11:50

[SVC33-10] 草津白根山における側噴火発生危険評価:土壌ガスの化学的特徴から示唆される火口周辺地下の物質輸送

★招待講演

*寺田 暁彦1若松 海1水谷 紀章1角野 浩史2小長谷 智哉4大場 武3髙橋 昌孝1谷口 無我5髙橋 祐希1 (1.東京工業大学理学院火山流体研究センター、2.東京大学先端科学技術研究センター、3.東海大学理学部化学科、4.北海道大学大学院理学院、5.気象庁気象研究所)

キーワード:単体気体水銀、ヘリウム、土壌ガス、側噴火、草津白根火山、水蒸気噴火

1.はじめに
 草津白根火山は水蒸気噴火を繰り返してきた国内有数の活動的火山である.同火山の噴火は山頂火口に限定されず,山体斜面からも発生する特徴がある.火口外には国道や観光施設が整備されており,それらの至近距離で噴火が発生すれば,たとえ噴火が小規模であっても大きな人的被害を生じ得る.しかし,側噴火発生の危険性を事前に評価するために有効な物理・化学観測的手法は存在しない.そこで本研究では,山体表面付近に存在する土壌ガスに注目した.土壌ガスは,土や砂など粒子間の空隙にわずかに存在し,山体のどこからでも採取でき,室内実験による詳細な化学分析が可能である.また,土壌ガスの大気への拡散放出率を測定する方法が存在する.そこで本研究では,土壌ガスを用いた火山浅部構造手法を検討し,草津白根山に適用した.

2.方法
 草津白根山の白根火砕丘周辺で気体単体水銀(GEM.ここでは単に Hg と呼ぶ)の放出率多点測定を面的に実施した.Hg は環境中にほとんど存在しない一方で,火山ガスや温泉にわずかに含まれていることから,火山ガスのトレーサになり得る.また,同火砕丘を縦断する測線を設定して,約 500 m 間隔で深度 1 m 地温を測定したほか,土壌拡散 CO2 および He 放出率を測定し,さらに土壌ガスを採取して 3He/4He,4He/20Ne,3He/CO2,および δ13C を計測した.同位体比の測定は東京大学先端科学技術研究センターにて行った.

3.結果
 草津白根山で観測されたHg放出率は 0.8 - 67×10-3 ng/m2/s で,過去に Campi Flegrei などで報告されてきた値の範囲に矛盾しない.白根火砕丘南側斜面では,周辺の平均値よりも約10倍高い Hg 放出が認められた.Hg 放出域は湯釜火口から南方へ帯状に分布しており,それは過去に側噴火が繰り返し発生してきた領域に一致する.
 地表から放出される Hg の起源はマグマガスに限らず,例えば HgS などを含む堆積物や,あるいは人工的な廃棄物なども挙げられる.地表面からの He 放出率を測定したところ,高 Hg 放出域で高い He 放出率(0.6 ng/m2/s)が測定された.さらに,採取した土壌ガスの 4He/20Ne を分析した結果,本領域の土壌ガスには数%の深部供給ガスが含まれていること,また,3He/4He からマグマ起源ヘリウムの放出率は最大 0.3 ng/m2/s であることが分かった.

4.議論
 高 Hg 放出域では,僅かなマグマ起源ガスが放出されていることが分かった.現在は植生に覆われて熱活動が存在しないが,同領域は現在も透水性が高く,マグマガスの関与する熱水系と接続していると考えられる.このような領域は,将来も側噴火の発生する危険性が高いと考えられる.
 従来の化学分析対象は噴気や温泉試料であり,これらは,当然のことながら噴気や温泉が存在する必要がある.本研究で確立した方法によれば,場所を選ばず,熱活動の有無にもよらず,側噴火発生が懸念される領域で調査できる.また,マグマ起源ガスが検出できれば,そのモニタリングも比較的容易と思われる.すなわち,噴気や温泉と異なり,土壌ガスの温度は常温付近で,反応性が高い腐食性のガスを含まない.そのため,精密装置を用いた連続観測やリアルタイムでの監視が比較的容易である.試料採取のため危険な高温噴気に近づく必要もなく,安全かつ容易に繰り返しガスを採取できる.このように,土壌ガスは新たな火山監視項目になり得る.

本研究を行うにあたり,文部科学省科研費・基盤研究(B)(18H01290)および基盤(C)(22K03735)を使用しました.