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[SVC34-03] 屈折法地震探査によって明らかになった鬼界カルデラ海底火山地下の低速度異常
キーワード:鬼界カルデラ、屈折法地震探査、初動走時トモグラフィー、低速度異常
鬼界カルデラは鹿児島県薩摩半島の南部約50 kmに位置する海底カルデラ火山であり、現在に至るまで大小規模の噴火を繰り返してきた。神戸大学の練習船「深江丸」によって行われた探査航海により、カルデラ内部の溶岩ドームが7300年前の巨大噴火以降に成長したことや、溶岩ドーム上の噴出口における熱水活動などを明らかにし、現在の溶岩ドームの下におけるマグマだまりの存在を示唆した(Tatsumi et al., 2018).しかし、マグマだまりの有無も含め、現在のカルデラの地下構造の実態は不明である.マグマだまりの存在を仮定した場合、温度やメルトなどの要因によって弾性波速度が低下し、地震波速度構造に低速度異常としてイメージングされることが予期される.そこで、本研究の目的は、鬼界カルデラで実施した屈折法地震波構造探査のデータを解析し、推定した地震波速度構造における低速度異常の有無と、低速度異常が存在する場合はその規模などを含めた実態を明らかにすることである.
2021年7月末、海洋研究開発機構の研究船「かいめい」によって屈折法地震波構造探査が実施され、取得した海底地震計データに初動走時トモグラフィー解析(Fujie et al., 2006)を適用し、鬼界カルデラを東北東-西南西方向に横切る全長約175 kmの測線直下の二次元P波速度構造を推定した。推定した二次元P波速度構造では、地下構造の速度勾配や速度勾配が急激に変化する深さが四つの領域(測線西部、カルデラ近傍、測線西部、カルデラ直下)で異なり、二つの特徴が見られた.一つ目の特徴は、カルデラ直下の速度構造を無視すると、測線東部から西部にかけて速度勾配が大きくなっていることである.また、二つ目の特徴は、カルデラの幅と同等か、それより幅広い低速度異常がカルデラ直下(深さ約2-12 km)に存在することである.これらの特徴のうち、測線と交わるECr11測線(Nishizawa et al., 2019)の速度構造には、一つ目の特徴を示す構造が見られた.一方で、二つ目の特徴を示す構造は見られず、低速度異常は鬼界カルデラの存在に由来することが示唆される.また、イメージングされた低速度異常の規模は水平方向約25 km×鉛直方向約10 kmであり、速度低下量は最大1.2 km/s(20 %)であった.低速度異常の規模と速度低下量については、チェッカーボード解像度テストと結果モデルの初期モデルに対する依存性を確認するモンテカルロ解析の結果によって有意であることがわかった.本研究では、低速度異常の解釈として、二つの可能性を考えた.一つ目は、メルトが存在する領域という解釈であり、二つ目は、噴火時に崩壊したカルデラ床と水で満たされた、空隙率が高い領域という解釈である.しかし、二つ目の解釈の検討に必要なS波速度の値を本研究単体で把握することは難しい.そこで、本研究では一つ目の解釈の可能性を検証すべく、速度低下が温度上昇のみに依存するという仮定のもと、低速度異常における温度異常を見積もった.その結果、低速度異常のほとんどの範囲で、地下深さ2-4 kmに存在したとされる流紋岩マグマの温度(平均922 ℃:Hamada et al .,2023)を超えた.実際のカルデラ地下の温度がマグマ温度を超えることは考えにくく、低速度異常ではメルトの存在が支持される.また、温度異常がマグマ温度を大幅に超える領域は溶融度が高い領域を示唆している.低速度異常の浅部(深さ約2-6 km)では特に温度異常が大きく、その水平方向の広がりは溶岩ドームの幅と整合的であった.これらの結果は、低速度異常においてメルトが存在する可能性を支持すると共に、低速度異常の浅部と深部、溶岩ドームの内側と外側では溶融度が異なること示している.本発表では、低速度異常の浅部と深部の違いについて、瀬戸ほか, (日本地球惑星科学連合2019年大会)が推定した火山性地震の震源の深さを本研究で推定した地震波速度構造を用いて補正した結果を踏まえて、議論する.
2021年7月末、海洋研究開発機構の研究船「かいめい」によって屈折法地震波構造探査が実施され、取得した海底地震計データに初動走時トモグラフィー解析(Fujie et al., 2006)を適用し、鬼界カルデラを東北東-西南西方向に横切る全長約175 kmの測線直下の二次元P波速度構造を推定した。推定した二次元P波速度構造では、地下構造の速度勾配や速度勾配が急激に変化する深さが四つの領域(測線西部、カルデラ近傍、測線西部、カルデラ直下)で異なり、二つの特徴が見られた.一つ目の特徴は、カルデラ直下の速度構造を無視すると、測線東部から西部にかけて速度勾配が大きくなっていることである.また、二つ目の特徴は、カルデラの幅と同等か、それより幅広い低速度異常がカルデラ直下(深さ約2-12 km)に存在することである.これらの特徴のうち、測線と交わるECr11測線(Nishizawa et al., 2019)の速度構造には、一つ目の特徴を示す構造が見られた.一方で、二つ目の特徴を示す構造は見られず、低速度異常は鬼界カルデラの存在に由来することが示唆される.また、イメージングされた低速度異常の規模は水平方向約25 km×鉛直方向約10 kmであり、速度低下量は最大1.2 km/s(20 %)であった.低速度異常の規模と速度低下量については、チェッカーボード解像度テストと結果モデルの初期モデルに対する依存性を確認するモンテカルロ解析の結果によって有意であることがわかった.本研究では、低速度異常の解釈として、二つの可能性を考えた.一つ目は、メルトが存在する領域という解釈であり、二つ目は、噴火時に崩壊したカルデラ床と水で満たされた、空隙率が高い領域という解釈である.しかし、二つ目の解釈の検討に必要なS波速度の値を本研究単体で把握することは難しい.そこで、本研究では一つ目の解釈の可能性を検証すべく、速度低下が温度上昇のみに依存するという仮定のもと、低速度異常における温度異常を見積もった.その結果、低速度異常のほとんどの範囲で、地下深さ2-4 kmに存在したとされる流紋岩マグマの温度(平均922 ℃:Hamada et al .,2023)を超えた.実際のカルデラ地下の温度がマグマ温度を超えることは考えにくく、低速度異常ではメルトの存在が支持される.また、温度異常がマグマ温度を大幅に超える領域は溶融度が高い領域を示唆している.低速度異常の浅部(深さ約2-6 km)では特に温度異常が大きく、その水平方向の広がりは溶岩ドームの幅と整合的であった.これらの結果は、低速度異常においてメルトが存在する可能性を支持すると共に、低速度異常の浅部と深部、溶岩ドームの内側と外側では溶融度が異なること示している.本発表では、低速度異常の浅部と深部の違いについて、瀬戸ほか, (日本地球惑星科学連合2019年大会)が推定した火山性地震の震源の深さを本研究で推定した地震波速度構造を用いて補正した結果を踏まえて、議論する.