日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC34] 海域火山

2023年5月24日(水) 15:30 〜 16:45 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、藤田 英輔(防災科学技術研究所 火山防災研究部門)、前野 深(東京大学地震研究所)、小野 重明(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:前野 深(東京大学地震研究所)、田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

16:15 〜 16:30

[SVC34-14] 小笠原硫黄島火山2012-2022年の噴火活動

*長井 雅史1三輪 学央1上田 英樹1中田 節也1、小林 哲夫2小澤 拓1棚田 俊收1廣瀬 郁1小園 誠史1 (1.防災科学技術研究所 火山防災研究部門、2.鹿児島大学)

小笠原硫黄島は活発な地殻変動・地熱活動・地震活動が続いているカルデラ火山である。19世紀末の入植以来、小規模な噴火が記録されてきたが、その多くは経緯や噴出物の記載が不十分で実態が不明であった。本発表では最近10年間に防災科研が観察した噴火現象を紹介し、再生ドーム形成期の海域カルデラ火山の活動様式の理解を深めることを目的とする。
現在の硫黄島は2011年から続く地殻変動が活発な時期にあたり、カルデラ中央の再生ドームの元山を囲む正断層帯付近で隆起量が大きい状態にある。2012年から2016年にかけて元山西側から北西側の地域で小規模な噴火が発生した。2018年頃から再び隆起量が大きくなったことに対応して噴火活動が活発となり、南側や北東側にも噴火地点が増えて元山を囲むような分布となった。噴火では火山灰・噴石の飛散を伴う砕屑丘の形成や熱泥流の流出がおこり、しばしば陥没孔の形成を伴った。噴出量は小規模なものは数 m3程度、最大で105 m3程度である。噴出物は多くの場合、熱水変質鉱物と地表付近の既存の弱変質~未変質火山噴出物粒子の混合物であるため、ほとんどが水蒸気噴火と考えられる。噴火により変質鉱物の鉱物組み合わせに違いがあることから熱水だまりは複数存在する可能性がある。また、2022年7月-8月の翁浜沖噴火は新鮮なパン皮状火山弾が噴出して海岸に漂着した水蒸気マグマ噴火であった。
一連の活動のメカニズムは以下のように考えることができる。硫黄島のカルデラ直下には逆円錐形のコーンシート状の岩体を作るようなマグマ貫入が続いていると考えられる。正断層帯はマグマ先端が作る引張場に影響されて形成されており、断層は蓄積された熱水の通り道となっている。水蒸気噴火の頻発する時期は隆起変動の進む時期に一致ないしやや遅れる傾向があるのは、貫入マグマから放出された火山ガスの付加による熱水活動の活性化や断層の変位が進み熱水流路が形成されやすくなるためと考えられる。翁浜沖噴火は肥大化を続ける貫入マグマの南側先端がついに地表に通じたことを示すが、噴火後も地殻変動・地震活動等の傾向は変わらず、北東海岸で続く噴火活動も水蒸気噴火のままである。このことからマグマ活動は浅所への定置をおこなうことで安定しており、地表への噴出はごく小規模な副次的・局所的な現象に留まっていると考えられる。
今後も硫黄島火山の活動推移の把握を続けるとともに噴出物の解析からマグマの岩石学的な条件の制約を進める必要がある。また周辺海域で起こる噴火活動の実態が不明なままであるので、観測手段を揃える必要があると考えられる。