日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC34] 海域火山

2023年5月24日(水) 09:00 〜 10:15 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、藤田 英輔(防災科学技術研究所 火山防災研究部門)、前野 深(東京大学地震研究所)、小野 重明(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:藤田 英輔(防災科学技術研究所 火山防災研究部門)、田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

09:15 〜 09:30

[SVC34-02] 7300年前の鬼界アカホヤ噴火以降の海底溶岩ドーム直下マグマ供給系の進化

*浜田 盛久1羽生 毅1、マッキントシュ アイオナ1、テハダ マリアルイザ1、チャン チン1金子 克哉2、木村 純一1清杉 孝司2宮崎 隆1中岡 礼奈2、西村 公宏2佐藤 智紀1島 伸和2鈴木 桂子2田中 聡1、巽 好幸2上木 賢太1、ヴァグラロフ ボグダン1吉田 健太1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.神戸大学)

キーワード:鬼界カルデラ、アカホヤ噴火、後カルデラ火山活動

研究目的
鬼界海底カルデラは,カルデラ形成噴火を何度も起こしてきた海域火山である.7300年前に起こったカルデラ形成噴火であるアカホヤ噴火以降,カルデラ縁上の稲村岳,硫黄岳,昭和硫黄島において大小さまざまな規模の噴火を繰り返してきたことが知られており,現在でも,硫黄岳では噴気活動が続いている。鬼界海底カルデラは二重のカルデラ壁,高さ約600m,体積約32 km3の巨大な溶岩ドーム,および火口丘から成るが,海面下にあるためそれらに関する研究は遅れていた.鬼界海底カルデラの実態を明らかにするため,海洋研究開発機構と神戸大学は数年来,共同で調査航海を実施してきた.本発表では,3回の調査航海によってカルデラ内の溶岩ドーム及び周辺の火口丘から採取された試料の岩石学的研究の成果を報告する.

試料と分析手法
 海底カルデラ内の溶岩ドーム及び周辺の火口丘の合計14地点から岩石試料をドレッジにて採取した.試料はいずれも流紋岩質で,斜長石,単斜輝石,直方輝石,磁鉄鉱,イルメナイトが斑晶鉱物として,リン灰石が副成分鉱物として晶出している.斑晶鉱物のモードは25 vol.%以下である.発泡度は試料毎に異なるが10-40 vol.%である。それぞれの試料の全岩主成分元素化学組成を蛍光X線分析装置(XRF)を用いて分析した.また,各鉱物とガラスの主成分元素組成を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて局所分析した.

分析結果と議論
海底カルデラ内の溶岩ドーム及び西側の火口丘から採取してきた試料は,全岩のSiO2含有量が68-71 wt.%の流紋岩であり,鬼界カルデラにおける「硫黄岳後期」(2200年前以降)の流紋岩質噴出物と同じ化学的特徴を示す.アカホヤ噴火以降に,巨大な溶岩ドームが急速に成長したことが明らかとなった.一方,東側の火口丘から採取してきた試料は,同様に流紋岩質ではあるが,「硫黄岳前期」(5200年前から3900年前)と「硫黄岳後期」(2200年前以降)の噴出物の化学的特徴を示すものの合計2種類が含まれている.東側の火口丘は,より古い山体であると考えられる.

海底カルデラ内における試料採取地点に関わらず,磁鉄鉱の組成はMt70-73Usp27-30,イルメナイトの組成はHm20-30Ilm70-80であり,Fe-Ti酸化物地質温度計・酸素分圧計で見積もられた温度は900-940 ℃(平均で922 ℃)であった.酸素雰囲気はNi-NiOバッファーよりも0.8ログユニット高かった(NNO+0.8).斜長石のコア部分は An50-An70(組成塁帯構造あり),リム部分はAn45-An50である.斜長石コアとメルト包有物の元素分配から,メルトの含水量は2.2-3.5重量%と見積もられる.このことは,深度2-4 km(圧力50-100 MPa)のマグマ溜まりにおいて,水に飽和した流紋岩質メルトの結晶分化作用が進行したことを示唆する.試料には黒色の包有物が認められるが,その化学組成は苦鉄質ではなく流紋岩質である.

海底カルデラ内の海底の溶岩ドームの試料から見積もられたマグマの温度は,硫黄岳や昭和硫黄島の陸上試料から先行研究によって見積もられたマグマの温度と同程度であるが,酸素雰囲気は陸上試料のそれよりもやや低い.また,硫黄岳や昭和硫黄島の陸上試料が苦鉄質包有物を含むのに対し,海底の溶岩ドームの試料の包有物は,上述したように流紋岩質である.これらの分析結果や観察事実を総合すると,海底カルデラ内の溶岩ドームの直下においては,カルデラ縁に位置する硫黄岳や昭和硫黄島と比較して,流紋岩マグマと熱源となる玄武岩質マグマとの混合・混交の程度が小さいと考えられる.