日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC35] 次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト

2023年5月23日(火) 13:45 〜 14:45 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中川 光弘(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門地球惑星システム科学講座)、上田 英樹(防災科学技術研究所)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

13:45 〜 14:00

[SVC35-05] 浅間前掛火山の1万年間の高分解能噴火履歴復元に基づく階段図と噴火事象系統樹の作成

*安井 真也1高橋 正樹1金丸 龍夫1 (1.日本大学文理学部)

キーワード:浅間前掛火山、噴火史、階段図、噴火事象系統樹

一般に火砕流や溶岩流は地形的低所へ流下し、噴煙由来の火砕物は噴火時の気象条件下で風下に堆積するため,任意の地点の層序は噴火史の全貌を表さない。浅間前掛火山の降下火砕堆積物の場合、南麓と北北西麓では6300年前頃の軽石層が認められる。これらは卓越風の風向とは異なる方向へ分布する数少ない堆積物であり、地表からの深度も浅く比較的認識しやすい。一方、東麓ではAs-A(18世紀)やAs-B(12世紀)など新しい時代の堆積物が厚いため、地下に埋没する古い堆積物の露頭観察の機会は少ない。また噴火イベント毎に特徴的な岩相や固有のマグマ組成を示す場合は少なく、岩相の類似する軽石層の異なる地点間の対比はきわめて困難であった。これらの問題点を踏まえ、本研究では火口の周囲180度以上における26ケ所のトレンチ掘削と100試料を越える14C年代測定を行い、主要な堆積物の分布と年代、浅間前掛火山全体の層序を明らかにした。As-C, Eグループ、As-Fはそれぞれ1800年前、6300年前、8300年前頃の噴出とみられる。As-Cと Eグループの間の土壌には、3000~6000年前頃の軽石層が多く挟まれDグループとした。等層厚線図に示される分布面積の比較から、軽石層が広く分布するクラス1から土壌中に軽石が散る程度のクラス4までに噴火規模を分類した.9400年前~3000年前頃(噴火活動期IとII)はクラス3,4の噴火が断続し、2000年前以降(活動期III)はクラス1が3回起きたことがわかった.以上より、広範の掘削調査と多数の年代測定の組合せは高分解能での噴火史復元の上で有効であることが示された。
復元された1万年史に基づいて噴出量 (DRE) と噴出年代の間の関係を示す階段図を作成した。活動期IIIは噴火時期予測型ではなく、天明噴火クラスの大規模な軽石噴火が2023年に発生した場合、約 0.21km3 の噴出量が予測される。 活動期により噴出率は変化し、活動期 III (0.0011km3/年) の平均噴出率は、活動期 I (0.00006km3/年) および II (0.0001km3/年) よりも1桁以上大きい。活動期 III以降、火砕流や溶岩流を伴う大規模サブプリニー式噴火が低頻度で起きるようになったとみられる。
西暦 1527 年以降の噴火記録に基づく噴火イベントを使用して浅間前掛火山の噴火事象系統樹を作成した。火山活動は、マグマの貫入によるunrestから始まる。マグマ貫入によるunrestは、噴火しない(確率0.63)あるいは噴火(確率0.37)をもたらす。噴火自体は、小規模(0.22)、中規模(0.75)、クラスB(上述のクラス3~4に相当)の大規模噴火(0.03)のいずれかである。中規模の噴火は、断続的に5年以上続く(0.29)か、単発の噴火(0.67)である。中規模の噴火がクラス A (クラス 1-2) の大規模な噴火 (0.04) に発展することはほとんどない。噴火事象系統樹によると、西暦 1527 年以降の噴火傾向が変化しないと仮定した場合、マグマ貫入によるunrestの開始からクラス A の大規模噴火が発生する確率は 0.008 となる。