日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC35] 次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト

2023年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (4) (オンラインポスター)

コンビーナ:中川 光弘(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門地球惑星システム科学講座)、上田 英樹(防災科学技術研究所)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[SVC35-P03] 火山ガスの希ガス同位体組成からみた火山の活動度と地下構造

*角野 浩史1,2 (1.東京大学先端科学技術研究センター、2.防災科学技術研究所)

キーワード:火山ガス、希ガス、ヘリウム、同位体、熱水系

次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト課題B「先端的な火山観測技術の開発」サブテーマ3「地球化学的観測技術の開発」では、火山とその周辺で放出される噴煙や噴気、温泉水溶存ガス、土壌ガスなど(ここではこれらを広く「火山ガス」と呼ぶ)の地球化学的分析に基づき、マグマあるいは熱水系の活動度の評価手法の開発や、マグマ起源ガスを含む地下深部流体の分布状況の把握を進めている。その取り組みのうち一つの柱が、ヘリウムをはじめとした希ガスの元素比・同位体比を指標として、火山ガスに含まれるマグマ起源成分の寄与率の変化や、マグマ起源ガスの組成からマグマの脱ガス率を把握する手法の開発である。本発表では複数の興味深い成果が得られている、草津白根山における事例を紹介する。

火山ガス中に含まれる希ガスには、マグマや地殻、大気あるいはもとは大気平衡になった天水であった地下水など、異なる起源を持つ複数成分が混在している。希ガスの同位体のうち3Heにはマグマ、20Neと36Arには大気・地下水、4Heと40Arにはマグマと大気、地下水それぞれに主に起源を持つと見なしてよい。例えばヘリウム同位体比(3He/4He)はマグマ起源と地殻起源のもので同位体比が大きく異なり、また4He/20Ne比から大気・地下水起源の4Heの量を見積もり差し引くことで大気補正3He/4He比を得ることができるため、さらに大気補正3He/4He比から高い3He/4He(島弧の場合は最大で約8 RA)を持つマグマ起源成分と、低い3He/4He(一般に0.1 RA以下)を持つ地殻起源成分の寄与率を知ることができる。このようにして各希ガスごとに起源の異なる成分の量を求め、それらの比をとることで、マグマ起源の希ガスの元素比を求めることができる。また希ガスのマグマや水への溶解度は元素ごとに異なり、マグマの発泡度に依存して変動するため、マグマ起源の希ガスの元素比の変動から発泡度の変化、すなわちマグマの圧力変化を検知できると期待される。

草津白根山では、白根山山頂の湯釜火口の北側に存在する噴気で地震活動の活発化と同期した3He/40Ar*比(3Heはもとよりほぼ全てがマグマ起源、40Ar*は全40Ar中のうちマグマ起源のものを意味する)の上昇が観測され、すなわち地震活動の活発化に合わせてマグマの圧力が減少していたことが明らかとなった(Obase et al., 2022)。これは地震や地殻変動などの地球物理学的観測手法では捉えられない圧力変化を、マグマの情報をマグマ由来の物質そのものとしてもたらす火山ガス中の希ガスをもとに検出した初めての例である。しかしその圧力変化が、マグマ直上に位置する流体を押さえ込んでいるシーリングの破壊かによるものか、マグマ・流体界面の上昇によるものかを明らかにするには、地球物理学的観測と照らし合わせつつ、今後の観測事例を蓄積していく必要がある。

火山体表面の土壌からは、深部から上昇した気体成分が拡散によって放出されている。この気体成分は、土壌中の空隙に存在する土壌ガスとして採取・分析することができ、測定が簡便な気体成分、例えば大気中に比べてマグマ起源ガスに高濃度で含まれる二酸化炭素や、大気中にほとんど含まれないがマグマ起源ガスには微少量含まれる気体単体水銀のその場観測から、大気への拡散放出率を求めることもできる。

白根山山頂の湯釜周辺の土壌からの気体単体水銀の放出率と、対応する土壌ガスの希ガス分析から、地表に明瞭な火山ガス放出が認められない場所でもマグマ起源3Heが放出されていることが分かり、その場所は過去の側噴火の火口列の付近であった(寺田ほか、2023)。すなわち3Heを指標として、透水性が高くマグマ起源ガスの関与する熱水系と接続している場所、すなわち将来の噴火場となり得る場所を事前に知ることができる可能性がある。現時点では土壌ガスの採取と分析にそれぞれ相応の手間がかかるためにデータ取得のスループットが上げられないことが問題となっているが、本サブテーマで開発を進めている可搬型の質量分析計(Sumino and Hattori, 2022)などを用いることで、より簡便かつ迅速に分析できるようにすれば、地震観測や電磁気探査など地球物理学的手法とは異なる、火山体内部構造の把握技術を提供できると期待される。

引用文献
Obase, T., Sumino, H., Toyama, K., Kawana, K., Yamane, K., Yaguchi, M., Terada, A. and Ohba, T. (2022) Monitoring of magmatic–hydrothermal system by noble gas and carbon isotopic compositions of fumarolic gases. Sci. Rep. 12, 17967.

Sumino H. and Hattori Y. (2022) Development of a portable mass spectrometer for on-site analysis of helium isotope ratio of volcanic gas. 32nd Annual V.M. Goldschmidt Conference (Honolulu, Hawaii/online). Goldschmidt Abstracts, 2022 10047

寺田暁彦, 若松海, 水谷紀章, 角野浩史, 小長谷智哉, 大場武, 髙橋昌孝, 谷口無我, 髙橋祐希 (2023) 草津白根山における側噴火発生危険評価:土壌ガスの化学的特徴から示唆される火口周辺地下の物質輸送. 日本地球惑星科学連合2023年大会