11:45 〜 12:00
[SVC34-10] 中央海嶺系や背弧拡大系の噴出岩に海水の寄与が表れているか
キーワード:中央海嶺、背弧拡大軸、希ガス元素比、メルトー海水反応
海洋リソスフェアへの海水の浸透が沈み込み帯での地震活動やマグマジェネシスなどのプレート挙動に大きく影響していると指摘されて久しい。この浸透経路について断裂帯壁面の観察と試料採取から制約を目指す研究計画が存在している(例えば、OkinoらによるMoWALL計画)。一方、Tamura+(2022)が指摘したように、中央海嶺系や背弧拡大軸であっても安山岩~デイサイトの産出もしばしば報告されてきている。筆者らもインド洋のインド洋中央海嶺(Central Indian Ridge)沿いの25oS OCCで、板状を呈し、岩脈としての貫入が強く示唆される斜長花崗岩をしんかい6500による潜航調査で採取した(Nakamura+, 2007)。この試料では、コンドライト組成で規格化した希土類の存在度にテトラド効果による4つ組上凸のパターンがみられ、海水の寄与があったと結論付けられた。海嶺軸での主要な岩相である玄武岩にあっても、海水の寄与が示唆されるデータの報告はなされており、Kumagai&Kaneoka(2005)では、同一海嶺軸セグメントから複数個所で採取された0Ageの海嶺玄武岩について精密希ガス同位体分析を行い、セグメント毎に大気的な同位体成分の寄与が異なっている傾向を報告した。さらに、ネオンーアルゴンーキセノンの元素比を用いることによって、大気的な成分の混染過程を論ずる可能性も示した。具体的には、希ガスのケイ酸塩メルトに対する分配係数が質量数・ファンデルワールス半径の小さい希ガスで大きく、海水ではその逆であることに着目し、バルクの海水の付加として希ガスが与えられたか、ケイ酸塩メルトに対して希ガスが分配によって与えられたかを識別できることを指摘している。これは、希ガスのケイ酸塩メルトへの分配係数がヘリウムからキセノンに向かって単調に減少する一方、海水への希ガスの溶解度は単調に増加することによる。
そこで改めて、海嶺軸・背弧拡大軸の火山岩に対して海水の付加がみられるかを既報のデータにより再検討した。例えば、ラウ海盆で採取された玄武岩について検討した結果を図に示す。データはHonda+(1993)に拠った。
図の横軸はアルゴンのネオンに対する元素比(36Ar/22Ne)、縦軸はキセノンのネオンに対する元素比(132Xe/22Ne)で、地球表層に存在しうる希ガスの端成分である大気と海水、海水がマグマだまり近傍まで寄与した場合に想定しうるような海水に溶解している希ガスがケイ酸塩メルトの間で分配されてメルトに付加されるような希ガス成分での元素比もそれぞれ示している(以下「海水平衡メルト希ガス」と称する)。希ガスの溶解度はメルト組成に対する依存性があるので、RおよびBとして流紋岩メルト、玄武岩メルトそれぞれに対する値を示した。この図上では両軸の分母がネオンで共通なので、二成分の混合トレンドは直線をなす。これによれば、ラウ海盆拡大軸の火山岩の希ガス組成は全体としてはばらつくものの海水と海水平衡メルト希ガスの影響を受けており、成熟した拡大軸であるCLSC(Central Lau Spreading Center)試料の希ガス(Filled Circles)はより海水平衡メルト希ガスの制約が強い傾向となっている。このトレンドは、IODPExp.304/305で大西洋中央海嶺のAtlantis Massifで掘削された斑れい岩類にしばしば見いだされる変質ハロでの傾向とも一致する(Kumagai+, 2007)。また、南西インド洋海嶺で形成されたOCCであると考えられるアトランティス海台で有人潜水船・無人探査機で採取された斑れい岩類や大洋底ペリドタイトでも同様のトレンドがみられる(Kumagai+, 2003)。このように、Tamuraらが示したような海底下それなりの深度への海水の浸透とマグマジェネシスへの寄与は中央海嶺系、背弧拡大軸で広くみられるプロセスと考えられる。
図:Honda+(1993)で報告されている希ガスデータに基づいて作図。シンボルの大きさはしばしば大気混入の指標とされる36Ar量を示す。FillしたシンボルはCentral Lau Spreading Center試料、Openのシンボルは北部のKing's Triple Junction試料、南部Eastern Lau Spreading Centerの試料は132Xeに富むため枠外にプロットされる。
そこで改めて、海嶺軸・背弧拡大軸の火山岩に対して海水の付加がみられるかを既報のデータにより再検討した。例えば、ラウ海盆で採取された玄武岩について検討した結果を図に示す。データはHonda+(1993)に拠った。
図の横軸はアルゴンのネオンに対する元素比(36Ar/22Ne)、縦軸はキセノンのネオンに対する元素比(132Xe/22Ne)で、地球表層に存在しうる希ガスの端成分である大気と海水、海水がマグマだまり近傍まで寄与した場合に想定しうるような海水に溶解している希ガスがケイ酸塩メルトの間で分配されてメルトに付加されるような希ガス成分での元素比もそれぞれ示している(以下「海水平衡メルト希ガス」と称する)。希ガスの溶解度はメルト組成に対する依存性があるので、RおよびBとして流紋岩メルト、玄武岩メルトそれぞれに対する値を示した。この図上では両軸の分母がネオンで共通なので、二成分の混合トレンドは直線をなす。これによれば、ラウ海盆拡大軸の火山岩の希ガス組成は全体としてはばらつくものの海水と海水平衡メルト希ガスの影響を受けており、成熟した拡大軸であるCLSC(Central Lau Spreading Center)試料の希ガス(Filled Circles)はより海水平衡メルト希ガスの制約が強い傾向となっている。このトレンドは、IODPExp.304/305で大西洋中央海嶺のAtlantis Massifで掘削された斑れい岩類にしばしば見いだされる変質ハロでの傾向とも一致する(Kumagai+, 2007)。また、南西インド洋海嶺で形成されたOCCであると考えられるアトランティス海台で有人潜水船・無人探査機で採取された斑れい岩類や大洋底ペリドタイトでも同様のトレンドがみられる(Kumagai+, 2003)。このように、Tamuraらが示したような海底下それなりの深度への海水の浸透とマグマジェネシスへの寄与は中央海嶺系、背弧拡大軸で広くみられるプロセスと考えられる。
図:Honda+(1993)で報告されている希ガスデータに基づいて作図。シンボルの大きさはしばしば大気混入の指標とされる36Ar量を示す。FillしたシンボルはCentral Lau Spreading Center試料、Openのシンボルは北部のKing's Triple Junction試料、南部Eastern Lau Spreading Centerの試料は132Xeに富むため枠外にプロットされる。