日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC36] 火山・火成活動および長期予測

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:15 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、上澤 真平(電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境研究部門)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、清杉 孝司(神戸大学海洋底探査センター)、座長:西原 歩(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)

09:15 〜 09:30

[SVC36-02] 那須火山群,二岐山火山のマグマの起源:微量成分元素とSr-Nd-Pb同位体比からみた地殻・マントル相互作用の進化過程

*渡部 将太1長谷川 健1、松本 亜希子2、Festus Aka1中川 光弘2 (1.茨城大学大学院 理工学研究科、2.北海道大学大学院 理学研究院)


キーワード:玄武岩、デイサイト、マントル、地殻、部分溶融、二岐山火山

マントルで生成された高温の玄武岩マグマは,浮力中立となる下部地殻まで上昇し,ここではMelting,Assimilation,Storage,Homogenization(MASH)プロセスが発生する1.玄武岩マグマから結晶化してできた重い集積岩は下部地殻に付加され,結晶分別作用・地殻の部分溶融でできた軽い珪長質メルトは浅部へと輸送される1.このようなマントル起源マグマと地殻物質の相互作用によって,地殻が進化すると考えられる.本研究では,火山活動史が明らかになった那須火山群・二岐山火山を対象に,噴出物の全岩主成分・微量成分元素,Sr-Nd-Pb同位体分析を実施し,地殻・マントル相互作用の発達過程を議論する.
 二岐山火山は,約1.4〜1.0 Maの間に繰り返し噴出した白河火砕流堆積物群を被覆する.本火山の活動は,Stage 1とStage 2に大別される2.Stage 1(約16〜9万年前,約3.56 km3 DRE)では,主に溶岩流噴火を繰り返し,小規模な火砕流も発生した.その後のStage 2(約9〜5万年前の間,約0.09 km3 DRE)では,山体中央部に小規模な溶岩ドームが形成され,それに伴う火砕流も発生した2.本火山の全ての噴出物ユニットには,苦鉄質包有物が認められる.記載岩石学的特徴および全岩化学組成に基づくと,主要な岩石タイプは4タイプに区分できる.それらは,珪長質(F),苦鉄質(M),ステージによって区別され,F-1,F-2,M-1,M-2とする.F-1とF-2は斜長石,単斜輝石,直方輝石,不透明鉱物,石英(±),カンラン石(±)を含む安山岩〜デイサイトであり,M-1とM-2は,斜長石,単斜輝石,直方輝石,不透明鉱物,カンラン石(±)を含む玄武岩〜玄武岩質安山岩である.全岩化学組成では,ステージごとに異なる直線的な組成変化トレンドを示すことから,Stage 1ではM-1とF-1が,Stage 2ではM-2とF-2がそれぞれ混合したと考えられる.
 苦鉄質マグマ(M-1,M-2)は,比較的枯渇したSr-Nd同位体比(87Sr/86Sr = 0.7043–0.7046,143Nd/144Nd = 0.51275–0.51281)を示し,Pb同位体比は変質海洋地殻・堆積物・枯渇マントルを端成分とする領域内にプロットされ,高いBa/Th,低いZr/Smを示す.これらは,マントル由来の島弧玄武岩マグマの特徴5と一致する.M-1とM-2の最もSiO2に乏しい試料は,類似した液相濃集元素比(例えば,Ba/Nb,K2O/Rb)を示すことから,両者は共通のマントル物質から生成されたと考えられる.また,M-1が高いCr,Ni含有量(SiO2 = 50 wt.%のときCr = 200 ppm,Ni = 90 ppm)を示すのに対し,M-2は低い含有量(Cr = 30 ppm,Ni = 40 ppm)を示すため,M-2はM-1と共通の初生玄武岩マグマから,カンラン石・輝石をより結晶分別することで生成可能である.
 珪長質マグマ(F-1,F-2)は,高いZr/Sm,低いK2O/Rb,Eu/Eu*を示すことから,角閃石・斜長石を残存固相とした下部地殻の部分溶融で説明可能である6.F-1のSr-Nd同位体比(87Sr/86Sr = 0.7047–0.7049, 143Nd/144Nd = 0.51270–0.51274)は,白河火砕流堆積物群のひとつである隈戸火砕流7と類似し,F-2のSr-Nd同位体比(87Sr/86Sr = 0.7045–0.7047, 143Nd/144Nd = 0.51274–0.51278)は,M-1と類似する.Stage 1では,M-1が下部地殻に貫入して古い地殻物質(隈戸火砕流と同源)を溶融させてF-1を生成し,M-1は結晶化して下部地殻に集積岩(角閃岩または角閃石含有斑れい岩)を形成した.Stage 2では,M-1よりも分化した苦鉄質マグマ(M-2)がこの集積岩を再溶融することでF-2が生成されたと考えられる.各ステージでは苦鉄質・珪長質の端成分マグマが混合して噴出した.

引用文献:[1] Hildreth and Moorbath, 1988, Contrib. Mineral. Petrol. [2] 渡部・他, 印刷中, 地質雑. [3] Gill, 1981, Orogenic Andesites and Plate Tectonics. [4] Miyashiro, 1974, Amer. Jour. Sci. [5] Kimura and Yoshida, 2006, JPET. [6] Kimura et al., 2002, JPET. [7] Yamamoto, 2011, JVGR.